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はじめに
 当財団が本事業を開始した平成14年度は、小学校で総合的な学習の時間の導入が開始された時期と重なり、教育現場も、またそれを支援する外部機関も、新しい授業時間枠にどのように対応したらよいのか暗中模索している時期でありました。以来3年間、全国各地でさまざまな取り組みが実施された結果、その課題や効果などが徐々に見えて来つつあるようです。しかし同時に、平成17年2月の中教審総会における文部科学大臣の発言にもあるように、教育改革の流れは確実に進んでおり、授業時数を含めた学習指導要領の見直しなどが検討されるなど、いまなお教育の現場は模索を続けている印象を受けます。
 
 ゆとり教育に対する批判の高まりを背景に、総合的な学習の時間に対する社会の認識も賛否両論あるようですが、学校教育に支援を行おうとする我々外部機関にとっては、この時間枠は願ってもない機会であり、また教育現場にとっても外部との連携を進める好機となったことは疑いのない事実です。従来の教材配布やイベント的支援などの一方通行の教育支援に対する限界と、その打開策としての学校と外部との「連携」「協働」の重要性は以前から指摘されてきましたが、総合的な学習の時間という機会を得て、はじめて課題やその効果がより明確になり、真の意味での連携や協働への道が見えてきたと言えます。
 
 本事業においては、教員との「協働」をキーワードに、我々のような海洋研究機関と教育現場との連携のあり方について、3年間にわたり教員との様々な実践を通じて検討を重ねて参りました。海洋教育が学校内で普及しない理由は様々あると思われますが、少なくとも学校教育の場で海洋を取り上げるよう働きかけるのであれば、まずは現場が抱える課題を整理し、より良い方策を検討しなければ、働きかけは徒労に終わりかねません。学校教育については学習指導要領や教科書および文部科学省の取り組みなど、大所高所からの議論が多くなされてきましたが、それに加えていま一度現場の視点に立ち返って、先生たちは何を求めているのか、一方で我々は何を伝えようとしているのか、対等の立場で議論すべき時期に来ていると考えます。そしてまた、こうした取り組みこそが、教育現場と研究現場双方に良いシナジー効果を生み出すものであると、確信しております。
 
 最後になりましたが、本事業を推進するうえで様々なご指導ご協力を賜りました教育関係者並びに海洋関係者の皆様、そして事業実施にあたり競艇交付金による多大なるご支援を賜りました日本財団に心から感謝申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
 
