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里親だより第71号 平成17年1月31日
(財)全国里親会
 
里親だより
第71号
 
児童福祉法改正に寄せて
(財)全国里親会
会長 渥美 節夫
 2005年新年おめでとう存じます。皆様方お元気で新年を迎えられたことをお慶び申し上げます。
 今年の新年は、これまでの新年と異なり、皆様方には格別な年となったものと思います。すでに至急報でお知らせ申し上げました通り、この元旦から改正児童福祉法が実施されたのです。
 特筆大書すべきは、里親の定義が法律の条文上明示されました。半世紀に亘って待望久しきに亘った私たちの念願が実現したわけです。誠に喜ばしく、私にとりましても感銘に堪えないところです。
 この条例制定に伴い、里親の権限も明示されました。里親に、里子に対する親権の一部である監護・教育・懲戒に関して必要な措置を行う権限が与えられることになりました。これまでは、里親は里子措置の対象者として掲げられるに過ぎませんでしたし、里親の権限については何等示されてはおりませんでした。今回の改正で里親の権限が明確に確定されました。
 このように権限の存在するところに里親の義務が伴うことは当然のことであり、例えば里子就学の義務が明示されるなどそのほか法的な規制も設けられることとなりました。
 兎も角今回の改正児童福祉法の実施により里親制度は、法的に眠りから覚め、50年振りに甦ったのであります。
 折りしも里親制度が新しい出発を迎えております。私達はこの地位に立って福祉人として胸を張って一層の努力を傾けて行きたいと存じます。
 終わりに、今回の法改正に際して今日までご協力とご努力を戴いた先輩の方々や関係者の方々に深く感謝申し上げます。
 
 平成16年12月18日、高松宮妃殿下が薨去されました。
 生前、高松宮妃殿下は、昭和25年の児童福祉週間行事としての一日里親運動に賛同し、こども達を宮邸に招き激励をされて以来、毎年一日里親運動を続けられるとともに、昭和29年仙台市での第1回全国里親大会から、昭和50年前橋市で開催された第21回大会に至るまで22回に亘り、毎年欠かさず大会に出席され、里親や関係者に対し、直接、激励のお言葉を賜りました。
 平成16年10月10日東京国際フォーラムで開催された第50回全国里親大会には、健康上のことでご出席いただけませんでしたが、妃殿下はお言葉を渥美会長に託され、里親の絶えまない研鑽と国、地方公共団体及び関係団体の尽力とをもって、里親制度の発展を願うなど、終生、里親制度に深いご理解とさらなる進展のためにご高配を賜ました。
 ここに、衷心よりご冥福をお祈り申し上げます。
 
第19回大会(秋田県)にご出席の高松宮妃殿下
 
 
厚生労働省雇用均等・児童家庭局
家庭福祉課指導係長 田野 剛
 昨年の秋の臨時国会において、従来より全国里親会から要望をいただいていた、里親に関する条項の整備や里親の権利義務の明確化などを含む児童福祉法の改正法が審議され、平成16年11月26日に成立し、下記の内容について、平成17年1月1日から施行されましたので、ご報告をさせていただきます。
 
(1)里親の定義規定の新設
 改正前の児童福祉法においては、括弧書きで里親の定義を規定していたところですが、改正児童福祉法においては、総則の中に新たに里親の定義規定を設け、社会的養護における里親の重要性を明確にしたところです。今後とも、新規里親の開拓や里親サポート体制の充実など様々な施策を総合的に活用することにより、里親委託の一層の推進に努めてまいりたいと考えています。
 
(2)受託児童の監護等に関する里親の権限の明確化
 虐待を受けた児童など、情緒面・行動面で問題を抱えている児童が急増している中、家庭的な環境の下でケアを行う里親の役割はますます重要となっています。このため、里親制度の普及に向けて、近年、専門里親などの新たな里親の形態や里親支援のための事業の創設など、施策の充実を図っているところです。更に里親制度を普及させるためには、監護等に関する里親の権限を明確にし、安心して養育に携われるようにする必要があることから、里親についても、児童福祉施設の長と同様に監護・教育・懲戒に関し、児童の福祉のために必要な措置をとることができることを法律上明確に規定しました。
 このうち懲戒に関する措置は、あくまでも児童の健全な育成のために認められるものですので、今回の改正に合わせ、「里親が行う養育に関する最低基準」に、懲戒に関する権限の濫用禁止の規定を設けました*(注)
 また、今回の改正で、里親について、児童福祉施設の長と同様に、受託中の児童に関する就学義務も明確化しました。
 
