II 地方財産税に関する自治体ヒアリング調査の概要
(1)テネシー州ナッシュビル市/ディビッドソン・カウンティ(平成15年9月16日訪問)
テネシー州の州都ナッシュビル市は大都市圏政府を形成しており、ヒアリング調査ではシェルビー・カウンティ資産評価員事務所の商業用資産評価責任者のC.K.Bokoski氏と大都市圏政府の財産税資産評価部の情報システム責任者B.Pigue氏からの説明を受けた。
○財産税の概要
・財産税の歳入に占める割合(2002年度) 45%
売上税 18% 補助金等 17% ※一般基金歳入 $1,352,210,300
・税率 不動産の評価額に対して
General Service District(GSD; 前デイビッドソン・カウンティ全域) 3.84%
Urban Service District(USD; 旧ナッシュビル市及びその近郊地域) 0.74%
※USDの資産:3.84%+0.74%
・税率は州法の定めにより、4年に一回の評価替えの年に見直される。改正された税率は州平衡委員会State Board of Equalizationの承認が必要。
・他カウンティの税率 デヴィッドソン・カウンティ4.58%
サリバン・カウンティ4.57%、ラザフォード・カウンティ4.68%、ハミルトン・カウンティ5.57%、ノックス・カウンティ5.66%、シェルビー・カウンティ7.02%
・評価率
公益事業 55% 商業用資産 40% 工業用資産 40% 事業用資産 30% 居住用資産 30% 農業 25%
・減免制度
高齢者(65歳以上)と障害者、傷痍退役軍人とその遺族を対象に減免措置が講じられている。高齢者、障害者はその所有する不動産の最初の$18,000、傷痍退役軍人・遺族のそれは最初の$140,000が課税を財産税を免ぜられる。
・ナッシュビルは地域経済が好調で、TIFや財産税の減免をかなり積極的に行っているが、それを可能ならしめるだけの経済、財政の基盤がある。なお、財産税を地域経済開発の手段の一つとして用いることの経済効果が担当者より説明された。
(2)ペンシルバニア州ハリスバーグ市(平成15年9月19日)
ペンシルバニア州の州都ハリスバーグ市では財政部長のR.F.Kroboth氏と産業経済担当者のL.Lingle氏に同市の財政、財産税についての説明を受けた。
(1)財政状況について; 市の財政状況についてはNational League of Cities(NCL)の財政状況調への回答書を用いての説明がなされた
・財源不足(使用料・手数料等、宿泊税、娯楽税、州補助金などの減収)
・基金取崩し、使用料・手数料引上げ、投資計画の延期、公務員レイオフ・早期退職勧奨などで対応、増税、サービス削減、民営化・外注化などは考えず
・2003年度予算 一般基金歳入5,505.4万ドル、歳出5,515.4万ドル
・財産税収1,320.9万ドル(歳入の約24%)、所得税約11%、使用料・手数料約42%、州補助金約16%
・財政悪化の要因 課税べース減少、連邦・州からのマンデート、治安、インフラ整備、人的サービス、公務員給与・年金・健康保険、物価上昇、地域経済
・市財政にとっての重大な問題 市内不動産の45%が免税対象
(2)財産税の歳入に占める割合 上述の通り
(3)財産税の概要
・2003年度の財産税収は予算べースで1,320.9万ドルで、対前年度予算比で約3万ドル、0.22%の減少。減収の理由はドーフィン・カウンティ評価不服審判委員会(Dauphin County Assessment Appeal Board)が資産価値の再評価で減額評価を行ったため。
・評価はドーフィン・カウンティの資産評価委員会(Dauphin County Board of Assessment)が行う。2003年度の税率は“Two-Rate Poperty Tax”で、資産評価額に対して土地が24.414パーミル、建物・償却資産が4.069パーミル(商業用、居住用等による差違はなく一律)。実効税率はおよそ8.5パーミル。
【税額の決まり方】
2002年のMillage Rate 6:1 x=0.00406892 6x=0.2441352
土地分の税額 371,924,800*0.02441352=9,079,993.54
建物等の税額 1,330,249,300*0.00406892=5,412,677.98
財産税収総額 9,079,993.54+5,412,677.98=14,492,472
14,492,472−200,267(PNIオフィス・ガレージ)=14,292,407
14,292,407*0.885(徴収率)=12,448,780.19
実効税率=12,448,780.19/(371,924,800+1,330,249,300)=0.008522
・実効税率の他市等との比較(2003年度) ハリスバーグ8.522パーミル
Susquehanna Township 1.9、Swatara Township 1.04、Lower Paxton Township 0.88、Penbrook Borough 7.02、 Steelton Brough 6.649/4.44、Allentown市 14.72、Bethlehem市 11.50、Easton市 12.00、Erie市 9.91、Johnstown 36.44市、Lancaster 8.24市、New Castle市 8.42、Reading市 10.33 Wilkes Barre市 53.63、York市 11.39、Philadelphia市 3.74、Pittsburg市 10.80
・非課税資産 政府(連邦、州、カウンティ)の不動産、病院、非営利団体
・財産税の減免措置 経済開発上の理由から居住用・商業用資産対象に10年間の税額軽減制度あり
・財産税の税務行政
評価はカウンティが行うが税務行政は市と学校区が担当し、税額計算や納付書送付はDept. of Administration、徴収はCity Treasurer's Officeが行う。
財産税の税制改革は州が行う。
・納税通知書数は18,600で1月に発送。徴収率は2001年で年内89%、3年で98%。
