日本財団 図書館


平成16年9月7日(火)
(財)自治総合センター
・地方の時代にふさわしい地方税のあり方に関する研究会
アメリカの州・地方税制
名古屋市立大学大学院経済学研究科 前田高志
I 州税制の現状
表1〜表9参照
 
II 最近における地方財産税の動向
○地方基幹税としての財産税
・財産税収(1999年度)は地方政府の歳入総額の24.0%、地方税収の72.3%
・1999年度での財産税収総額2,194.9億ドルの対GDP比2.3%、対個人所得比2.8%
※わが国固定資産税;対GDP比1.8%、対個人所得比0.1%
 
○財産税の仕組み
・課税主体 市町村、学校区、特別区、カウンティなど
※シカゴ市周辺クック・カウンティ地域の財産税率 → シカゴ市1.64%、クック・カウンティ0.75%、シカゴ学校区3.97%、その他森林保護特別区や公園特別区、臨海干拓区、市立大学などがそれぞれ0.1〜0.6%を課税
・課税の仕組み
 
※わが国の固定資産税
 
○CAPをめぐる問題
 商業用資産のような収益性資産の評価には収益還元法が用いられ、一般にAppraisal Foundation(評価財団)が定めた統一評価基準、Uniform Stadard of Professional Appraisal PracticeにしたがってIRV算式(Income =(Capitalization)Ratio × Value)で、収益を資本還元率(Capitalization ratioを略して一般にCAPと呼ばれる)で割り引いて評価額が決定される。このとき、収益の算出は資産の経常収益は、たとえば賃貸ビルの場合、まず賃貸料の粗収益を推定し(実額ではなく、単位面積あたり標準収益額×面積で算出される)、そこから同じく標準的な空室率、賃貸料未収率に基づく損失を控除して実質粗収益を求める。そして、実質粗収益からさらに標準的な経常経費を差し引いて得られた純経常収益を、資本還元率で除して評価額が算出されることになる。なお、資本還元率は当該資産の所在する地域に比較可能な商業用資産が多い場合はCAMA(Computer-assisted Mass Appraisal)と呼ばれる電算処理の一括評価の手法のなかで標準的な数値が計算され、それが用いられている。
 こうした一連の評価決定プロセスについての問題の第一は、評価額を純経常収益÷資本還元率で求める際に、実際には通常の意味での資本還元率に加えて財産税の標準的な実効税率が分母に入れられる点にある。これは実効税率分を加算する理由は、テナントの支払う賃貸料のなかに財産税額が含められていないという前提にある。しかし、実際にはテナントが財産税額分を含めて賃貸料を支払う契約をしているケースも多く、そのような場合には実効税率を考慮せず、単純に資本還元率のみを用いて当該資産の価値を決定すべきであり、硬直的に標準方式をそのまま適用することによって大幅な税収ロスが生じているという意見もある。
 第二の問題は、前述のように収益還元法の実際の算出過程の大部分がCAMAによる「標準値」に依拠したものとなっているが、地方団体の評価担当者が安易にそれらに依存する傾向にあり、空室率やテナント料の未払い率、資本還元率など、現実の数値の代理変数的に用意された標準値について、可能な限り実態に即して補正するよう努力をはらうべきであるという提言であった。以前よりわが国でも関心の高い、収益還元法の細かなプロセスと、実際の運用上の問題についてのこれらの問題は今後のわが国での論議にも教示に富むものといえる。
○財産税の免税団体をめぐる問題
 現在、政府(連邦、州、地方公共団体)、準政府(政府関係機関)、非営利の公益団体に与えられた財産税の免税措置がとりあげられ、特に非営利公益団体のそれに焦点をあてて問題提起がなされた。報告では具体的な全米規模の大学スポーツ振興団体の所有するドミトリーが教育施設か、居住施設か(すなわち公益的存在か指摘目的か)をめぐって最高裁まで争われたケースなどを事例に、本来の公益目的に合わない施設に関して課税当局が厳正な姿勢で臨む必要性が指摘されている。なお免税規定の運用をめぐっては州間でかなりの差異があることが感じられた。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION