(3)IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の有効性
IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)は、その前に行ったIMO基準対応システムと比べ、試験水中へのオゾン溶解量を増加させうると考えられた。その理由を以下に記す。
上記2試験時の水温を比較すると、IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の試験時の水温は10.5℃、IMO排出基準対応システムの試験時は21.1℃であった。これだけを見ると、オゾンの水中に対する分配係数から、IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)試験時が約2割高く、オゾンの溶解量が増加して当然と思われる。一方、水中有機物量のほとんどを占める溶存有機炭素(DOC)は、両試験時ではほとんど変わらなかった。この有機物量から試験水中におけるオゾン消費量はほとんど同じと想定できる。
この条件を考慮した上で、図II.5.3-8における420秒後付近の両試験時の気相オゾン測定値で比較でする。この時のIMO基準対応改良システム(SPHS-V1)気相オゾン濃度値は、分配係数から2割以上多く溶解しその後気相へ散逸してきたと考えても、IMO排出基準対応システム試験に比べ約10倍高い。それだけ試験水中に滞留し時間をかけて散逸していると考えることができる。しかも、IMO排出基準対応システムの方が注入オゾン量は2倍以上である。
以上より、IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)は、オゾンの試験水への溶解量を増加させていると判断される。そして、その結果、IMO排出基準対応システムの半分の2.5mg/Lの注入オゾン量でIMO排出基準を達成する可能性が得られた。
表II.5.3-18 |
未処理原水中の有機物量指標となる水質測定結果(全測定結果の平均) |
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IMO排出基準対応
システム試験時 |
IMO基準対応改良システム(SPHS-V1)試験時 |
オゾンの分配係数 |
温度(℃) |
分配係数
CL/CG |
10 |
0.38 |
20 |
0.29 |
30 |
0.20 |
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試験実施月 |
10月 |
2月 |
水温(℃) |
21.1 |
10.5 |
DOC(mg/) |
1.0 |
0.97 |
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図II.5.3-8 |
IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)試験時の気相オゾン濃度測定結果(図中の線)及びIMO排出基準対応システム試験時の気相オゾン濃度測定結果 |
(拡大画面:34KB) |
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(4)オゾンを船舶に搭載する際の留意点等
以上、スペシャルパイプとオゾンの組合せにバラスト水処理システムの有効性に関する試験結果が多く得られた。しかし、オゾンの使用には、今後クリアーしなければならない留意点もある。参考までに、現時点で考えられる留意点を以下に列記した。
1)オゾン発生設備に関する安全基準等
オゾンはその強い酸化力から取扱いに十分注意しなければならない。現在、実船搭載の際にオゾン原料となる酸素は、PSA(Pressure Swing Adsorption)式による供給を想定しているが、使用圧力と容器の大きさに応じて労働安全衛生法を遵守しなければならない。
2)排オゾン処理設備に関する安全基準等
未反応オゾンを分解するためには、排オゾン処理設備を設けなければならず、想定している活性炭を利用する場合は、オゾン分解性能の低下時にそれらを容易に交換できる構造とする必要がある。また、その性能は大気中への排出オゾン濃度が0.1ppm以下となることが望ましいとされている。活性炭による排オゾン処理設備は窒素酸化物が共存したオゾン含有ガスを流入させた場合、窒素酸化物の蓄積とオゾンの分解による反応熱により活性炭が異常燃焼することがある。この対策には、オゾン発生器から吐出される窒素酸化物を減らすとともに、排オゾン処理設備前に窒素酸化物を除去する等の工夫が必要とされている。
3)作業環境に関する安全基準等
オゾン設備の巡回点検等の作業を行う場合、あるいはオゾンを利用して操業する場合、その場所のオゾン濃度は0.1ppm以下でなければならず、許容オゾン濃度以下であることを確認するための環境オゾンモニター等の検出器を設置することが望ましいとされている。また、オゾン設備が設置されている室内は、万一オゾンが漏洩した場合でもオゾンが滞留しないよう換気・通風の設備を設けなければならない。
4)関連法規
オゾン設備を製作及び設置する場合には、下記の法規及びすでに施行されている他の関連法規に準拠しなければならない。
電気事業法電気設備技術基準
電気用品取締法
労働安全衛生法
高圧ガス取締法
消防法
騒音規制法
振動規制法
建築基準法
5)労働衛生上の許容濃度
表II.5.3-19には労働衛生許容濃度を示し、表II.5.3-20にはオゾン暴露濃度と生理作用を示した。
何らかの作業または装置の運転に伴って発生するオゾンについて、米国のACGIH(米国政府関係産業衛生者会議)及び日本の産業衛生学会許容濃度委員会では、0.1ppmを労働環境における許容濃度(8時間平均)としている。
表II.5.3-19 労働衛生許容濃度
国 |
日本 |
米国 |
準拠 |
許容濃度等の勧告(1985)
日本産業衛生学会 |
ACGIH(1961) |
許容濃度 |
0.1ppm*(提案1963) |
0.1ppm |
許容濃度の定義 |
1日8時間週40時間程度の労働時間中に肉体的に激しくない労働に従事する場合の暴露程度の算術平均(可逆的な若干の変化は身体機能の低下をもたらさなければ許容する立場) |
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*“「溶接作業環境管理基準」WES9007-1982 日本溶接協会規格”も同じ
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オゾンの暴露濃度とその生理作用は、人間がオゾン臭気を感じる程度の濃度0.01〜0.02ppmから、生命が危険な状態となる高濃度オゾン領域までの関係が示されている。通常、オゾン暴露による初期症状としては、鼻、のどへの刺激、せき、頭痛、疲労感、慢性気管支炎、胸痛、呼吸困難などがある。
オゾンの人体に対する影響に関しては、オゾン濃度測定技術の進歩と最新の医学技術によってさらに調査研究が進められている。USEPAによる1988年の研究発表では、人間の肺機能低下は0.08ppmでも認められている。
表II.5.3-20 オゾンの暴露濃度と生理作用
オゾン(ppm) |
作用 |
0.01〜0.02 |
多少の臭気を覚える(やがて馴れる) |
0.1 |
あきらかな臭気があり、鼻やのどに刺激を感じる |
0.2〜0.5 |
3〜6時間暴露で視覚が低下する |
0.5 |
あきらかに上部気道に刺激を感じる |
1〜2 |
2時間暴露で頭痛、胸部痛、上部気道の渇きと咳が起こり、暴露を繰り返せば慢性中毒にかかる |
5〜10 |
脈拍増加、体痛、麻酔症状が現れ、暴露が続けば肺水腫を招く |
15〜20 |
小動物は2時間以内に死亡する |
50 |
人間は1時間で生命危機となる |
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