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MEHに関する韓国の参加およびその見解
SOF海洋政策研究所 韓 鍾吉
1. 韓国の海洋電子ハイウエー(MEH)構想への参加経緯
 韓国は、IMO(国際海事機関)の要請を受け、2002年5月から、国際動向の把握とそれの韓国としての対処策の検討を目的にMEHへ参加している。
 韓国は、2002年のMEH第3回運営委員会から参加し初め、2003年12月のMEH第4回運営委員会に、政府関係者と民間の海事IT企業関係者となる4人の代表を送り、MEHに関するモデル事業の事業計画書の検討およびMEH事業の発展方策を韓国の立場から提示している。
 
2. 韓国のMEHに対する立場
 韓国商船隊のマラッカ・シンガポール海峡利用は、1995年時点で、韓国支配船隊の2.3%、交易に占める海上荷動き量は6.3%であった。韓国船舶の汚染事故などにより、同海峡の利用が停止されることを仮定すると、1000マイル以上の迂回航行が必要となり、時間的・経済的損失が予想される。また、韓国がMEHに参加することを忌避することにより、国際的に国際安全施設のFree Rider(ただ乗り)として汚名も憂慮されることもMEH参加の理由である。
 韓国のMEH事業参加に対する予想期待効果は、次のとおりである。第一に、アジア域内の海洋安全・環境保護に関する主導的な役割を遂行することで海洋国としての地位を高め、海峡区域内における韓国籍船舶の海上保安と安全を確保できる。第二に、MEH事業に参加することで、海洋環境保護の努力に対する国際的な地位の向上を図ることができる。第三に、韓国の「海洋安全総合情報ネットワーク(GICOMS)」(後述)構築を通じて蓄積された海洋安全に関する先端技術を利用してMEH事業構想の今後の発展モデルを提示できる。
 そのために、韓国は、第一にMEH事業構想を海洋安全分野における国際協力モデルとして発展させ、またMEHにおける中枢的な役割を遂行するための発展方向を提示する予定である。第二に、現在のMEHの概念に最新のIT関係の海洋情報技術を導入して情報利用の高度化を図り、また運航船舶や船社などへの情報提供機能と位置確認サービス機能の拡大を目指す予定である。そして第三に、情報技術を基に関連国家間のネットワーク構築及び有機的な国際協力体制の強化を図る予定である。
 以上の理由から、MEH事業に対するIT技術提供など、韓国の実質的な参加方案を積極的に検討していくことにし、韓国のMEH事業参加に関する意思を示す文書をIMOに回章した。韓国は、有力な海峡利用国として、今後いかなる形態にしても財政的な寄与をしていかざるを得ないことから、東南アジア海域の安全強化とMEH事業の発展のために今後3年間約75万US$を提供する予定である。そのために2005年度の予算要求に際し、IMOに提出する事業計画書と財政分担金(約10億韓国ウォン)を盛り込んだ。これは、同海峡のMEH全面構築の際に必要な事業の全体予算(4000万US$)を国際機関40%、沿岸国30%、海峡利用国30%の割合で拠出することを想定し、海峡利用国の分担金が海上荷動き量で決まると仮定する場合、韓国の分担金は4000万US$×30%(利用国)×6.3%=75.6万US$(約10億韓国ウォン)となったものである。
 
