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図71 絵馬の代金の請取状 河野村の金相寺蔵
 
 最後に杉本派に関連して福井県立歴史博物館の興味深い調査結果を紹介しておこう。嘉永二年(一八四九)に米ノ(福井県丹生郡越前町)の日吉神社に奉納された絵馬(図72)と同四年に常宮(敦賀市)の金毘羅神社に奉納された絵馬はいずれも杉本派のものであり、裏面には「ツルカ」の墨書がある。このは敦賀御所中通の小間物商六路屋権兵衛のことで、松前交易に関する商人の必携書である『千島講宿帳』によると船絵馬も扱っていた(図73)。二面の画風は杉本派そのものだから、六路屋は半製品を杉本清舟から仕入れて、客の注文に応じて仕上げて売っていたわけではなく、清舟に客の注文を取り次ぐ代理店の役割を果たしていたと考えてよかろう。注文主の覚として杉本が認めた裏面の墨書は、六路屋以外にも代理店があったことを物語っている。目下のところ他に類例を見出せないが、大坂出来の船絵馬の流布からして大きな港には大坂の絵馬屋の代理店が存在した可能性は大きい。
 代理店の発見は今後の研究に期待するとして、以上をまとめると、杉本派は次のような系譜になる。
 杉本円乗常重(勢舟)―二代春乗清舟―三代清舟
 
図72 嘉永2年(1849)の杉本派の絵馬
米ノの日吉神社蔵
 
図73
『千島講宿帳』に載る六路屋権兵衛







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