 
(3)職業指導を行う里親について
 改正前の児童福祉法に設けられていた職親的制度である保護受託者制度は、虐待を受けた児童など、自立までに手厚い支援を要する児童が増加する中で、十分に活用されてはいない状況にありました。こうした状況を踏まえ、児童の現状に合わなくなった保護受託者制度を廃止する一方、一定の要件を満たす里親が養育と併せて職業指導を行えることとし(原則として1年以内)、年長児童に対する自立支援を推進することとしました。
 この職業指導については、養育里親、親族里親、短期里親、専門里親のいずれも行うことは可能ですが、職業指導を行うことを希望する里親は、予め都道府県知事の認定を受ける必要があります。
 
(4)おわりに
 今後とも、保護を要する児童に、より家庭的な環境を提供できる里親制度の普及・啓発を図り、児童の福祉の向上に努めてまいりたいと考えています。里親の皆様におかれましても、次代を担う子どもたちの幸せのために一層の御尽力を賜りますようお願い申し上げます。

*(注)里親が行う養育に関する最低基準(平成14年厚生労働省令第116号)の一部改正
(懲戒に係る権限の濫用禁止)
第6条の2 里親は、委託児童に対し法第47条第2項の規定により懲戒に関しその児童の福祉のために必要な措置を採るときは、身体的苦痛を与え、人格を辱める等その権限を濫用してはならない。
 
 児童福祉法が改正されて今年1月1日から施行されました。法律に初めて里親という名称が明文化され定義されました。また、監護や教育、懲戒という、親権の一部が里親にも付与されました。しかしどうも耳慣れない言葉で、これがどんな権利なのか実感がわきません。どういう意味を持つのか、また、里親の養育にどんな影響をもたらすのか、家族社会学を研究している和泉広恵さんにお聞きしました。
 
――親権の一部が里親にも付与されましたが、そもそも親権とはどういうものなのでしょうか。
和泉 親権については民法で規定されていて、大きく二つに分かれます。一つは財産管理権、もう一つが身の回りの教育や監護、懲戒に関する権利です。他に住む所を定める居所指定権や職業の許可権と言うものもありますが、これらは監護権の一部とみることもできます。今回の、里親に対して親権の一部が付与されたということは、財産管理権の方ではなくて身の回りの方の権利が付与されたということです。
――親権を分離する考え方は以前からあったのでしょうか。
和泉 普通、結婚している時には、夫婦が共同で親権をもっているのですが、離婚をすると親権は一人しかもつことができなくなるので、親権をもつ親ともたない親ができてしまいます。その親権をもたない親の方に監護や教育の権利を分離してもたせるという考えがあるのです。こうした考え方を援用したのだと思います。児童福祉法には以前から施設長に監護権などをもたせる規定がありました。それを施設長だけでなく里親にも拡大したわけですね。そのためか、もしかして、あまり議論がなされないまま決まっていったのではないかと感じます。
――こうした法改正の動きの背景にはどんなことがあるのでしょうか。
和泉 厚生労働省に「社会的養護のあり方に関する専門委員会」が設置されて、要保護児童のあり方が検討されてきました。日本の社会的養護は施設中心でしたが、この委員会では家庭養護を中心にしていこう、施設は小規模化し、本体施設は相談業務などに力を入れ、グループホームや一般家庭、里親の養育を支援していくものに変えていこう、と結論づけています。この専門委員会に、全国里親会から要望書が出されています。里親の権利と義務を明確にしてほしい、というような内容ですね。
――権利が明確になったということは、歓迎すべきことと言っていいのですね。
和泉 そうですね。厚生労働省の「児童虐待の防止等に関する委員会」では、施設長の監護権の範囲が明確ではなく、はっきりさせるべきだという声が上がっています。そういう、施設が抱えている問題を里親も抱えこむということがありますね。
――監護や教育、懲戒といった権利を乱用したり、あるいは義務を怠ったりすることが考えられます。里親としてどんなことに気をつけたらいいのでしょうか。
和泉 教育をさせる権利というのは、たとえば学校に行かせない親に行使されるものです。里親の場合だと、子どもが学校から排除されたりした場合に権利を主張できます。監護権は監護する権利ですから、ネグレクトなど放っておいた場合に義務を怠ったと言えます。懲戒権は怠るということはないですね。ただ乱用すると虐待や傷害罪に問われます。
――懲戒というと会社の就業規則で懲戒解雇などと言いますが、家庭のなかではなじめない言葉ですね。
和泉 かなり昔にできた法律ですからね。民法の文章には「懲戒場に入れることができる」とか書いてあります。懲戒については、子どもの権利条約に反しているのではないかという声もあります。一方で、教育している側から言うと、ないと困るという声もあります。
――何度も確認しますが、歓迎すべきことなのですね。
和泉 気が重いという里親さんがいましたね。短期里親とかでちょっと預かっただけなのに責任が重くなった、と。それから、里親になることを人に勧めるとき、気楽に勧められなくなった、とか。でも、これまでの里親の実情に沿ったものになったことは確かです。
――でも、分かりにくいですね。これまでと変わらないのでしょうか。
和泉 拡大解釈になるかも知れませんが、離婚した一方がもつ位の大きさをイメージしてみたらどうでしょう。たとえば親権者と教育方針をめぐって対立するような時、これからはきちんと主張していいのです。里親は私立に入れたい、親権者は公立でいい、とかね。
――里親が意見を主張してもいい、そういう後ろ盾を与えられた、ということでしょうか。
和泉 親権者や児童相談所と養育をめぐって対立した場合に、これまででしたら意見を言う場がなかったのですから、それが子どもを引き上げられたりして心の傷として残る里親さんが多く見られました。監護権が里親にくることをかなり強めにとれば、(子どもが委託されている間は)監護権の中の居所指定権は里親にもある、という解釈の可能性がでてくるかと思います。ですから、それを盾に意見を言えることになる。今回の改正の解釈次第では、一方的な引き離しはできなくなる、と言えます。
――児童相談所には措置権がありますから、そう簡単にいくとは思えませんけどね。里親が施設長と同様の権利を得たわけですが、まったく一緒に考えていいのかどうかについても疑問が残ります。
和泉 子どもにとってみると、里親を親のように思っている場合がありますね。施設を親と思う子どもは少ないと思うので、親権についての争いは施設よりも表面化しやすいと思います。離婚の時に争いになることがありますが、それに似た問題が起こることも考えられます。
――どのように運用されていくのか、判例などが出てみないと分からないですね。
和泉 先にも話しましたが、施設長に与えられているものを里親にも認めただけということで、議論や検討は十分になされなかった可能性がある。すんなりいってしまったことで後から問題にならなければいいが、と思います。施設長と里親の違いをもっと検討してほしいですね。
――親権のもう一つの側面である財産管理権についてはなにか問題はないのでしょうか。
和泉 子どもの監護をしない親権者が財産管理権をもつということに問題がないわけではありません。たとえば、子どもが交通事故にあって賠償金を得た場合、それを親権者がもっていく、そういうことが過去にあったようです。
――受託している子どもが手術を受ける場合、親権者の同意が必要でしたが、これからはどうなるのでしょうか。
和泉 医療行為は監護権の範囲と考えられます。親権者に知らせないで手術を受けることがいいとは言えませんが、監護権としてみた場合、監護上どうしても必要な場合は、かならずしも同意を得なくてもかまわないということになるのだと思います。
――法律が改正されて、なにか懸念するようなことはありますか。
和泉 監護権が与えられたのだから、養育は里親任せにして、もう支援する必要はないだろう、というような動きがでるのは困ります。里親への支援はもっともっと必要です。
――ありがとうございました。
 
 
和泉広恵:日本学術振興会・特別研究員(所属研究機関・千葉大学文学部:専攻家族社会学)
インタビュアー:木ノ内博道







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