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 先日、東京都の指導部長、高校教育課長、義務教育課長にお会いしました。全日本きものコンサルタント協会の専務理事と一緒にお会いして、ぜひ新しい教科の中に和装礼法というものも考えていただきたいと。そして和装して礼法をしながら子供たちの脳がどうなっているのか、伝統文化を継承する体験活動の中でどんなに前頭連合野が活性しているか、そういうこともぜひ研究していただきたい、教育界に導入するということについて検討していただきたいということもお話をしてきたわけでございます。
 次に、「日本の文化の感性と21世紀の教育」という32ページを見ていただけますでしょうか。ちょっと大急ぎで皆さん目が回るかもしれませんが、脳は活性化しているかもしれません。(笑い)なかなか眠れない。後でゆっくりと全体を見てくださいね。「日本文化の感性と21世紀の教育の課題」の所の、下の所に引用していますね。資料を張り付けておりますが、中教審答申です。平成14年の中教審答申にこのように書いてあります。「教養を形成するうえで、礼儀・作法をはじめとして型から入ることによって、身体的感覚として身に付けられる修養的教養は、重要な意味を持っている。このためにも私たちの思考や行動の模範となり、教養の基盤を形成しているわが国の生活文化や伝統文化の価値を改めて見直す必要がある」と。これが文部科学省の審議会の中央教育審議会の答申です。伝統文化の価値を改めて見直す必要がある。これを教育の中にどんどん取り入れていく必要があるわけです。
 全日教連は、美しい日本人の心を育てるということをずっと一貫して取り組んでこられました。道の文化ということについても、私は今日のこの資料の中で4番目にそのことに触れております。
 もう時間がないので簡単に申し上げますが、夏目漱石がこういうことを言ったのですね。「近代の日本の歴史は、文明を得て文化を失った歴史である」と喝破しました。その場合の文明というのは、ヨーロッパの近代文明を意味しています。文化を失ったという文化は、日本の精神文化を意味していますね。まさにその近代という時代の、あるいは近代以降の教育の、つまり「近代化」というものを目指した教育の一つの欠点を見事に言い当てているわけです。そういう中で、日本人は自然を活用するという文化、自然を生かすという文化を大事にしてきました。
 私よく西岡常一さんの例を出すのですが、西岡常一さんは宮大工の棟梁でありました。法隆寺に修学旅行に来ている子供に何て言って先生が説明しているか聞いていたら、「法隆寺は1,350年の歴史があって、古いから尊いんや」と言っている。「古いから尊いのだったら、道端の石ころは5億年の歴史や」とこう言っているのですね。(笑い)古いから尊いというそんな話はしてほしくない。その飛鳥建築の「生きた知恵」を伝えてもらいたい。文化というのは「生き方」なのですね。その生き方というものを、今子供たちがいかに生きるかということに生かされてこなければ、それは生きたものにはならないのです。
 「自然活用の寺院建築」と書いてありますが、飛鳥建築は木の癖に合わせて建築をしている、人間に合わせて造っているのではなくて。人間に合わせるのは、利用するという西洋文明の発想ですね。人間に合わせて利用しようという発想から地球環境の破壊がきたのですね。外なる自然破壊は、その人間中心主義、自然帝国主義の帰結であります。その人類の危機を救うものは、日本人のものの考え方や生き方ですね。それは自然を活かすという生き方。そこに「学、活、従の精神」と書いて、自然から学び自然を活かし自然に従うという精神。あるいは、自他補完の結びの精神。帯を結ぶというのもまさに結びの精神です。それはまさに自他補完という美しい日本人の大事な心の表れであります。
 「徒弟制度」とそこに書いてありますが、師匠から弟子は学ぶ。それはマニュアルで学ぶのではなくて、型を模倣するという、型を模倣しながら勘を会得する。これが感性であります。勘を会得する。
 私がよく例に出すのは、新潟で俊一くんという登園拒否をしていた子がいて、小学校でも学校に来られなかった子が、赤倉神楽という伝統芸能を地域の人と一緒に踊りながら、手と足のバランスの取れる瞬間があるのですね。その瞬間を伝統保持者が見抜いて、にこっと笑って「俊一くん、分かったね」つまり「勘を会得したのだね」ということを言うのです。それを何回か繰り返して、3カ月ぐらいで見違えるように変わりましたね。そのお話をアルフォンス・デーケンと言う死の準備教育の上智大学の先生と対談していたら、「あなたの言っていることは、ティーチャブルモーメントと言うのだ」と言いました。「教えることができる瞬間」というのがあるのだと。それは子供の気付きが変わった瞬間、子供が勘を会得したというその瞬間に、それを見抜いて、それを見抜く感性がないと駄目だと。そこで肯定的な言葉をかける。その時に、子供は「ああ、僕のことを分かってくれている」という自己肯定感が広まって、その延長線上にどんどん元気になっていくと、こういうわけです。
 村上和雄さんが大変興味深いことを言っているわけです。蓮田高校という、大麻で4人逮捕されたという事件がありました、僕がそこで講演をしたのです。200人の3年生の定員の中で、退学している人が100人を超えています。1学期の指導で指導拒否というのが圧倒的に多い。私が行きまして「起立、礼」と言ってもほとんどだれも従いません。校長先生のあいさつもあまり聞かない。僕も演壇に立ったのですけれども、いつも「生き生きわくわくしていますか」と聞くのですが、だれを見ても生き生きわくわくしていないので、「自分が好きですか」という自己肯定感があるかどうかを聞きました。ほとんど答えてくれませんでした。つまり黙殺ですね。それで、これはもう親身になって心施に徹しようと心に決めて、人間の生き死にかかわる話を徹底して話しました。子供の心の琴線に触れるもの、生き死にかかわることなのですね。一生懸命聞いてくれました。1時間でしたが、終わったあと多くの高校生が拍手をしてくれました。感想文を見ていたら、すごく感動的でした。たった1行しか書いていない子がいました。「心が温かくなる話をありがとうございました。今日の話は一生忘れません。こんなに一生懸命話してくれた人はいなかった」と言いました。それはうれしくもあり悲しくもありました。なぜ悲しかったかというと、それは大人たちが引いてしまっている。金髪やスキンヘッドや眉毛のないのがいると、みんな引いてしまう。私はそういう高校生を見ると情熱が熱情にヒートアップしまして、今日はこの子のためにしゃべろうと思うわけですね。中に400字1枚に「時計さん、長針短針別れちゃう」と、私はいつも障害児の川柳の話をするのですが、このことについて400字書いたのがいるのです。「時計さん、長針短針別れちゃう」何のこともない、私たちから見れば当たり前のことですね。でも親から離れて施設に入っている障害児にとっては、やっと会えたと思ったらすぐ離れる。「やっと会えたと思ったらすぐ離れる。何と悲しいのだろう」という、自分のお母さんとのことでそう詠っているわけです。それを400字書いた高校生がいる。この子たちは半分以上が退学しているのに、私は感想文を全部読んで、本当に健全な高校生たちだと感動しました。いろいろな高校生の感想を読みましたが、こんなに健全な高校生はいないと思った。でもそれは大麻で4人が逮捕され、半分が退学してしまうという学校です。それは何が問題か。それは、大人たちのかかわり方の問題だと僕は思ったのです。心に向き合っていない。心を込めて、心を尽くして、心を伝えていない。こんなに真剣に話してくれた大人はいなかったというのは、さみしい話です。それは、大人たちの問題ではないかと思ったのです。その高校生が一番反応したのは、この文章です。これも紹介したのです。「思いが遺伝子の働きを変える」というので、「楽しい、うれしい、喜び、感動、感謝、信念、そういう教育者の、良い思いが子供の遺伝子をスイッチオンにする」と、こう言っているのです。「自分の信念をどこまでも強く貫き通し努力を続けているとき、天の味方がやってくる。幸運は努力の結果、準備された心に下りてくる」この文章に一番感想を書いたのが多かったのです。
 さて、もう時間がなくなりましたけれども、日本の文化について、こういう特徴があるのではないかということの整理をしております。特に道の文化、礼の文化ですね。道の文化は32ページの4番に書いておりますが、生活行為を人格陶冶の修練の場にするという。日本人は、その道の文化を作り上げてきました。礼の文化、道の文化、これはまさに今、学校教育や家庭教育で取り戻す必要があるものであります。
 さて、もう一つだけ皆さんの資料にありますのは、人権教育に関するPTAの記録を記載しております4〜6ページです。これは第52回日本PTA全国研究大会で、昨年の夏に北海道で行われたPTAの全国大会です。私はここで、人権教育の基調講演をさせていただきました。
 高橋が人権教育の基調講演をするのかと意外に思う方がいるのですけれども、私が基調講演をして、そのあとパネラーとして「全国同和教育研究協議会」という同和教育に一生懸命取り組んできた全国組織の委員長がパネラーの一人に、それからアイヌ差別に取り組んできた方、文部科学省とで討論しました。私の講演が終わったあと、私のテーマは「感性を育てる人権基礎教育」という話をしたのですが、それに対して全国の同和教育をやってきた委員長はこういうコメントをしました。ちょっと見にくいのですが、これが右のほうに載っています。「高橋先生の話を聞きながら、人権基礎教育でおっしゃっている事柄は今まで大事にしてきたのだけれども、私たちの積み上げてきた同和教育の成果と教訓ともうまく結び合う。一層人権教育というのは発展するのかなと思っています。何をおいてもやはり、教師が変わる、親が変わるとおっしゃったのは、僕ももう実感なのです」つまり北海道の人たちは、高橋史朗と同和教育の委員長がガチンコ対決すると思って来たのですが、私の言ったことに全く反論されませんでした。それはなぜ反論されなかったかと言いますと、私はイデオロギーでものを言ったからではないからです。
