パネル討論
[コーディネーター]
高橋 儀平氏
○東洋大学工学部建築学科 教授 博士(工学)、一級建築士
○専門分野:
住宅・地域計画・まちづくり、福祉関連施設計画、福祉のまちづくり、バリアフリー、ユニバーサルデザイン
○最近の研究テーマ
・福祉のまちづくり制度、条例研究
・諸外国のユニバーサルデザイン研究
・高齢者の住宅改修研究
・視覚障害者、聴覚障害者の環境改善研究
・パブリックトイレの標準化研究
・医療施設のユニバーサルデザイン研究
・過疎地の高齢者居住研究
[紹介]
藤村 安則氏
○中央復建コンサルタンツ(株) 中国支社長 技術士(建設部門 道路計画)
○経歴:
・大阪工業大学短期大学部土木工学科卒
○主な著書
・講座・高齢社会の技術「移動と交通」(日本評論社)共同執筆
・障害者等の安全に配慮したバリアフリー設計「交通安全学」(企業開発センター交通問題研究室)共同執筆 など
講演
参加型福祉のまちづくりの現状と課題
秋田大学 木村一裕
2000年に施行された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」いわゆる交通バリアフリー法も4年目を迎えたことで、多くの都市で具体的な基本構想が策定され、その評価と今後のあるべき方向について議論する材料がそろいつつある。現在、交通エコロジーモビリティ財団と国土技術センターでは、これまでの交通バリアフリー策定の経緯をふまえつつ、基本構想策定を通じた今後の福祉の交通まちづくりに資するためテキストを作製中である。ここではテキスト編集における議論をふまえながら、交通バリアフリー法に基づいて行われる基本構想策定を通じた参加型福祉の交通まちづくりの課題について考えてみたい。
1. 交通バリアフリー法の意義
交通バリアフリー法は、いうまでもなく高齢者や障がい者等の交通環境整備、とくに公共交通機関の利用と、その周辺の重点整備地区の歩行環境整備を行うことである。これは期待される交通環境の実現のみならず、そうした環境整備のためのしくみをつくること、あわせて、高齢者・障がい者等に配慮した交通環境整備の必要性を認識し、自ら行動する必要性を広く市民に理解してもらうことを目的としたものである。
土木学会土木計画学研究委員会では、高齢者・障がい者の交通環境整備について研究小委員会を組織し、そのあり方について継続的に調査、研究を行うとともに、情報発信を行ってきている。土木計画学ワンデーセミナー、シリーズ35「土木技術者の新しい地平−交通バリアフリー実現に向けて−」(2003.5)の「まえがき」において、小委員長の三星近畿大学教授は交通バリアフリー法の意義として次の2つをあげている。
1)交通バリアフリーは土木技術者が対象とする大半の領域で、新しい計画・設計の方法を提起している。とくに参加型技術の発展とユニバーサルデザインは、まちづくりの技術の方法論として、重要な意味を持っている。
2)移動円滑化基本構想策定の中で、短期間に実現しがたい技術的課題の多くは、これまでに作られた施設や空間を21世紀においてどのようにリビルト、リフォームし質的に向上させるかという持続と改変のグランドデザインに関係している。
都市計画法や河川法等においても、計画策定における住民参加やマスタープラン等のグランドデザイン導入が必要とされているが、交通バリアフリー法は、高齢者や障がい者等、市民の多様性を前提とし、また、それゆえに様々なコンフリクトを解決しながら策定されるという点において、三星が言うように、21世紀のまちづくりの重要テーマが包含されているといえる。
2. 基本構想策定における参加型福祉のまちづくりの課題
福祉の交通まちづくりにおいて、交通バリアフリー法にもとづく基本構想策定のプロセスの特徴は、大きく分類すると4つに分類されると考える。すなわち(1)まちづくり主体の広がりと連携、(2)目標の設定と達成方法、(3)まちづくりにおける継続性の必要、(4)まちづくりにおける情報の発信、収集の重要性、である。
(1)まちづくり主体の広がりと連携
交通バリアフリー基本構想策定の主体は、高齢者、障がい者等、行政、交通事業者、ボランティア団体、NPO等多数ある。これらの主体が相互に連携をとることが重要であるが、行政機関同士や、行政と交通事業者、ボランティア団体、NPO等との連携が十分になされているかが重要である。それぞれの取り組みに温度差があったり、取り組みに制約があってはならない。
また、障がい者が福祉の交通まちづくりに参加することは当然であるが、障がいの種類は多様であり、いかにして多様なニーズを把握するかということとなる。この点については、必ずしも行政が十分に対応できない場合があること、障がい者等のニーズをより把握し、また問題解決能力を有しているという点で、ボランティアやNPO等の組織に期待される役割は非常に大きいといえる。先進的な地域では、こうした組織が福祉のまちづくりの重要な部分を担っている場合もあるが、残念ながら多くはまだその力がない、あるいはその役割を担わされていない場合が多い。その意味で、それぞれの主体が福祉の交通まちづくりを学ぶと共に、市民やボランティア団体、NPOを育成、支援する仕組みを持つことが非常に重要であり、この部分における行政の役割は小さくない。
(2)目標の設定と達成方法
基本構想や重点整備地区の計画策定における目標設定においては、より柔軟で、多様な方策の可能性を検討する必要がある。交通バリアフリーを実現するための方策として、さまざまな事業が計画されるが、事業の実施時期が未定のために、全体としての計画案が後退したものとなることがある。事業者としてはやむを得ない対応ではあるが、事業の実施が遅い場合の方策について、ソフト的施策を含めて柔軟に考えておく必要がある。この点でも多様な主体間の連携が求められる。
(3)まちづくりにおける継続性の必要
基本構想策定や重点整備地区の事業計画を策定は、当然のことながら福祉の交通まちづくりの通過点であり、また、これで福祉の交通まちづくりが保障されるものではない。なぜなら、策定後も地区の環境が変化したり、委員会では出されなかった利用者の多様なニーズが生じることが予想されるからである。また、事業後もその達成度、課題を継続的に点検する必要があり、Plan-Do-Check-Actionのサイクルをどのように構築するかも重要な課題である。
(4)情報の開示と収集、対応
交通バリアフリー基本方針の策定ならびに重点整備地区計画の策定においては、市民の様々なニーズを常に収集し、これを検討し、対応するシステムが必要となる。基本構想や事業計画策定をもって、ほぼそのニーズを把握したと考えるべきではなく、むしろそうした委員会等で拾いきれなかった課題や、その後生じた課題にも柔軟に対応していく必要がある。また、基本構想策定等や各事業における情報の開示は、心のバリアフリーの浸透や事業の進捗をチェックし、改善につなげていくためにも重要である。
おわりに
交通バリアフリー法を通じた参加型福祉のまちづくりの課題について、4点を指摘したが、これらは独立した課題ではなく、相互に密接に関連した課題である。交通バリアフリー法の意義でも述べたように、同法にもとづく福祉の交通まちづくりは、福祉や交通という分野に特定されない、私たちの「まちづくりの学校」に他ならない。この学校で、多くのことを学べるかどうかは、私たちがこうした課題をいかにして解決していくかにかかっているといえる。
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