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佐久間 はい、どうもありがとうございました。せっかくの機会でございますから、ちょっと画面が見えにくい所もありまして、大変申し訳なかったんですけれども、何人かの方からご質問を受けたいと思います。
ご質問のある方?
質問 すみません。先程、臨界期の話を、先生なさっておりました。生まれてからどのぐらいの時期が脳の根幹の形成時期。それから、どのぐらいの時期までにしつけというものをきちんとする。愛情を一番大切とする時期と、それからそののちの、しつけをしなければいけない時期とあると思うんですけれども、その辺を教えていただければと思います。
 ヒトが新生児として生まれたときには古い脳は、ほぼ完成していますが、脳梁と呼ばれる左右の脳を連絡する神経繊維は未発達です。しかし、1歳くらいには脳は外界の刺激にどんどん神経回路を形成するものと考えられます。その辺は、はっきり言ってそこまで研究はやっていませんけれども、いろいろな知識からしますと、やはり愛情は生まれてすぐ、赤ちゃんを抱えると。これはおなかの中にいるときから、例えば語りかけが大事だと。あるいはクラシックを掛けますと、赤ちゃんは耳は聞こえますから、生まれてきて泣いていても、そのクラシックを掛けてあげることで泣きやむと。ですから、胎児のときから、そういう意味では語りかけることが大切だと思います。生まれてすぐ、やはりスキンシップ、語りかけ、そういったものは非常に大切だと思います。
 それから、あと臨界期の問題で、これはアメリカの、今14歳の男の子で医学部の学生というのがいるんですけれども、これはお父さんが日本人、お母さんが、確か韓国人だと思いました。普通の人ですけれども。生まれて8カ月から、本を毎日10冊ぐらい読んで聞かせた。IQは200です。妹も200です。ですからそれは、先程、遺伝的要素が60パーセントと言いましたけれども、やはり8カ月という時期というのは、脳の神経細胞のシナプスの数も非常に多くて、使わない細胞はどんどん死滅する時期なんです。
 ですから、そういう時期に、やはり映像は見せないと。そして、語りかける。本をたくさん読んであげることで40パーセントの環境的要素が大脳皮質で神経ネットワークを形成してくるのだと思います。子どもはそれを聞き入るためにおとなしくするわけです。ですから、聞く能力は持つようになってきます。そういうふうに、本を読んであげるという意味では8カ月ぐらいから、どんどん本を読んで聞かせてあげるということは大事だと思います。もちろん、語りかけも大切だと思います。そうすると、IQが非常に高い子どもとして育つ可能性が高いということです。ですから、映像は見ても訳が分からないわけですから、むしろ語りかけることが、非常によいということになります。
 子どもが自分で本を読む。「読みなさい」と言わなくても、大体2歳半ぐらいまで、自分で本を持って読む習慣。分からなくても本を見ると。そういうことをさせると、ずっと読む子になるというふうに言われています。これが、小学校に入ってから本を読みなさいと言ってもなかなか読まない。ですから、小さいときからそういうものを読ませてあげる。
 幼児が言葉を十分に使えない時期のゼロ歳、1歳という時期は、やはり絵を描いたり、積み木をやったりし、空間位置関係、右脳を発達させるということです。あと、自然と触れ合うことも右脳を活性化させることです。そして、2歳、3歳ぐらいになって、言葉がある程度言える年になりますと、右脳が活性化していれば、非常に感性豊かな子どもとして育っていきます。ですから、そういう意味では右脳の刺激というのは、小さいときからしておいた方がよいと思います。
 しつけは、もう、やはり小さいときからです。例えば、実際自分の妹の子どもの子どもですね、赤ちゃん。全然笑わなかったんです。毎日テレビを4時間ぐらい見せていたんです。4カ月間。全然笑わない。無表情。それで僕が会ったらやはり無表情で、聞いたらテレビ、ビデオを4時間ぐらい見させている。「駄目」ということで、今は見させていないんです。で、3カ月ぐらいしたら笑うようになってきました。そして、今は親がテレビをつけていると、今、2歳になっていますけれども、「テレビねんね」と言って全部消してしまうんです。ですから、逆に親が困っているという状態です。
 そういうふうに、小さいときからしつけをしていけば、テレビも無理に見ないし、自分からは本を読むようになってきます。ですから、やはり語りかけ、そしていいときはほめてあげる。そういうことは、小さいときから必要だろうというふうに思います。そんなところでよろしいでしょうか。
質問 どうも、今日はありがとうございました。大変新たな視点から考えさせていただくことができまして、大変ためになりました。3点ほどお願いしたいんですが、私は昭和36年生まれで、いわゆるゲーム第一世代と呼ばれる人間なんですけれども、「パックマン」とか「インベーダーゲーム」とか、最初の格闘技系のゲームで「熱血硬派くにおくん」と言うのにうつつを抜かしそうになったんですが、幸い運動のほうに目が向いたんで、ゲーム脳にならなくて済んだと思っています。