 人権教育というのは、相手の、子供の人権を尊重するという心は、自分を温かい目で見るという自尊感情がなければ、相手の人権を尊重することはできないのです。つまり、自分を温かい目で見るという「感性」を育てることが、人権教育の基礎になるのです。これが人権基礎教育という考えです。平和教育も一緒なのです。
 今日皆さんに最後に配った36〜38ページの資料ですね。これは日教組が戦後50年の時点に、日教組の中央が作った「もう一つの『平和教育』」という本です。サブタイトルを見ると「反戦平和教育から平和共生教育へ」というサブタイトルが付いています。私はびっくりしました、日教組が反戦平和教育というものを否定したのかと。私のことも引用していまして、これはあとで見ていただきたいのですが、「楽しい平和教育」、これが日教組の目指してきたものだと。37ページの22行目、「それは自己を変え、社会を変えていく楽しい実践の道であるはず・・・。それは日教組が歩もうとしてきたものです。」と、こう書いてある。ほーっと思いましたね。なぜ日教組はそういう平和教育の転換を図ろうとしたか。沖縄の平和教育が変わったからなのです。
 沖縄の平和教育が変わったのは平成5年です。沖縄県教職員組合のばりばりの活動家たちが、教育委員会に入って方向転換を図ったのです。何を大事にしたか。38ページの2行目です。「他人の立場を理解し、思いやりの心、寛容の心を育成する。平和を尊ぶ心を育成する」と。
 38ページの14行目、ユネスコ憲章には「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と、これを重視して、そしてもう時間がないので38ページの19行目に行きます。「非人間的な残虐な写真、フィルムなどを示し、人間の醜い面を強調し過ぎて、幼児・児童が人間不信に陥ることがないように特に留意する必要がある」と、こう言い出したのです。そして「平和はよりたくさんの喜びを生んだ喜びの母なのだ」と。これは子供の作品です。
 平和教育の指定校を全部回りましたが、「さおが曲がるカツオが空で鳥になる」、こんな標語が石碑になっているのです。そういう平和な心を育てることが、平和教育の大事なこれからのあり方だと、こう考えて沖縄は転換しました。そして、それを受けて日教組が転換をしたのですが、今この本は絶版である。また元に戻ってしまった。
 私がなぜこの話を最後にしたかと言いますと、この戦後の60年間、日本の戦後の教育界は不毛なイデオロギー対立を繰り返してきました。それを越える新しい教育改革を起こしていくことが、今この国に求められていることであります。そのためには、何が子供の心を育むか、何が子供の脳を育むかという教育の不易に立脚して議論をしていくことが大事な、これが子供のためなのです。今は子育て支援も少子化対策も親のため、働いている労働者のため、これが優先されています。親の都合が優先されて、子供の最善の利益が侵害されていると私は感じています。児童の権利条約は第3条に「児童の最善の利益を第一義的に考慮する」と言っている。何が児童の最善の利益になるか。それは、目先の利益を保障することではありません。子供の人格を育て、子供が自分で自分を抑止できるようなそういう心を育てること、脳を育むこと。これが子供のためであり、このことが今、われわれに求められていることでございます。
 そして、それは日本の文化、伝統文化というものをもう一度創造的に再発見して、私は今埼玉県の教育委員として、埼玉県の中でモデルを作っていこうと思っております。親学のモデルと、教師を育てる教員養成のモデルと。その親を変え教師を変える、これを主体変容と言います。教育する主体が変わること。子供を変えようとしても子供は変わりません。大事なのは教育者、親と教師が変わることであります。そしてリーダーを育てることが大事であります。日本の文化を受け継ぐというこのカリキュラムや方法や、そういうものをもっとこれから親や教師に広く広げていくリーダーを育てる必要があります。そういう研修の場をぜひ作っていきたい。本日のこの感性・脳科学教育研究会はそのためにスタートしました。全国の都道府県でこの研究会を発足させたい。そのためにこれから全国に向けて、そして全世界に向けて発信していきたいと思います。
 ちょっと時間をオーバーしました。たくさんの資料を使って皆さん混乱したかもしれませんが、全体をよく見ていただいて、今何をしようとしているのか、それをぜひご支援いただければと思います。ありがとうございました。







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