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第二章 考察と今後の課題
1. 考察
 本事業は、“自分の進路がつかめない人に「どこにどんな教育機関があり、どんな人を受け入れているか」を、ボランティアが各施設を訪問し、自分の目で見たありのままの姿をレボートして、確かな情報として提供したい”ということと、各施設の専門分野を把握して、
「ミスマッチやたらいまわしを防ぐ」ことを目指して調査を行った。しかし既に調査の項で述べたごとく、各施設側にとっては今までにない調査項目があったため、戸惑いを感じ、アンケートに答えないままになってしまった所や、訪問調査に二の足を踏んだ所もあった。そこで今年度は以下のように考慮した。
1 アンケート項目の「専門スタッフの有無」という部分で、スタッフ=常勤と捉えた所が多く、常勤がいないので印をしないという施設もあったようである。各方面の専門家とのネットワークがあれば、人件費のかさむ専門スタッフは雇う必要は無く、実際専門スタッフは非常勤という場合が多いようなので、今回は「専門スタッフは非常勤も可」とした。
2 アンケート依頼の際に、各地の相談情報センターの住所を入れて置き、近くの情報センターに各施設の案内書を送る様に依頼した。これは各センターの資料として活用するとともに、訪問調査の時の参考にもなる。
 その結果昨年「訪問インタビューを希望しない」という回答を寄せた施設の内いくつかが「訪問インタビューを希望する」と回答したのは喜ばしかった。
 しかし訪問調査先が昨年と重複しないように、それらを割愛したため、結果として訪問先が60に減少してしまった。この点は次年度の課題とする。
 この他の考察としては、他機関とのネットワークが余り持たれていない例が多かったので、次回は(1)「もし自分の施設で対応が出来ない人が来た場合にどうするか」を聞く。
例えば、イ、とりあえず自分の所で受け入れる。
 ロ、他機関に相談又は紹介する。
 ハ、当協会の相談情報センターに相談する。
(2)通信制高校は卒業率が低いので、次年度は卒業率を聞く項目を入れる。
(3)ひきこもりのことを考え、「家庭訪問」の項目を「訪問指導」又は「訪問相談」とする。
(4)「障害児」の項目に「自閉症」を入れる。
(5)次年度調査項目に、授業料等の費用を聞くかどうか検討する。実情は高いだけで内容に乏しいところと、高いだけのことをやってくれるところとがあり、判断が難しい。
5 次回は調査対象に親の会も含む予定だが、質問項目は変える。
6 平成16年度に開設された施設も多いと聞くので、極力事前に調べておく。
 
 ここで訪問調査先からの声として聞こえてきたものをいくつかまとめておく。
 (1)文部科学省の学校基本調査によれば、不登校生はここ2年減少しているというが、その子たちを預かる施設としては、減少しているという実感が無いと言う。これはシンポジウムなどでもよく耳にすることで、原因はいくつか考えられる。
イ、適応指導教室(教育支援センター)の整備が進んだことと、出席扱いとなるフリースクールが増えたことで、学校には行けなくても不登校扱いにならない生徒が増えた。
ロ、心因性の頭痛や腹痛、うつ病、神経症などと診断され、不登校の枠から外れた。
ハ、軽度発達障害への認識が高まり、「不登校児ではなく障害児である」となった。
 これらが真実であるとすると、原因は別として学校に行けないという「不登校状態の生徒」は減少していないと言える。精神科の医師の話では、精神科医を訪れる人はかなり増えているということである。
 (2)相談情報センターに持ち込まれる相談では、長期にわたるひきこもりの相談が増えている。特に30代、40代という年代が急激に増大し、その親は70代となり、待ったなしの対応を迫られている。当協会でも、矢吹理事、廣谷チーフアドバイザー、広島の岩崎氏、日本財団と共催で開催した不登校ひきこもりフォーラムで活躍した工藤氏などと共に、受け入れ態勢を固めているが、まだまだ不十分である。その点「全国引きこもりKHJ親の会連合会」の働きかけで、各地の精神保健センターが動き出したことは心強いことである。
 また、文部科学省が特別支援教育の充実を発表したことと、発達障害支援法案が成立したことで軽度発達障害が注目されるようになり、その相談も増えた。しかしその道の専門家は少なく、専門医もごく限られており、当人も親も教師も困惑している。
 その点では、「特別支援教育の専門家の育成」を掲げた星槎大学が本年度開学したことは、大変喜ばしい。この大学は特別な支援を必要とする学生の受入も行っているし、平成17年度には中学校も開校することが決定しているので、注目したい。
 
2.今後の課題
(1)、本事業の告知はマスコミに頼る結果となってしまったため、費用対効果という点では十分な成果が上ったが、偏りが目立った。例えば相談情報センターが設置されたことに関しては、北関東、中部、四国は報道されたが、北海道は報道されなかったので、北海道相談情報センターはまだ十分活用されていない状態である。各地の公共機関にガイドブックを送ったことにより、情報センターも少しづつ認知されてきたので、本報告書や地域版パンフレットを送ることで、更に認知度を高めたい。
(2)、考察のところでも述べたが、昨年度と訪問調査対象が重複しないようにしたため、訪問調査先が減少してしまった。特に首都圏以外では調査対象が少なく、当初予定の調査対象である「私立学校、技能連携校、通信制高校サポート校、フリースクール、フリースペース、ひきこもり」だけでは目標達成が困難である。そこで次年度は「不登校生の行き場所」となっているところは、調査対象として含めたいと考えている。
(3)、我が国では「相談は無料」という考えが多いが不登校、ひきこもりに関する相談はその人の一生を左右するような大事な相談であることから、有料を原則としたい。無料であれば「どうせ無料だから」と、相談するほうもされる方も無責任になってしまう。
 電話相談は無料でも良いが、面談、訪問相談、メンタルフレンドの訪問は相談ボランティアが対応しても有料としたい。一般の方々のご理解を願う次第である。
 
3. 次年度事業に向けて
(1)、本年度は3年計画の2年目で、「不登校生の進路相談情報センターの確立」は予定通り進んだと考えている。しかし受入施設の調査では必ずしも計画通りに進んだとは言えないので、少なくとも更に価値のある調査とするために、上記の点をふまえて訪問先を考慮したい。
(2)、情報センターの知名度を上げるために、東北や沖縄のように情報センター主催の事業を各地で企画したい。つまり今まで本部主催で行ってきた各地のシンポジウムや進路相談会を、各情報センターの主催として、教育委員会や新聞社の後援を依頼する形で開催したい。
 
 この事業は日本財団の補助金を受けて実施したものです







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