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マンガに関する本
 
 今日は、『日本マンガを知るためのブック・ガイド』という本を持ってきました。定価は1,200円ですが、残念なことに、なかなか手に入りません。本屋では買えません。マンガ学会が京都精華大学から出版したものです。とても役に立つ本で、この講義同様、二カ国語になっています。つまり、全項目が英語と日本語で書かれています。マンガに関する本の批評と、マンガに関する情報をもっと見つける方法が書かれています。しかし、先ほど、マンガ本が絶版になっていることが多いと言いましたが、この本で取り上げられている多くの本も、この本が出版された2002年に、すでに絶版になっています。ですから、マンガに関する本も、絶版になることが多いのです。
 一つ例を挙げます。『日本一のマンガを探せ!』(別冊宝島316)という本があります。出版は1997年です。去年(2003年)、私は京都に住んでいましたが、たまたま本屋に立ち寄りました。驚いたことに、その本が再版になっているではありませんか。そこで、もう一冊買ってしまいました。私個人のものがなかったからです。大学の図書館にも一冊あっただけですので、学生が借りられるようにもう一冊注文しようかと、後になって思いました。というのも、二冊以上ない本は、貸し出さないからです。そこで、2004年2月に注文しようとしたのですが、1月に再版になったものが、すでに絶版になっていました。つまり、1ヶ月ですでに絶版です。本当に短時間です。実は、マンガに関する本は、マンガ本そのものよりも、入手困難かもしれません。最近私はこの本に熱中しています。
 この本はとてもうまく整理されています。経歴、人物紹介、そして、メディアの中のマンガ、出版や雑誌についてなど。それから、マンガとは何かに関する評論やマンガ研究です。注釈は、非常に独断的です。他の書評と違い、かなり強烈な意見が書かれています。日本では、書評は当たり障りのないものになりがちですが、この本には、非常に強い意見が書かれています。ここに取り上げられている本を、すべて集めようとしているのですが、なかなかそこまで行きません。先程紹介した7つの図書館でも、全冊そろっていないところもありますので、オハイオ州立大学で全部持っていなくても、それほど落胆することはないと思います。
 『マンガの批評と研究+資料』はマンガ研究の手引書ですが、著者は竹内オサムです。他にも数冊マンガに関する著作があります。この本には、マンガを扱った記事や本に関する、多くの引用文献データが載っています。強調したいのは、普通、そのような出典を見つけるのは、とても難しいという点です。文学や歴史の研究の場合、データベースを使って調べることができます。日本研究のほとんどあらゆるテーマについて、データベースで調べられます。しかし、マンガ研究の場合はとても難しいのです。なぜなら、マンガに関する記事が載っている雑誌には、索引がありません。ですから、この竹内オサムの本は、とても貴重です。最近、京都精華大学が、マンガ学会のウェブサイトを運営し、記事や書籍の引用データを研究用に公開しています。ですから、マンガについてもっと情報がほしい人は、マンガ学会のサイトやデータベースを参照してください。
 先ほど触れた『日本一のマンガを探せ!』は、2004年1月再版になり、2月には絶版になりました。1,000人の漫画家を解説した本で、テーマ別に漫画家を整理してあります。それぞれの漫画家を分類して、一つのジャンルに入れていますが、これは、先ほども触れたように、とても難しいことです。というのも、多くの偉大な漫画家は、複数のジャンルで活躍するからです。いずれにしても、この本は、1,000人の漫画家の2,000作品を扱っています。
 このような本に誰を載せるかという選択は、文学研究でいう「キャノン」(ある分野の書物の包括的リスト)を作るようなものです。近代の文豪は誰か、偉大な哲学者や宗教思想家は誰か等を論じる時、各ジャンルで文献の包括的リストを作ります。そして、それが「学問のある人」の必読書と言われたりします。マンガの場合も、それと同じようなことが、この種の本で行われています。誰がこういう本に載るか、という選別です。一定の段階やレベルに達して、このような手引書というエリートクラブに入会するのは誰か、選択が行われているのです。理想的には、これら2,000作品すべてを、私の図書館に置きたいと思います。そうすれば、「本当にすばらしい蔵書がそろっていますね」と言ってもらえるでしょう。この種の本では、そういうことが行われているのです。
 宮本大人という研究家がいますが、「マンガ」という言葉が、どのようにして使われるようになったか、また、マンガというコンセプトが、明治・大正時代にどのように一般に認められ、受け入れられていったかを研究しています。その点では、国文学やその他の分野に通じるものがあります。同時期に、各分野を正規の学問として確立する取り組みが進められました。当時、マンガでもそのプロセスが始まり、今でも続いています。マンガとは何か、主要な漫画家は誰か、まだ議論が続いていますし、多くの人が研究中です。マンガの定義とは何か、マンガはいつ始まったか、などなど。
 私が一番よく質問されるのは、マンガはいつ始まったのか、ということです。私のマンガコレクションを案内すると、誰もがそう質問します。興味深いことだと思います。というのも、答えはないと思うからです。マンガの1,000年、マンガの300年、50年を論じることができます。適当な数字を選んで、マンガの歴史を語ることができます。それも、今でも続く議論のひとつです。私は、300年、あるいは1,000年もさかのぼるのではなく、マンガの起源は、この一群の人達、1,000人以上の人達だと思います。
 『マンガ論争!』は1979年出版で、『日本一のマンガを探せ!』は、1997年です。前者は(収録項目などの)正確な数字はありませんが、これは本当にすばらしい本で、詳しい説明が載っています。60年代から70年代の偉大な劇画家は誰か、どのように彼らは描いたか、彼らの関心は何だったかなど、書かれています。
 もう2冊の本を紹介します。両方とも1992年に出版されました。『日本漫画家名鑑500:1945-1992』は、石ノ森章太郎が監修したもので、500人の漫画家が載っています。マンガが始まったのはいつか、という話題に戻りますが、この本は、主要なマンガが始まったのは、1945年からだとしています。私はマンガの始まりを、そう定義します。そして、この本の500人が、その期間でもっとも重要な漫画家だと、私は考えます。同じく1992年に出版されたものとして、日本漫画家協会編『日本の漫画家カタログ』があります。同じく500人が載っています。まったく同じ人数ですが、重複はあまり多くありません。2冊合わせると、1,000人近く、多分、800〜900人くらいになります。どちらにも載っている人は多くありません。ですから、ここでも、マンガとは何か、漫画家とは何かについて、議論が続いています。
 それはともかく、マンガについて研究する人には、すばらしい資料になります。なぜなら、漫画家自身が参加して作られたため、これらの本には本当にすばらしいデータが入っているからです。2冊とも自費出版で、一般には市販されていません。
 
マンガのハウツー本
 
 次に話をする研究資料は、ハウツー本です。漫画家になる方法やマンガの描き方などの本を見たことがありますが、本当に退屈なものです。役に立つこともあるのだろうと思いますが。しかし、マンガの描き方の本を、昔の物からずっと集めると、マンガのスタイルの変化がよく分かります。戦前に出版されたものを見ると、当時の漫画家の関心がよく分かります。60年代、70年代、80年代も同じです。マンガの描き方は、大きく変わっているのです。そう考えると、ハウツー物もずっと興味深くなりました。ですから、今売られている本は現在のマンガを記録し、これまでの本は、年月と共にマンガが変化していることを示しています。そして、これらの本は、往々にして、巨匠漫画家の秘密を明かしています。こういう本は、次世代を育むために、偉大な漫画家本人が参加して書かれることがあります。というのも、マンガは「参加芸術」だからです。マンガは本質的に、読者が参加して、自分でも描き始めるようにできています。読むだけでなく、自分でも描き始めたくなるのです。
 
スコット・マクラウドとマンガ
 
 今度は、ある講義について話したいと思います。スコット・マクラウド(Scott McCloud)という人を知っていますか。2003年、私達の大学で行ったアトムの誕生日に関する連続講義のひとつとして、彼も講義を行いました。大学に招き、マンガについて話してもらいました。マクラウドの著作には『Understanding Comics』(邦訳『マンガ学――マンガによるマンガのためのマンガ理論』岡田斗司夫訳;美術出版社 1998年)があります。『You Are Here』(君はここにいる)と題したその講義で、彼はマンガについて7つのことを話しました。
・アイドル的登場人物。
・リアルな状況。
・アスペクト転換。これは基本的に、沈黙と思考場面の多用。
・主観的動作。例えば、オートバイを描くのではなく、読者が運転席に座り、読者の手がハンドルを握って、運転しているように見せるなど。
・現実アンカー。現実の世界につなぎ止めるものを多用し、今起こっていることだと感じさせる。
・ジャンルや対象読者の進化。
・ストーリーを展開するテクニック。
 これらについて詳しい説明はしませんが、その講義を聴いたとき、本当に感銘を受けました。それまで私もマンガをずっと集めていたのに、マクラウドは一体どうやってこの興味深い7点を思いついたのか、と考えました。というのも、普通、マンガを論じる時は、少女マンガや少年マンガについてだったり、ジャンルに基づいたことばかりだからです。それなのに、彼はジャンルを省いて、漫画家がどのように作品を描くか話していたのです。
 その後、『マンガのかきかた』という本に、たまたま出会いました。1980年に出版されたハウツー本です。70年代終わりから80年代初め頃、マクラウドはニューヨーク市に住み、紀伊国屋書店でよくマンガを読んでいた、と言っていました。この本を読むと、彼の講義と類似点が多いと感じます。この本は、背景について数ページを割き、漫画家がどのように背景を描いているか論じています。さまざまな漫画家を取り上げ、背景にどのように取り組んでいるか、詳細に示しています。数ページにわたって、実際の漫画家の例を示し、いろいろな要素をどのように取り入れているか論じています。マクラウドが講義で話した要素と、ほとんどすべて同じです。彼は、この種の本を読んだことがあるか、あるいは、何らかの形で出会ったことがあると、私は感じました。今、書店に行ってマンガの描き方の本を買っても、明らかに、こんな内容ではありません。現在のハウツー本は違います。時代が変わったのです。マンガの描き方のスタイルも変わりました。しかし、これらは、マンガを記録し、理解するためのとても貴重な資料になると思います。







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