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5.2 設置場所及び問題点
 先述のとおり沖ノ鳥島は、本土から遥か遠く離れた絶海の孤島で、台風の発生が多い気象海象条件の非常に厳しい海域の中で、東西4.5Km、南北1.7Kmのサンゴ礁リーフ内にある東小島、北小島、観測所基盤及び観測施設(SEP)が西側に寄って存在している現状である。
  このように地理的にも気象・海象等環境条件的にも非常に厳しい沖ノ鳥島の現況の中で、設置可能な場所としては、
(1)既存SEP上建物構造物(居住棟)の上に設置する案
(2)東小島、北小島に設置する案
(3)観測所基盤に設置する案
(4)リーフの中に設置する案
が考えられる。
 (1)の既存SEP上建物構造物(居住棟)の上に設置する案については、建設後約15年経って経年老朽化が進む中、既設SEP上に航路標識を設置する余裕耐力があるかかどうか問題であるが、先述のとおり、国土交通省において、レーダー等をSEP居住棟の屋上に設置するとしていることから、灯台の具体的な設置場所としては、同様にSEP上居住棟の屋上が最適と考えられる。
 この場合であっても、居住棟屋上の防水上設置が許されるかどうか、さらに、屋上防水に支障とならないような工法を採用する必要があると思われる。
 
写真-2
既存構造物SEPの遠景(左側が居住棟)
 
 幸いなことに既存SEP居住棟屋上に設置することは、平均海面からの高さがかなり高く取れることから、航行船舶から見えやすく、航路標識の規模をあまり大きくしなくて済むので、既設構造物に与える荷重はかなり抑えることができるものと考えられる。
 (2)の東小島、北小島に設置する案については、いずれの小島も島の機能をコンクリートなどで保護していることから、例え、乗揚げ海難の防止のための機能を満足するような小規模航路標識であっても、基礎根回りは2m以上、深さ2m以上は必要であり、設置に当たっては既存の保護コンクリート部分をはつり(壊し)とって設置する必要があることから、既存施設をいじめることとなること、また、既存構造物SEPが海面上約24m(居住棟を含む)あるため、灯火の視認を妨げ(明弧障害)、全方位をカバーすることができなくなり、これをクリアするためには灯火の高さを24m以上とする必要があることから、その規模は大型となり経費的にも施工的にも問題と考えられる。また、今後利活用が検討され大型構造物が計画された場合にも同様の問題が生じ、現実的ではないと考える。
 
写真-3 北小島の状況と構造模式図
 
 
 (3)の観測所基盤に設置する案については、本観測所基盤の戦前の本来の建設目的が灯台の基礎として進められたものということであることから、前述のような航路標識を設置するには施工上の問題はあっても、構造耐力上は問題ないと思われる。しかしながら、本基盤をヘリポートとして使用する計画があることから、仮に小規模な航路標識であっても、高さを必要とする構造物を建設することはヘリポートとしての機能を満足できなくなることから適当ではない。
 (4)のリーフの中に設置する案は、航路標識の基礎を直接水中に建造する必要があるが、同島における水中構造物建造は、設計海象条件から相当大きな基礎を建設する必要があるため、観測所基盤建設に多大の経費と時間を要したこと及び東小島、北小島の保全に要した経費と時間を考慮すると、直ちにリーフの中に灯台を設置することは現実的ではないと考えられる。
 また、水中へ構造物を建設する場合は、海底のサンゴや水生生物など環境への悪影響を及ぼすことが考えられ、たとえ蘇生が可能と言われても、せっかくこれらをいかに繁殖させるか検討されている現状では適切な案とはいえないと考えられること、また、本案も前述の(2)及び(3)案同様に灯火の視認障害(明弧障害)の問題があり、さらには、リーフ内の設置場所によっては、将来の同島の利活用案に対する制約要因となるおそれもあることから、本案は適当ではないと考える。
 
写真-4 観測基盤上の状況写真
 
 その他の案として、今後、同島の利活用案が検討され、その案を具体化するため、仮に再度SEP等が建設されるとした場合、これを利用して設置する案が考えられる。本案は、同島の全体的な利活用案が具体化される中で、必要とする航路標識の規模、種別などが総合的に検討され、設計当初に設置場所が設計されることから、東小島、北小島など既存施設などに与える影響を少なくすることができ、最良と考えられる。
 しかしながら、再度のSEP等の建設については、現在全く計画も示されていない。
 
5.3 設計荷重
 一般的に灯台を設計する場合の設計荷重は、設計波高、風速及び地震力について検討することとしており、建築基準法など法令に規定のあるものはそれに従い、また、規定のないものについては、設計対象物の置かれる海域のデータによるものとする。
(1)設計波高
設計波高は、既存SEP設計時に採用された10.5m(最大波高)とする。ちなみに、リーフ外では、16.2m(最大波高)とのことである。
(2)設計風速
建築基準法令によれば、沖縄県における標準風速は46m/sとなっているが、沖ノ鳥島における数値は明示されていないことから、本法令の定めるところに準じ算定することも可能であるが、既存構造物(居住棟屋上の太陽電池パネル設置)の設計に当たっての設計風速は70m/sとしているのでこの値を採用する。
(3)地震力
諸資料から沖ノ鳥島は、同島直下には震源域はないと考えてよいとされている。また、一般的に灯台の設計では、波の力及び風圧力が卓越していることから、地震力の検討は省略しているので本項でも設計荷重の対象とはしない。
 設置予定場所によっては、以上の荷重のほか水深を含む海底の状況を知る必要があるが、ここでは既存構造物SEPを利用する案として検討するので、設計に当たっては、風荷重のみを対象とする。
 
