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 ドーパミン、これは一種の麻薬と同じで、快楽を引き起こすわけです。ですから、ゲームをやるとドーパミン神経が刺激されてドーパミンが出て、そして側坐核の古い脳を刺激して、一種の快楽を引き起こします。ですから止められないんです。セロトニン神経と下に書いてありますが、これは脳全体に分布して、セロトニンを出します(図22)。このセロトニンは、脳の働きを調節する働きがあるわけです。これは運動すると出るんです。運動するということは、脳の働きを非常に良くします。ですから、私たちがボーっとしたとき、ちょっと散歩をするだけで脳の働きが良くなります。それはセロトニン神経の働きによるのです。
 
ドーパミン神経(a)とセトロニン神経(b)の脳内の投射系
 
 セロトニンが欠乏すると、表情が非常に悪くなります。姿勢の維持が悪くなります。姿勢、これは戦後貧しい時代、子どもたちは食べ物もない、遊び道具もない。走ったりけんかしたりという時代があったわけですけれども、目はきらきらして、姿勢は非常に良かった。これは運動をしていたからです。今の子は、運動といってもゲームですから全身を動かすことは非常に少ないのです。ですから、セロトニンが欠乏状態です。それから、痛みに非常に過敏です。昔の子どもはひざを擦りむいて血が出ても泣かない。我慢できたけれども、今の子は我慢ができません。不眠症、それから自律神経の乱れ。ゲーム以外集中できない。そういったことが、セロトニン欠乏によって起こってきます。
 これは、幼児に語りかける重要性。例えば、「象さんというのは鼻が長いんだよ」という話をゼロ歳の子にすると。そうすると、赤ちゃんは分からないだろうと思っても、赤ちゃんなりに脳の神経回路を作ろうと努力するんです。ですから、それは聴覚野に入って、そして、このウェルニッケ野に情報が送られ、その「象さん」と「鼻が長い」というものが、ここにファイルされていくのです。そして、それはブローカの中枢に情報が送られて、そしてここで「象さん」という言葉を生み出すわけですけれども、そして口音化するためには運動の出力細胞のある運動野に情報が入れられます(図23)。
 
幼児に語りかけているとき
 
 赤ちゃんというのは母親の口元を見て、「ああ」とかまねごとをするというのは、それを聞いて脳内の神経のネットワークを作ろうと、赤ちゃんなりに努力しているんです。それをしているときに、目は合わせない、お母さんはテレビを見ている。そうすると赤ちゃんは、これは目と目を合わせないものだ。話をしないわけですから、そしてテレビ漬けになれば、この映像だけはここに入ってきます(図24)。訳の分からない映像が入ってきます。そうすると、脳のネットワークは作られないということになるわけです。
 
幼児がTV、ビデオを見ているとき
 
 そして、絵本を読んで聞かせるということは、例えば「象さん」というのは、絵本を見せると、目からの情報が視覚野に入って角回に入ります。そして、象さんというのは鼻が長いという絵本が出てくると。そうすると、それを言語化するためにウェルニッケに入ります。そうすると、絵を見ただけで、子どもは「象さん」という言葉が出るようになります(図25)。要するに、神経ネットワークを作ってあげる。それが非常に大切であろうと思います。
 
幼児に絵本を読んで語りかけるとき
 
 これは非常に有名な図ですけれども、カルガモというのは、生まれて目が開いたときに最初に動く物体を見たときに、それを追い掛けるという習性があるんです。ですから、餌をあげていたおじさんが、最初に目に入ったと、自分の親がこのおじさんというふうに、もう刷り込みが入ってしまうんです。そうすると、このおじさんのあとを、ずっと子ガモは付いて歩くということになります。
 これは、視覚のいろいろな研究があるんですけれども、縦じまの中で生まれてすぐ、猫を飼育してやると、この猫は縦じまを見て生きると。しかし、こういう中で飼育して半年、1年して、この猫がどういうふうに見えているかと調べると、この猫は縦じまは見えるけれども横じまは見えない猫になってしまいます。要するに刺激、こういういろいろな角度の刺激を与えると、ここの角度は全く見えないんです。ですから、水平というのは見えない猫になってしまいます。そういうことが分かってきたわけです。
 例えば生まれてすぐ片目を覆ってしまう。そうするとその猫は、一生片目は見えなくなってしまいます。それは、視覚情報が入るべきときに入れてやらないと、視覚情報は視覚野の細胞、あるいは視床という場所の細胞は働かなくなってしまいます。従って、臨界期という、非常に細胞が活発に働くときに、そういう刺激情報を入れてやるということが大切なのです。
 そういった研究をしたのが、このロックフェラーの学長ですけれども、視覚領域でノーベル賞を取ったDr.ヴィーゼルです。こっちは僕ですけれども。ちょうどパーティーに呼ばれてロックフェラーに行った時に、ちょうど一緒に撮ったものです。以前に、ヴィーゼルから、論文請求が来たことがありますけれども、それは、脳の中のネットワークを調べた論文です。
 こんなところで、時間がオーバーしているかも分かりませんけれども、一応これで講演のほうは終わりにさせていただきます。どうも、長い間ありがとうございました。(拍手)







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