日本財団 図書館


中国の教育
 李躍民(1999年5月)に若干の補充を行った。
 
I. 中国の教育の現状
まだまだの教育状況
 中国は1978年から改革・開放政策を採り、教育の面でも著しい発展を示してきた。中国の人口は14億を超えているが、在学中の学生・生徒数は既に3億2000万人を超え、総人口の26%に達している。総人口のうちから、15歳以上の者でみると、平均約7年間の教育期間があり、これは改革・開放前の状況と比較すると、大幅な前進といえる。
 しかしながら、成人のなかの文盲が、まだ1億4500万人もいて、中国の教育はまだまだ、おおきな任務を負っていると言わざるをえない。
 中国の小・中学校での教育は、かなり普及してきたが、これを入学率でみると、都市は小学校98%、中学校82%、高校31%、大学7%となっている。
(注)
国・地域 学校年齢層に占める就学者の比率(200年) 15〜24歳の非識字率(200年)
初等教育 中等教育 高等教育
中国
インド
106
102
63
49
7
10
1
20
3
34
NISE 韓国
台湾
101
100
94
99
78
77
0
-
0
-
ASEAN INDONESIA
PHILIPPINE
THAILAND
MALAYSIA
VIETNAM
110
113
94
99
106
57
77
82
70
67
15
31
35
28
10
2
1
1
2
5
3
1
2
2
4
U,S,A,
日本
101
101
95
102
73
48
-
-
-
-
 
 成人向けの大学や私立大学を除く、中国の正式な学校の数は、日本の大学数とほぼ同じだが、中国の人口は日本の約10倍であることを考えると、中国で大学に入るのがいかに困難であるかがわかると思う。なお、最近、民間短大が増加した。また政府は2003〜2007年まで政府投資による47大学を新設し、教育予算をGDPの4%を目標に設定した。
 
忙しい生徒たち
 いま仮に、中国で「一番忙しい学生(生徒)は、それは小学生だ」ということになる。中国は「ひとりっ子政策」をとっており、そのため中国の親たちは、子供の教育を非常に重視している。将来、子供を一流の大学に入れるため子供が幼稚園の時代からいろいろと勉強させ、いい小学校へ入れようと腐心する。重点小学校(中国では小・中・高・大に『重点学校』があり、とくに優秀な者を集め、教育内容も高いとされている。しかし、弊害も多く、小・中段階では、この「重点」を撤廃すべきだという議論はあるが、撤廃される気配は全くない。)へ入れるために教育の助成金という名目で、何万元というお金を、学校へ払った人もいる。
 子供たちこそ大変である。
 いい小学校からいい中学校、そして高校、大学へすすむために、学校で学ぶだけでなく帰宅しても沢山の宿題をこなし、そのあとは英語、数学、バイオリンやピアノの学習や練習のため、塾に行ったり、家庭教師に就いたり、土曜・日曜も休めない生活に追われている。成績が良くないと、この進路も危ないからである。
 大学卒でないと、収入の多い安定した就職が望めない中国の社会のなかで、親たちも必死なら、追い立てられる子供たちも可哀そうである。
 僅か31%の高校入学という狭き門を突破しても、大学は無理だという学生たちは2年〜3年コースの「中等専門学校」へ入り、専門技術を学び就職する。しかし、この中等専門学校コースさえ、厳しい選抜試験を突破しなければならないのである。
 中国の大学は、全国統一試験・統一募集を実施している。全国統一の試験は毎年7月7日〜9日の3日間行われ、3つの種目、つまり理工系、文科系、外国語系に分かれる。
 各種目とも国語、数学、外国語が共通試験科目で、そのほか各種目によって試験科目が課せられる。重要なことは、各科目の成績が、平均80点以上をとらないと、まず、大学へ入学することは困難である。
 統一試験の外国語の試験のなかには日本語試験もある。
 
II. 教育の仕組み
基礎教育
 基礎教育は小・中学校の教育と特殊教育である。96年末で、中国全土には小・中学校の数が73万校あり、在籍中の児童・生徒は約2億人に達している。
 中国でも義務教育の期間は9年間である。
 86年に「中華人民共和国義務教育法」が公布され、現在は、この9年制義務教育が中国全土の半分以上の地域で普及している。
 中国では「特殊教育」も義務教育の重要な一部門である。
 中国政府は身体障害者特に身体障害児童に対する擁護教育を重視し、「身体障害者教育条例」など関係法律を制定し、特殊教育の発展を促進した。96年までに、中国全土では特殊教育学校が1426校あり在籍の児童・生徒は32万人にも達している。この数字は92年との比較で、学校数にして1・4倍、人数で2・5倍である。
 このように中国政府が基礎教育の充実・発展に力を入れている反面、一部の地方に、新たな「文盲」問題が発生している。それは、商品経済が発展するにつれて、一部に、「義務教育法」を無視して子供を小学校にやらず、商売をさせたり、働かせる現象が生まれていることである。国は、これらの親に対して行政指導を行うなど厳しく対処している。
 