・納税通知書を受け取ってから2ヶ月以内に納税すれば2%の減額。納付書受取後4ヶ月を経過し年内に納付する場合は10%のペナルティ、その後はさらに重いペナルティ。
(4)ハリスバーグのSRTの概要(SRTについては以下の参考参照)
・ハリスバーグは1975年にSRTを採用し、30年近くの実績を有する。SRTの導入に踏み切った理由は、かつて同市の基幹産業であった鉄鋼業などが産業構造の転換の影響をうけて撤退し、人口流出によって市の衰退が深刻になったためである。なお、ハリスバーグは州都であるが、現在、人口は約5万しかなく、10年前の人口8万人からいまなお人口の減少が続いている。
・1975年のSRT導入時の税率は土地が1.7%、土地が2.3%とその格差は1.4倍であったが、その後、土地に対する税率が相対的に高く引き上げられ、1980年には3倍となり、その後の20年間はほぼこの水準が維持されるが、1999年に4倍、2001年に5倍、そして昨年2003年には6倍にまで格差が拡大されている。すなわち、現在の表面税率は、土地が2.4%、建物が0.4%である。このことについて市の説明は近年、とくに人口の流出と地域経済の低迷が深刻になっているために、企業進出の促進、税源の涵養をねらってこのような措置を講じているとのことであった。
・なお、SRTのほか、ハリスバーグではTax Increment Finance(以下、TIFと略す)も地域経済活性化の手法として活用している。TIFとは指定された地域内での財産税を一定期間評価額を凍結し、その固定された評価額と通常と評価額の差額分を担保に地方債を起債し、その収入によって地域開発事業を行い、その後、地価の上昇によって得られる財産税の増収を当初の減収の償還に特定財源的に充当するという仕組みで、全米の都市でよく用いられている。ハリスバーグでは現在、TIFの地域を1地域設定しており、さらに近い将来、もう1地域の追加指定を行う予定であるという。このようにハリスバーグではSRTとTIFを組み合わせた地域活性化を図っており、市担当者は地域経済の疲弊が進んだ1970年代以降、財産税を土地の有効利用を促進する手段として積極的に位置づけていることを明言した。
・ところで、上述のように市の人口規模は低迷しているが、SRTの効果について市の説明では、近年、31億ドルの新規投資が行われ、納税企業数も1,900社から6,000社近くにまで増加したということである。また、課税対象となる不動産の価値も約2億ドルから16億ドルに上昇し、空き物件の割合も85%減少、犯罪発生率は半減し、火災発生率も3分の1になるなど、大きな成果を担当者は強調していた。無論、こうした市の再活性化の効果がSRTなど財産税の施策でのみ達成されたとは市も考えていないようで、SRTやTIFとともに、税の減免だけでなく広い分野でさまざまな市への企業・投資の誘致の取り組みを行い、いったんハリスバーグに進出した企業が撤退しないような魅力的な環境づくりに努められているようである。
・なお、興味深かったのは、SRTやTIFのようなアグレッシブな財産税政策を採用しているハリスバーグではあるが、その他のオーソドックスな減免措置には消去的な姿勢が窺えることであった。一般の居住用資産や商業用資産に対する10年間の減免措置も実際にはあるのであるが、インタビューでは市の財政規模と経済規模から通常の軽減措置を積極的に行う余裕まではないという説明を受けた。
Nashville & Davidson County, Tennessee, Property Assessor, Home Page
Tennessee State Board of Equalization Home Page
Tennessee State Board of Equalization Rules
State of Tennessee Divison of Property Assessments
|
|
【参考】
ペンシルバニア州のSprit-rate taxあるいはTwo-tier taxと呼ばれる独特の仕組み(以下、SRTと略す)は、土地の価値と建物の価値の区分を明確にし、かつ、建物に対する軽減措置を講ずるというものである。建物に係る税の軽減は所有者に資産の維持と改修へのインセンティブを与え、土地の価値に係る税の負担増は土地のさらなる効率的な利用へのインセンティブをもたらす。SRTの歴史は古く、1913年にピッツバーグなど一部の都市で最初に導入されているが、州内での採用が増えたのは1980年代になってからである。ただし、当初、このSRTは土地の資産価値に対する税は増税の手段として提案されたのではなく、生産的な労働、資本に対する税の大幅な減税とのセットで行われた。
SRTは現在、州内の16の自治体で選択・実施されているが、主要都市での土地に対する税率と建物に対するそれの格差は(データが少し古くて1996年時点もものであるが)、ピッツバーグで5.61倍、スクラントン3.9倍、ハリスバーグ4倍(後述のように2003年度は6倍)、マッキースポート4倍、ニューキャッスル1.75倍、ワシントン4.35倍、ダッキースン5.61倍、アリキッパ16.2倍、クレアトン4.76倍、オイルシティ1.23倍、ティタスビル8.68倍と、自治体によって大きく異なるが、一般に土地と建物で税率に大きな差違が設けられていることがわかる。
このように格差の程度に差異があるが、資産の改修・修理、道路や下水道など都市インフラのより効率的な利用を促進し、土地投機や都市のスプロール化の抑制に効果を発揮している。SRT改革は、採用している団体での建築許可の増加と、従来の財産税を課税しているところの停滞を比較すればわかるように、開発に強力なインセンティブを与える。SRTによってダウンタウン地域での雇用創出や住宅用、商業用の建物の改修が増加している。市場メカニズムと民間へのインセンティブを適切に活用し、公共部門への安定した財源を提供すれば、SRTは開発の利益をコミュニティ全体に広く配分することも保証するものである。ペンシルバニア州議会は、現在、学校区等にも拡大することを検討している。
|