5.4 航路標識の監視及び管理
 灯台は、その機能を維持していくためには、点灯状況等の状態監視と保守点検が必要であるが、同島は簡単にいける場所ではないため、保守点検の回数は制限されるので、できる限りメンテナンスフリーの機器を採用する必要がある。
 状態監視をテレメーターで行う場合は、航路標識の動作が正常かどうか、異常がある場合はどの部分か、電源の動作状況などを監視する必要があるが、監視回線には衛星回線を使用することから、経費上からも監視項目数をできる限り少なく効率的に行なえる方式とすべきである。
 また、一般的に航路標識はその機能を維持するため、1〜3ヶ月に一回見回り点検しているが、同島の地理上の特殊条件を考慮し、かつ、太陽電池などメンテナンスフリーの装置を採用するとしても、最低年2回程度の見回り点検を行う必要があると考える。
 
5.5 施工上等の留意点
 本土から遥か南方に位置する沖ノ鳥島において航路標識設置の工事を行う場合、海上運搬及び施工上次の点を考慮するとともに、既存構造物SEPを利用することから設置する灯台は、他の設備機器から独立した運用を可能とする必要がある。
(1)部材の小型軽量化を図る。
(2)部材はできる限りプレハブ化を図る。
(3)腐食対策を図る。
(4)機器及び構造物ともメンテナンスフリー化の部品、部材を使用する。
(5)電力は太陽電池と蓄電池(密閉型)組合せとする。
(6)固定方法は、既存構造物SEP上の設備機器などと同様に、H形鋼材をベースに取り付けられるように考慮する。
(7)海上運搬及び施工者の滞在は船舶利用となるので、施工費用をできる限り安価に押さえるためには、他の工事等に合わせ計画することが望ましい。このことは、定期的に行う見回り点検時についても同様である。
 
6 既存構造物(SEP)上に灯台を設置する場合の詳細検討
6.1 設置場所の検討
 現在沖ノ鳥島に存在する既存構造物SEPは、第I架台、第IV架台並びに第V架台と第VI架台の4面が存在しているが、第I架台、第V架台は撤去対象となっているため灯台設置場所の対象から除外する。
 第IV架台は第VI架台と連結され諸機器等が設置されているが、居住棟のある第VI架台より低く灯火の視認上好ましくないので、設置予定場所は第VI架台とし、かつ、高さが採れる居住棟の屋上が最適と思われる。
 
6.2 設置スペースの検討
 構造物を管理している事務所で調査したところ、現在既存SEP第VI架台(約40m×約20m)の居住棟屋上(約11m×約26m)には、かなり大きな太陽電池パネル(約4m×約8m)、気象観測機器など既存の機器設備等がすでに数多く設置してある。また、新たに海象観測用レーダー等の機器及びこれらの電源として、既設と同程度の大きさの太陽電池パネル等が新たに設置又は移設することが予定されている。
 このように、同居住棟屋上の設置スペースはかなり制約されることから、既設機器設備及び新たに設置予定の機器設備と設置する灯台の灯火の視認障害等に十分注意して配置しなければならないが、スペース的には居住棟屋上の北西側隅角部又は南側のレーダー設備(南東隅角部新設予定)とカメラ(南西隅角部移設予定)との間に灯台を設置することは可能と思われる。
 実際の設置にあたっては、これら相互の位置関係及び高さ関係の詳細を調査したうえで、灯台の設置位置を決定する必要がある。
 
6.3 視認障害等の検討
 前項で述べたとおり、屋上の南側及び北側にはレーダー、カメラなどがあり、また、それぞれの高さも3mを超えるものとなっていることから、灯台灯火の視認を一部妨げることが考えられる。これを避けるため高さをこれら構造物より高くすることが考えられるが、この場合、先行して計画しているレーダーなどに影響を与えることが考えられ、これをできる限り少なくするように高さを決定し、また、場合によっては、レーダー反射などについても一部電波吸収材を使用するなど対応策を講じる必要があると思われる。
 レーダーアンテナ(幅約2m)の高さは、居住棟RF+4.2mで、四角トラス構造(等辺山形鋼使用、一辺90cm)で、高さ33.3mのところに幅約3m、高さ1.5mの踊り場を有する構造となっている。その基礎は、H型鋼(250×250×9×14)を利用しコンクリートで押さえ固めた上にシンダーコンクリートを高さ約20cm打ち込むような構造となっており、本構造は、SEP上に灯台を設置する場合の参考となろう。 このような構造物の設置が計画されているが、幸いなことに航行船舶の多くは南北に向け航行する場合が多いことから、視認障害を最小限に抑えることができると思われる。
 レーダーのほか、GPSアンテナ及び既存カメラなど構造物としてはやや幅の狭いものについても同様の障害が考えられるので、設置箇所が明確になり次第詳細を検討する必要があると思われる。







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