 今、私は教員なんですけれども、職員室にはパソコンが大量に入り込んできまして、ひょっとして先生の話を伺っていると、ゲーム脳ならぬパソコン脳になっているのかなというふうな心配を抱きました。大人になってからでもパソコン脳になる心配はあるのか。それから、もしそれを回避する方法があれば教えていただきたい。
 2点目は、平成15年に、私は偶然、先生が科学雑誌か教育雑誌にお書きになったのを、学活とか学年集会で話しまして、「これではいかん」と。やはり、ゲームをやっている子は多いんです。ですから、帰りの会というのがありまして、帰りの会の5分とか10分ぐらいの時間で漢字練習を始めました。これは、自分では効果があったと思っているんですが、それは分からないんですけれども、今見ると、お手玉のほうが良かったかなという反省になって、(笑い)帰りの会でお手玉のほうがいいのかという問題。
 それから、脳味噌の話なんですが、ニューロンとかドーパミンとかセロトニンについて、私もちょっと疑問に思っていたのでよく分かったんですけれども、一言だけ先生のほうからあった「海馬」と。多分「海の馬」と書くんだと思うんですが。これは刺激をつかさどる部分だと思うんですが、これのゲーム脳への関連と、それから海馬の働きについて、ちょっとお話しいただけると大変ありがたいんですが。以上3点、よろしくお願いします。
 パソコン脳という話ですけれども、やはり大人になって、パソコンを毎日、長時間やれば、漢字が出てこないというのは、一つの後遺症じゃないですけれども、一つは駄目になってきます。僕も、パソコンを使っていますから、それなりに字は出てきません。例えば黒板に書いていて、「あれ」、漢字が出ないときがあるので、そのときは別の言葉を選んで書きますけれども、漢字が出てこないということはあります。ですから、できれば日記をつけるということです。日記をつけて漢字が出てこない状態であれば、やはりパソコンばかりではなくて、本を読んでも、字を覚えるということをしないといけません。
 要するに、パソコンはどうして字を忘れるかというと、皆さん、字を覚えるときは手を動かすはずです。パソコンの場合はたたくだけなんです。ですから、指先からのフィードバックがいかないのです。それで、今、500分の1秒刻みで手の動きと、それから脳の活動と同期して、それを、調べ出したところです。ですから、パソコンを速く打っているときは、前頭前野の働きは低下しているけれども、そこで、「一句俳句」というかたちで思考させて、文章が出てくれば指の動きは止まる。そのときは、前頭前野が働くはずです。それを、今調べているところです。ですから、漢字が出てこないという状態は、ちょっと要注意ということです。ですから、日記を書くと。そういうことで、対処するということです。字が出てこないと、ついパソコンでぽんとやってしまうんですけれども、できれば、普通の辞書を使うというほうがいいです。
 それから、前頭前野にはお手玉がいいんじゃないかと。(笑い)これは漢字の練習も必要ですが、お手玉もいいと思います。あと俳句もよいです。書道も、短歌もよいです。ですから、いろいろやられるということがよいと思います。マルチの方がよいです。マルチの方が、脳はいろいろなものから刺激されることで、脳を活性化させるということがよいと思います。
 あと、もう一つ、海馬ですね。海馬はアルツハイマーと、私もちょっと萎縮をしているかも分からないですけれども、ゲームと海馬との関係を調べた研究報告はないですけれども、海馬の場合は、長期記憶や、新しいことを、いろいろと必要に応じて記憶されます。しかし、記憶したものを、例えば1時間、2時間後に引き出さない。例えば1日引き出さなければ、それは自動消去されます。
 それはセロトニンという物質が関与し、これは運動すると増加します。使わない情報は自動的に消去していきます。それが海馬とゲームということになると、今のところ答えは出ませんけれども、セロトニン欠乏状態が考えられますので、働きは悪くなるとは思います。ちょっとその辺の直接的な関係については、今のところ分かりません。よろしいでしょうか。
質問 今日は大変ありがとうございました。私は教育の立場で前頭前野でしょうか、人間らしさとか、人間らしい心を育てるほうに大変関心を持っておるものですから、そのこととの関係で、ゲーム脳のことをお聞きしたいと思います。ゲームをやればゲーム脳になって前頭前野の働きがなくなってしまうのか、それとも、先程先生がおっしゃっておりました、赤ん坊のときから目を合わせるとか言葉をかけるとか、それが前頭前野を発達させていくというか、ネットワーキングを作っていく働きを持つと思うんですが、それがじゅうぶん行なわれていけば、かなりゲーム脳に対する対抗力ができるのか。