3. MEH事業の発展方向
 韓国は、第3次会議および第4次会議で、韓国のGICOMSとMEHの類似点、連携可能性を説明し、それを基にMEHの発展モデルを提示し、今後のMEH事業推進に韓国の技術的な参加及び寄与の意思を表明した。韓国の先進的IT技術力及び海洋安全・環境保護に関する政府の強力な支援を基に、今後MEH事業に関連技術を提供する意思があることを明確にした。
 特に、韓国のGICOMSに採用する予定の多様なIT技術がMEHモデル事業の構成要件を充足しており、同事業の経験と技術の提供のために、今後韓国がTechnical Working Groupに参加する意思を示した。 韓国は、2003年10月の第3回運営委員会で、GICOMS事業を紹介し、MEHを国際情報連携および協力ネットワークとして発展させることで、海上安全と保安を総合的に管理できる世界的レベルの海洋危機管理システム構築ビジョンを提示し、世界銀行などの関係国際機関もそれに興味を示した。
 第4回運営委員会の際に韓国が発表したMEHの今後の発展方案に対して、IMOの海洋環境部長からは、韓国側の努力に感謝を表し、韓国の蓄積された技術と経験が今後のMEH事業に多くの貢献ができるとし、韓国が提示した内容と今後のMEH事業におけるTechnical Working Groupへの参加意思をIMOに公式に提示するよう要請が行われた。
 とくにIMOの海洋環境部長は、この2年間での事業計画の立案に際して、MEH Data Centerの対する概念がまだ明確にされてないことが問題であると指摘し、韓国が提示したGICOMSの基本概念がMEHに導入されるべきことに同意した。
 MEH事業は、船舶自動識別装置(AIS)、船舶通航管制(VTS)、電子海図(ENC)、電子海図表示装置(ECDIS)、衛星航法情報システム(DPGS)、潮流情報システムなどの海洋安全に関する先端システムで構成されるが、韓国は同分野に対し国内での技術及び経験が蓄積されている。今後MEH事業の発展方向は、韓国が推進中のGICOMSをはじめとする各国の海洋安全システムと連携される総合情報システムへと発展していくべきである。そして、同海峡の海賊及び海上保安問題も、海峡沿岸国及び海峡通航に理解をもつステークホールダーズとの協力が必要不可欠であり、国家間の情報の共有化を進めていく必要があり、MEH構想においても海賊対策および海上保安の概念を含んだ形で発展させるべきというのが韓国政府の見解である。
 
4. 韓国の海洋安全総合情報ネットワーク構築事業の概要
 韓国は、海洋における安全確保を目的に、2001年から2007年までに200億韓国ウォンを投じて、海洋安全総合情報ネットワーク(GICOMS、General Information Center on Maritime Safety)の構築を目指している。ここでは MEHと関係が深い韓国のGICOMS事業について概略する。
 
4.1. 推進の背景及び必要性
 この事業は、第一に、海上人命安全条約(SOLAS)および船舶・港湾施設の保安規則(ISPS Code)に関する国家的義務事項の施行の必要、第二に東南アジア海域などの海賊からの韓国の船員・船舶・物資の保護および沿岸・EEZ・遠洋海域船舶に対する海上安全・保安の総合管理及び支援、第三に機関・団体別に分散運営されている海洋安全関連情報の総合管理および対国民・対機関サービスの提供、海洋事故に対する状況把握・情報提供・広報・管理および迅速な対応体制構築、などの四つをその推進背景と目的としている。
 
4.2. 事業計画概要
 同事業の期間は、2001年から2007年までであり、事業の対象となる範囲は、第一に海洋安全総合情報の連携及び海上交通安全支援体系構築、第二に海洋安全状況管理システム構築、第三に船舶位置追跡管理システム構築の三つとなっている。
 当該事業は、第一に、遠洋および沿岸の船舶位置追跡管理システム(VMS)の構築、第二に、船舶通航管制(VTS)、船舶自動識別装置(AIS)、および船舶位置追跡管理システムの統合による海上交通安全支援体系構築、第三に衛星遭難通信所(LUT)、救助本部(SAR)、海上交通放送(NAVTEX)など航行安全情報の連携および総合情報サービス基盤の構築、第四に、海賊出没予想地域の沿岸国との間の24時間の情報共有および協力体制構築、などを主な内容としている。
 
4.3. GICOMSの仕組み
 GICOMSは、港湾域(PTMS+AIS)、沿岸域(VTS+AIS)、遠洋域(VMS)の三つの領域に分けられ、それぞれのシステムが構築される。そして海上安全や海上保安に関する情報を統合し、総合的に管理することを目指し、各地方海洋水産庁が管理するAIS・PTMS、中央機関が管理するVMS、気象庁の気象情報、漁業組合の漁船情報、そして海洋警察庁の捜索・救助情報を統合管理するシステムとなっている。統合された情報は、国際海賊申告センター、アジア国家間のホットライン、国内関係機関及び関連団体、国家中央災害対策本部、船社及び船主、そして航行中の船舶へ提供される仕組みとなっている。


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