シップ・アンド・オーシャン財団
会長 秋山昌廣
 
現時点での結論
 14〜16年度まで3年間の事業を通して、現時点で得た結論は大きく次の三つに集約される。
 
 学校現場で海洋教育を普及浸透させるためには、外部の支援機関が
 
結論1:産みの支援と育ての支援の併用により波及効果を目指す必要がある
 
結論2:各関係者とのパートナーシップを築く必要がある
 
結論3:支援機関同士で連携する必要がある
 
 そして1〜3の各結論はそれぞれに次のようなキーワードとなる事柄を持つ。
 
結論1のKey:産みの支援と育ての支援の併用
 
結論2のKey:海洋教育に欠かせない各関係者とパートナーシップ
 
結論3のKey:支援のムダ・モレ・ダブリと支援機関の連携
 
 この報告書では、14〜16年度までにSOFが行った海洋教育拡充のための事業を振り返り成果をまとめ、今後のより着実な海洋教育の普及浸透への航路を見出したい。
 
背景と目的
 従来、海洋教育は「海事思想の普及」として認識され、学校教育課程の中ではなく博物館や外部機関などにより実施されてきた。そのため小学校や中学校で海の重要性が積極的に語られることは極めて少ない状況が続いた。
 また、学校教育課程に存在していた海に関連する学習内容も徐々に失われ、現在では理科や社会など教科の一部に海の関連する事項が断片的に掲載されているに過ぎない。そして、海水浴離れなども加わり、子どもの海離れは増々顕著になりつつある。この事態に対し海洋関係者の間では子どもや大人の海離れを危惧する声が出始めた。しかし具体的な解決策として聞こえる声には、学習指導要領の改訂や教科書の内容変更を求めるべきといった、本質的ではない内容も聞かれた。
 当財団では、平成13年度に試験的に調査を行い、14年度より事業として本格的に乗り出した。平成14年は小学校と中学校で「総合的な学習の時間」(以下、総学と略)が導入された年である。学校は一定の時間枠を自由に設計し、独自性をもった学習活動が展開できえるようになった。これにより企業や我々のような公益法人が、講師派遣や学習支援など様々な形態で学校と関わる機会を得られるようになった。
 しかし、これまで学校現場では海洋教育を共通のテーマにした外部機関との協働事例はほとんど無く、また外部機関にとっても学校の正式な授業に支援・協力を提供する経験も無かった。機会を活かすためには、双方の効果的な連携の仕方を模索する必要があった。
 そこで最終的な目標を学校内で海洋教育を普及浸透させることとし、14〜16年度は、学校現場の実態把握、可能性のある手法の試行を実施した。
 
目的
14〜16年度の事業目的は、
教科学習、総学、課外学習など、学校制度内での時間的位置付けは問わず、
海の重要性を理解する学びが行われるための、
外部機関が行うべき効果的な支援体制を見出すこととした。
 
課題の移り変わり
 事業を進めるに当り常に課題が存在し、事業の経過と共にその内容も移り変わった。各年度に認識していた課題を大きく整理すると、次のようになる。
 
・14年度の課題
観点:学校は海をテーマにした総学を行うか?
課題:学校に海をテーマにした学習を扱う余地を確認すること
 14年当時は総学の登場により外部機関と学校の連携が促進されるであろうと期待した。しかし、だからといって必ずしも学校が海洋教育を展開するという訳ではなく、我々にとっては他の学習テーマとの競争が存在するため、総学を主な機会とした場合に、どの程度の余地(市場)があるのかを把握する必要があった。その結果、学校には我々が参入する余地があると結論づけた。
 
・15年度の課題
観点:どうすれば学校が海をテーマにした総学を行うか?
課題:学校が海をテーマにするためのトリガー(条件)を見つけること
 14年に学校が持つ機会や環境自体に余地を見出したものの、その中で海の学習を実施するパートナーとなる教員の特性について把握しなくては机上の空論に終わると感じた。そのため教員から直接的にニーズ等を聞ける機会を持つことで、教員のニーズ把握に努めた。その結果、学校や教員が海をテーマにした学習を実施するに至るまでの、重要なトリガーをいくつか見つけることができた。
 
・16年度の課題
観点:どのような支援を行うべきか?
課題:効果的な支援の内容と方法を見つけること
 14と15年度を通して、学校に機会が存在し教員が海の学習に魅力を感じたとしても、学校が実際に海の学習を実施するためには、外部機関による適当な協力と連携が必要であることが判った。16年度は、確実性が高く波及効果が期待できる支援方法を見つけるための試行が必要となった。
 
・3年間に共通する課題
 3年間に共通する課題として、我々が学校の特性や環境の移り変わりを充分に理解しようとし、支援体制や内容を見直し続ける姿勢が挙げられる。我々外部の機関の目論みを直接的に学校へ提示したとしても、先方の目論みと合致しない限り、協働は成立しない。
 この基本的なことを度外視した取り組みは、多くの企業や公益機関によって様々な名目で行われてきた。最も顕著なのが、副読本の配布である。学校側のニーズが全く盛込まれていない副読本を学校に送りつけ、「授業などでお使い下さい」とする取り組みである。これは、そのまま書庫に眠ることが多く、双方にとって非常にもったいないことである。
 我々にとっては、いかにこの現象に陥らないようにするかが、3年間に共通した課題であった。


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