 つまり、そういう、心を発達させる教育はどれぐらい意味があるのか。そのように心を発達させても、ゲームをやっていると、もうすっかり前頭前野が働かなくなってしまうのか。その辺が、教育としては極めて重要な着眼点ですので、具体的な方法は、心を発達させる方法はいろいろあると思います。原理上どうなのかということをお聞きしたいのです。よろしくお願いします。
 ゲームをやる時間だと思います。先程言ったように、1時間も2時間もずっとやっていますと、小学校時代はいいにしても、中学ぐらいになると、要するに、発達がある程度止まってしまいます。実際、小学生で10歳ぐらいになりますと、95パーセント発達してしまいます。中学に入ったころには、もう柔軟性はないわけです。そうすると、ものを覚えたりということは、非常に困難になってくる。ですから、絶対働かないかというとそうではなくて、例えばRPGみたいな、人を殺すようなゲームをやると一次的には活性化します。ですから、全く機能していないというわけではないと思うんです。そういう意味では、まずゲームをやって全く働かないのかというとそうではなくて、非常に働きが悪い状態になるということだと思います。
 それから、小さいときから、やはり目と目を合わせたり、それから語りかけたり。要するに会話です。小さいときは一方的かも分かりませんけれども、スキンシップを大事にして語りかける。その延長上であれば、会話も生まれてくるし、言うこともちゃんと聞けるというふうに、僕は思います。それが、ゲームの世界に入って会話がなくなってくる。そういう状態になると、やはり前頭前野の働き、それから人を思いやる気持ちとか、理性とか道徳心が失われてくる。そういうことがあると思いますから、それはやはり継続すると、子どもと会話を常に持つということは大事だと思います。そんなところでよろしいでしょうか。答えになっているかどうか分かりませんが。
質問 お聞きしたかったのは、前頭前野を発達させるように、常に働き掛けて育ててきた場合と、そういう働きがない、こんにちの子ども、多いわけです。その場合の比較で、いったい前頭前野が働くように、人間らしい心を育てていくこと。それが、もう片方にゲームをやるという生活実態がある。その片方に、人間らしい心を育てる教育をじゅうぶんに行なってくれば、ある程度ゲーム脳にならないで、ゲームのとりこにならないように育てることができるのか。それとも、人間らしい心を育てる働き掛けがほとんどないから、ゲーム脳に簡単になってしまうのか。
 そこで、先程お聞きしたかったのは、ゲームをある程度の時間以上やると、前頭前野の働きをかなり鍛えてきた脳でも、働きがなくなってしまうのかどうか。その辺が、教育を考えるうえでは決め手なものですから、それで原理上、そのことをお聞きしたかったわけです。
 小さいときは非常に言うことを聞いていい子で育っても、これはゲームをやれば、それは消えてしまいます。ゲームをやることで、前頭前野の働きが低下してしまいます。ですから、極端に言えば、ゲームを毎日2時間、3時間やれば、数年すれば、これはもう親の言うことは聞かない、自己中になっていく。ですから、そこに教育が加わっても、これは何の意味もないということです。
 ですから、家庭生活での、ある意味では生活習慣病みたいなものです。ゲームをやる時間を、極力15分とか30分というふうに短くしない限りは、いくらいい教育をしても駄目だと思います。要するに、その受け皿が駄目なんですから。ですから、ゲームをやる時間は15分とか30分に減らして、そしてしつけをすれば、それなりに育つというふうに思います。ですから、ゲームをやる時間が1時間、2時間と長くなれば、いくらいいしつけをしても、それは意味がありません。ですから、その子にとっては、前頭前野の受け皿はない状態ですから、ほとんど駄目だというふうに思います。よろしいでしょうか。
 
最後に・・・
高橋 皆様おつかれさまでございました。臨界期ということをよく問題に致しますが、生涯発達という視点も忘れないように。よく3歳まで、8歳までが大事だということを言いますと、講演会に行きますと、そんな話をもっと早く聞けばよかったとか、今から聞いたら落ちこんでしまうとか、あるいは自分を責めてしまうという方もいまして、感性とか心というものは確かに脳の発達段階に応じて適切な働きかけが必要だけれども、一生かかって自分の脳や心や感性は育むという、生涯に発達していくという視点も大事なことでございますから、私たち自身が自分の脳や心や感性を一生かかって、いわば生涯学習で育てていく。親学はそういう意味でも自分自身が自分の感性、脳をはぐくんでいくという視点であろうかと思いますので、そのこともぜひ一言だけ付け加えさせていただきます。今日は大変素晴らしい説得力のある画像を見せていただきながら、皆さんも大変印象深い感想をお持ちかと思いますが、これから感性・脳科学教育研究会の活動を通じて、更に深めて参りたいと思います。これから第2回、第3回とセミナーを続けて参りますので、奮ってご参加いただければと思います。どうもありがとうございました。(拍手)







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