中等職業教育
 職業技術教育は、中国の現代化教育の主要な構成部分である。
 職業技術教育は、中学卒業後、高校入試に失敗した者の就職前の教育である。教育内容は理論ではなく技能が中心である。そしてこれは労働者の文化的、技術的資質の向上にとって欠くことのできない重要な位置を占めている。国は職業教育の発展を促進するために91年には「大いに職業教育を発展させるための決定」を公布し、96年には「中華人民共和国職業教育法」を公布した。その後、各種類の職業技術教育、とくに中等職業技術教育は、中国現代化建設の発展の必要に基づいて大きな発展を遂げている。
 高校教育においても中等職業教育との関連で、その教育構造が大きな変革をみせている。
 80年代に入ってから、高校教育の構成が単一化しているという不合理を是正するため、高校教育段階における普通教育(大学進学コース)と、職業・技術教育との構成を調整して大きく職業技術教育を発展させたことで、高校教育の構成も大きく変わった。96年になると、はじめて高校職業教育が普通教育を上回った。96年の高校における職業教育と普通教育の比率は、生徒数で56.7%と43.3%で、職業教育が過半数を占めている。
 なお、80年には職業技術学校は、全国で僅か6000校しかなく、生徒数も200万人に満たなかったが、96年には17.081校になり、在籍中の生徒数も約1.010万人に達しており、80年との比較で、校数にして2.7倍、生徒数で6倍に発展している。この10数年間で、この教育方針のもと、経済及び社会の発展のために、2318万人の中等専門技術者を育成した。
 このほか、各種類の成人向けの学校で、学歴教育のほかに、様々な方法により社会に必要な各分野の専門技術者を育成している。
 
大学教育
 中国では大学教育のことを「高等教育」という。
 不幸なことに、60年代から10年に亘る「文化大革命」があり、この間は高校卒業生が大学へ入学する門戸が閉ざされた。76年に文化大革命に終止符が打たれ、78年からは、高校からの大学への道が再開された。
 そして改革・開放政策以来、中国における大学教育も大いなる発展をみせており、96年には大学数1034校、4年制大学の在学生数は567.68万人に達している。
 また、80年には修士、博士制度を制定。96年までに、修士・博士を育成する大学及び研究機構は740、この課程に在学中の学生は、博士課程35,200人、修士課程127,100人である。
 なお、ここで大学科学技術研究について触れておくと、96年には、人文社会科学領域では、大学の研究機構は1596ヵ所あって、研究要員は20万人。一方、理工系、農業、医学等の領域では、大学の科学研究機構が1800ヵ所、それに携わる要員は14万人である。
 中国の大学を「管理」面からみると、次の3つに分類できる。
 教育部(日本の文部省)管理の大学、中央省庁管理の大学及び地方政府管理の大学、それに私立大学である。
 教育部管理の大学は34校で、例えば北京大学、清華大学、北京師範大学、復旦大学、南京大学などの一流大学がある。
 中央省庁管理の大学は、約500校で、なかには哈爾濱工業大学、北京理工大学などの有名大学も含まれている。
 地方政府や市、自治区管理の大学も約500校で、これらを全部併せると中国の大学数は1040余校となる。
 この他にも、多数の成人向けの大学、また最近増加の一途を辿っている私立大学がある。
 私立大学が設立され始めたのは、ごく最近のことで、具体的な統計がないので、その実数は不明であり、大学のレベルもまちまちである。
 大学の分類の仕方としては、前記管理面での分け方、学部と学科の構成による総合大学、理工系大学、文科系大学などの分け方、また、科学研究、学術研究のレベルなどにより、重点大学、非重点大学という分け方もある。
 総合大学で有名なものは、北京大学、復旦大学、南開大学、武漢大学、吉林大学などがあり、理工系大学では清華大学をはじめ、西安交通大学、上海交通大学、哈爾濱工業大学などがある。
 しかしながら、中国は現在、大学の改革を三つの点ですすめており、第一に、管理面では中央省庁の管理大学を、逐次地方政府の管理(所管)に移すこと。二番目は、教育面で大学のなかの学部と学科の構成の改革である。
 中国の大学制度は、過去にソ連の大学の管理システムを直輸入したために、学部と学科の設置が細かすぎて、学生の自由選択の幅が狭すぎるという欠陥があった。現在、この欠陥を是正するための改革をすすめられており、学部と学科の見直しを行い、選択の幅を広げて、社会の発展に寄与できる知識、技能を与えうる構成に組み換えようとしているのである。
 三番目には「211プロジェクト」と呼ばれるものである。
 この「211プロジェクト」とは、21世紀に向けて、100の大学と学科を選んで、それを重点的に建設しようとするものである。
 いま、中国の大学は、この「211プロジェクト」に入るために、熾烈な競争を展開している。
 なお、ここで中国の大学の学生について簡単に触れておく。
 中国の大学生は幾つかのランクに分かれている。まず激烈な競争試験によって選ばれた「本科生」、次に「院生」(修士課程か博士課程の学生)、「専科生」(2〜3年コースの学生)、「進修生」(これは卒業証書は出さないが、修了証書はもらえる学生で、聴講生や、外国留学のための特訓コース『培訓』がこれにあたる)の区分けができる。
 授業料も、本科生、専科生は安いが、進修生は高いというように区別されているが、本科生でも、農林、師範(それも教師になるためのコースのみ)、砿業、軍隊、警察関係の大学では、授業料一部免除で、その他の大学では学科の種別によって区々である。
 なお、大学卒業生は、かつては国が必要な部門に人材を配置していたが、現在は「双方選択」(企業・機関と学生双方によって就職が決まる)方式が採用されており、中国の産業再編成、リストラ等の関係で、就職はかなりの“狭き門”となっている。
 
成人教育
 成人教育の規模も大きく発展している。96年までに、全国には各種類の成人学校があり、その数は約62万校である。ここで学んでいる人も1300万人であり、国が懸命に取り組んでいる「文盲一掃運動」にも、大きな力となっている。特に文盲一掃では、92年に全人口の22%であった文盲率が、96年には16.5%にまで低下し、都市部では殆ど文盲一掃の目標は達成されたが、農村部においては、依然としてこの目標の前途には厳しいものがある。
 また、前述のとおり、金儲けのために子供に義務教育を受けさせず、商売をやったり、働かせたりする状況があり、一部の貧困な農村では、子供を義務教育の学校に行かせる金も無いという状況がある。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION