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沖ノ鳥島における海洋エネルギー利用に関する可能性調査
佐賀大学海洋エネルギー研究センター 浦田 和也
 
1.概要
 2005年3月28日〜29日、日本財団の協力により海洋調査を実施し、海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion ; OTEC)で汲み上げる表層水及び深層水の二次利用を目的とした海水の淡水化、海洋の肥沃化(漁場造成)、海水中のリチウム回収を行う際に必要となるデータの収集を行うため海水のサンプリング及びリーフ内において現地調査を行った。今回取得したデータを元に、沖ノ鳥島におけるOTECの可能性、有効性及び海洋エネルギー利用に関する検討を行う予定である。
2.海水サンプリング
 海水のサンプリングは、下表に示す合計8箇所にて行い、採集後直ちに冷凍保存し、佐賀大学海洋エネルギー研究センター伊万里サテライトで分析を行った。
 
表1 サンプリングポイント
No Latitude Longitude Depth(m)
1 20°27′〜20°29′N 136°08′〜136°07′E 150
2 20°27′〜20°29′N 136°08′〜136°07′E 100
3 20°27′〜20°29′N 136°08′〜136°07′E 50
4 20°25.2′N 136°05.0′E 0
5 20°25.16′N 136°04.3′E 0
6 20°25.30′N 136°03.7′E 80
7 20°25.30′N 136°03.7′E 10
8 20°25.20′N 136°04.5′E 0
 
3.海水の分析結果
 サンプリングした海水は、佐賀大学海洋エネルギー研究センターにおいてリチウムの含有量、栄養塩類、各元素の濃度について分析を行った。分析進行中の項目もあり今回は分析が終了している項目のみを報告する。
 図1に三大栄養塩の一つであるリン酸塩濃度の鉛直分布を示す。硝酸塩、珪酸塩については現在分析中である。図中には、比較のため北大西洋(27°N、53.5°W)と北太平洋(30°N、170°W)のデータを掲載している。沖ノ鳥島のリン酸は、表層で0.2〜0.4μM含まれている。これは、北大西洋の450m付近、北太平洋の200m付近の値と同程度の濃度である。また、沖ノ鳥島近海の水深150m付近の濃度は約0.6μMで、北大西洋550m及び北太平洋の300m付近の濃度に匹敵する。
 このことにより外洋と島近海の違いはあるが、沖ノ鳥島近海の海洋深層水の栄養価及び利用価値は高いと考えられる。今回は、採水方法等の制限があり水深150m付近までの採水を行ったが、今後は高深度鉛直方向でのサンプリングを行い、陸地に近い場所と比較し、検討を行う必要がある。
 図2は、海水中のリチウム濃度を示す。比較のために、伊万里湾の表層水の濃度をプロットした。沖ノ鳥島のリチウム濃度は約0.1mg/lで、表層から深度150m付近までほぼ一定に含まれている。このことにより、1000kwのOTECプラントを設置し1日10万トンの海洋深層水を汲み上げた場合、佐賀大学の回収装置を使用すると1日約10kgのリチウム回収が見込まれる。
 図3〜図6に海水中の主要元素であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの鉛直方向の濃度を示す。図中には比較のために、伊万里湾の表層水の濃度と海水に含まれる主要元素の平均濃度の値(Nozaki, 1996)を示している。ナトリウムイオンは、平均で約1000mg/l含まれており、平均濃度と比較すると1割程度低い値を示している。カリウムイオンは、水深100m以深ではほぼ平均濃度であるが、表層から水深100mまでは100〜150mg/l程高い値を示している。マグネシウムイオンは、平均濃度より若干高い濃度を示しており、カルシウムイオンは、ほぼ平均に近い値を示している。
 今後は採集した海水の栄養塩類及び主要元素について分析を進め、2006年1月に行う予定である海洋調査の結果によりOTEC設置の可能性、海水の淡水化を行った場合の効率、海洋深層水の多目的利用方法、海水中のリチウム回収の際に必要となるデータを収集し、今後の沖ノ鳥島における海洋エネルギー利用の評価・解析を行う予定である。
 
謝辞
 今回の調査に、計画当初よりお世話をして頂いた事務局の高橋氏をはじめとする日本財団の皆様方に感謝の意を表します。また、機材の提供及び採集作業に多大なご協力を頂いた水圏科学コンサルタントの長濱氏及び佐藤氏、日本サルヴェージの船員の皆様にお礼申し上げます。
 
参考文献
 
1)
池上康之、浦田和也、福宮健司、野田信雄、Gregorio Decherong(2002)  パラオ海域における海洋深層水利用のための海洋調査、第6回海洋深層水利用研究会全国大会 海洋深層水2002久米島講演要旨集、27
2)
中島敏光(2002):海洋深層水の利用、株式会社緑書房、23-50
3)
堀部純男(1994):物質循環、海水の科学と工業、日本海水学会・ソルトサイエ ンス研究財団共編、92-138
4)
Broecker, W. S., D. M. Dorothy & D. Rind (1985): Does the ocean- atmosphere system have more than one stable mode of operation. Nature, 315, 2 May, 21-26







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