4. 調査研究の概要
訓練中に多発している救命艇事故について、離脱装置に対する操作マニュアルの標準化や、各製造者による離脱システムの改善等、個別な対応が取られつつある状況ではあるが、国際海事機関(IMO)による審議が進められ、事故防止に向けた救命艇システムに関する整備・保守ガイドライン(MSC/Circ.1093)が発行され、今後、総合的な取り組みが要求される状況となっている。
本調査研究は、図1に示すフローチャートに従い、ハードウェアーとしてのシステムの見直しと共に、操作や整備システム等ソフト関係の両面から総合的な事故防止対策を検討することにより、救命艇システムの安全性を向上させることを目指すものである。
図1 救命艇システムの品質改善調査研究フローチャート
5.1.1 船級協会による調査
船級協会により調査された1992年から2004年までに発生した救命艇に関する事故例(合計43件)について、それらの推定される事故原因別に分類すると表1のようである。
表1
事故原因 |
件数 |
a. 離脱装置に関係した事故 |
(小計28件) |
a-1: 離脱機構のリセットミス |
19件 |
a-2: ケーブル、ロッドの不良 |
5件 |
a-3: 離脱フックの不良 |
1件 |
a-4: 操作ハンドルの操作ミス |
3件 |
b. 操作ミス(離脱装置以外) |
3件 |
c. ウィンチブレーキ不良 |
2件 |
d. ラッシングからみ |
2件 |
e. 空気ボンベの錆等による爆発 |
3件 |
f. 自由降下式救命艇の落下
(ラッシング不良) |
2件 |
g. 原因不明 |
3件 |
合計
|
43件 |
|
5.1.2 英国 MAIB(事故調査局)による調査
英国 MAIB(事故調査局)による1989年から2000年までに発生した事故調査報告(Safety Study 1/2001 Review of lifeboat and launching systems' accidents)によると、救命艇及びそれらの進水装置に起因する事故は合計125件で負傷87名、死者12名であった(表2参照)。また、この間における救命艇以外の事故における死者は73名である。
表2
事故の分類 |
事故発生数 |
負傷者数 |
死者数 |
1. フック |
11
|
9
|
7
|
2. トライシング、ボーシング |
10
|
5
|
2
|
3. つり索、シーブ、ブロック |
12
|
19
|
2
|
4. エンジン、始動 |
18
|
15
|
0
|
5. グライプ |
12
|
10
|
0
|
6. ウィンチ |
32
|
8
|
0
|
7. ダビット |
7
|
7
|
0
|
8. 自由降下式 |
2
|
1
|
0
|
9. 天候 |
2
|
0
|
0
|
10. その他 |
19
|
13
|
1
|
11. 脱出に成功 |
0
|
0
|
0
|
合計
|
125
|
87
|
12
|
|
5.1.3 その他文献調査
平成15年度及び平成16年度にかけて救命艇関連の事故例について文献調査を行った。結果を表3に示す。
5.2.1 離脱装置関連
船級協会による調査から見ると、事故原因の約6割が離脱装置に関係したものであり、中でもリセットミスによるものが多い。これは離脱フックの不完全なリセットが主な原因であると考えられる。次に多いのはケーブル、ロッドの不良及び操作ハンドルの操作ミスとなっている。離脱機構の複雑性、操作に対する習熟の困難、コントロールケーブルの錆び、汚れによる動きの劣化等の要因がこれらの状況が引き起こしている。
これらの事故に対しては、リセット操作や離脱操作を分かりやすく、確実な操作にすると共に、理解し易い操作マニュアルを準備すること、また整備方法及び整備体制を明確にして、確実な整備を実施することで事故防止を計ることができると考える。
事故例No.9の場合は、操作ハンドルとフックを繋ぐ連絡ケーブルの固定法が、何らかの原因で改造されていたことが事故の要因と考えられ、離脱装置の機構・構造に対する乗組員の意識や正しい知識の重要性が指摘される。また、事故例No.11の例では、新品のフックにおきた事故であり、整備の問題ではなく、フックの設計自体にも問題があることが示されている。
5.2.2 その他の装置関連
ウィンチについては、ワンウェイクラッチ、ブレーキ、スイッチ等の故障が発生しているが、これらについては、上記と同様に、適切なマニュアルの整備や定期的な保守・整備体制により対応できると考える。
英国MAIBの事故報告には、トライシング及びボーシングラインに関連した事故例が記載されている。格納位置から乗艇しないタイプ(旅客船用)は、トライシング及びボーシングラインを使用してデッキ上の乗艇位置まで救命艇を引き寄せる必要があるが、煩雑なために、ボーシングラインの使用を省略する例が多く、トライシングラインの切断や、外れることにより事故が発生している。これらに対しては、システムを見直し、より使いやすい作業手順に変更するか、又は正しい作業手順を確実に行うような監督体制を確立することで対応する必要がある。
貨物船の場合、格納位置での乗艇が要求されているため、救命艇のラッシングシステムとして、ダビットの振り出しと共に自動的に外れるオートトリガーワイヤロープが多く使用されている。オートトリガーワイヤロープは全員が乗艇して進水する際に外れる構造のため、何らかの原因で引っ掛かりが発生した時に、対処することができず危険となるため、IMO/DE小委員会における救命艇の事故防止手段の中でも、短期目標の一つとして、安全性の検討が指示されている。(DE47/25, ANNEX 9, Updated work plan for measures to prevent accidents with lifeboat)
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