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生徒作品が日台文化交流青少年スカラシップに入選!
 参加者の完成作品は第2回 日台文化交流青少年スカラシップ(主催:フジサンケイ ビジネスアイ、産経新聞社)のマンガ部門に応募し、以下の結果になりました。
 
優秀賞 浜田 泰行
佳 作 狸塚 亮宏
 
努力賞 枝 善子
遠藤 大
斉藤 美典
長岡 枝里
比護 由佳 (五十音順)
 
日台文化交流青少年スカラシップについて
 若年層の国際意識が高まる中、21世紀にふさわしい真の国際人となるための国際理解、そのための実践的な海外交流の必要性が強く叫ばれています。
 台湾は、歴史的・地理的・文化的に最も日本に近い外国の一つです。また、GNP、GDP共に先進国と肩を並べる力を持っています。ところが日本の戦後教育の中で、台湾が「灯台下暗し」となり、日台友好の意識が希薄になり始めています。
 そこで中学・高校・大学生から広く作文や絵画、書、マンガ、一芸を募集、優秀な学生を台湾へ派遣し、現地で同世代との交流をはじめ、直接人々と触れ合うことによって、相互理解を深め、新しい時代の日台関係を築くきっかけにしたい、という趣旨から「日台文化交流 青少年スカラシップ」が開催されています。
 
東京都立小松川高等学校
校長 天沼 照夫
 
 
 平成14年度から学校週五日制が完全に実施され、学校では土曜日の活用が大きな課題となった。本校では、土曜教室として、教科の補修・講習を始め自習教室、ビデオ講座などを実施するとともに、平成15年度からの「総合的な学習の時間」を小松川「ウインズプロジェクト」として進路学習体系を確立した。その一環でウインズ講座を設置し、同窓生など社会の第一線で活躍されている方に、講義、講演、ワークショップを依頼し、幅広い学習を通して、多様化、複雑化してゆく社会の枠組みを理解して、生徒個々人が進路選択をしていくことをねらった。
 
●ウインズ講座の目指した教育の一環としてのマンガワークショップ
 都立高校には、各校に学校運営連絡協議会が設置され、学校評価などを実施している。本校の平成15年度の学校運営連絡協議会において、現役生徒の支援となる活動が話題となった。委員の同窓会員から、東京財団の支援を受けて文化としての「マンガ」を小松川高校の教育に取り込めないかとの提案がなされた。生徒の中に一定数の関心を持つ生徒がいることを前提に、学校設定科目としての設置を検討したが、講師などの関係で無理と判断した。しかし、ウインズ講座の一環であれば実施可能と考え高校初の「マンガワークショップ」のスタートに踏み切った。
 東京財団の協力を得て、プロのマンガ家、関口シュン先生、さちみりほ先生の実技指導が受けられることとなったが、恵まれた条件にもかかわらず、定員20名が校内では集まらなかった。そこで、またとない機会なので、小松川高校の生徒だけでなく、卒業生、近隣の中学校・高校にも範囲を広げてよびかけ、あわせて新聞でも募集したところ、中学生から高校生、専門学校生まで23名が集まった。
 5月末から1月までの約9ヶ月間10回の講座を土曜日に小松川高校で実施した。途中3名の辞退があったが、20名全員が自分の作品を完成させた。最終講座後の反省会では、どの生徒も成し遂げた満足感が表情に溢れていた。マニュアル化された便利な電化社会でぬくぬくと日々を過ごすことが多い生徒たちだが、いったんはっきりとした目標が定まると、実にてきぱきと行動できることに、改めて感心した次第である。
 この企画を実施して、年間を通じて計画的に一つのことを目的に開催する意義の深さが実感できた。ウインズ講座の形態として、1回ごとに完結させるものと、連続させるものとに分けて考えることができると、マンガワークショップを通して確認できた意義は大きいと考えている。
 
●ワークショップの成果・学校教育でマンガを扱う意義
 現在の中学生、高校生は幼児期から、マスメディアと自然に接してきている。マンガやアニメに親しむ機会も多く、その影響は計り知れないものがある。また、こうした生育暦を持つ生徒を、いかに教育していくかは我々に課せられた大きな課題である。
 教育には、知・情・意の営みがある。マンガ制作には単に絵を描く技術のみならず、知識、社会常識、人間関係など幅広い勉強が必要となる。マンガ制作を通して社会を見直す眼や感受性を養うことができると考えている。
 没個性といわれることが多い中高生だが、私が必ずしもそう思っていない。むしろ、分野によっては、過去には考えられないような資質・能力を有している生徒がおり、超個性的といえる生徒もいる。社会状況の変化で、生徒個々の興味、関心が多様化しており、受け止め方も複雑多岐にわたっている。その力が、具体的マンガ制作によって開花したと思われるケースが今回のマンガワークショップでも見受けられた。便利な社会の中で受身的になりがちな生徒が多いが、今回のようなチャンスがあれば、かなり劇的に変容することが実証されたと思っている。
 マンガの制作を通して自己を表現する方法を身につけた成果は大である。表現の手段は人さまざまであるが、制作の過程で得た資質・能力は今後につながるものである。多様な情報が氾濫する現代社会の中で、子供たちは日常生活を送っている。生徒は、情報を読み取り、自分の中で組み立て、役立てることが大切である。学校教育の場でも、適切な時期に適切な教材で教育するのが、最も効果をあげられる。その意味で、生徒の興味・関心が高いマンガを教材化することも必要と考えている。ただ、教育現場ではマンガ、アニメは娯楽と捉えられている。今や、文化としての側面が世界的にも強いことが認識されれば、マンガの社会的価値も高まり、学校教育にも積極的に取り入れられることは間違いないと考えている。
 
関口 シュン
 
 
 当初、このマンガワークショップは、高校生を対象として考えられていて、私が作成したカリキュラムもそのように組んだものでした。しかし、高校側で募集したところ定員に満たない事態となり、急遽中学生や卒業生にまで募集範囲を広めることになったわけです。その結果、受講者の年齢幅が広くなり、とくに中学生には、このカリキュラムで大丈夫だろうか?もっとやさしいわかりやすい教え方が必要なのではないか?と、不安がよぎってしまいました。また、女子生徒が多いということも判明し、いわゆる少女漫画系の作品作りという部分に、男性系のマンガを多く描いてきた自分としては、少なからずも心配もありました。
 そこで、これまでもアジアMANGAサミットなどでお世話になってきた有名少女マンガ家のさちみりほさんのことが思い浮かび、また彼女の住まいが近所だということも知っていたので、ぜひにとヘルプをお願いしたわけです。彼女は元小学校の教師という経歴もあって、その才能と指導の熱心さをおおいに発揮してくれ、また連載を抱える超多忙の中、ヘルプどころか私と共にメインの講師として指導してくれました。さちみさんにお願いしたことが、私はもとより、生徒たちにとっても大変有意義で頼りがいのあるものになったので、本当に良かったと思っています。
 さて、そのようにさちみさんと二人でマンガ制作をしてきた結果はご覧の通りですが、このワークショップを担当するにあたり、どのようなことを狙いとしたかを述べたいと思います。
 まず、プロのマンガ家を養成するのではなく、「マンガを描き上げる」ことを体験してもらうことでした。自分で発想したアイデアにストーリーを付け、キャラクター設定や演出を考えていくこと。カリキュラムでもそのようになっていますが、前半はとくに「考える」ことに重点を置きました。ストーリーを考えるということは、読者はもちろんのこと、登場する人々の気持ちを考えていかなければなりません。たとえ人物たちがストーリーの道具であっても、血の通った人間で無ければなりません。プロ養成ではないと書きましたが、この講座ではストーリーが完璧である必要なく、人物たちを活き活きと描くことが大切だと思いました。そして、そのいろいろな人々に気持ちに立って考えることが、今後マンガ家にならなくても、必ず人生の仕事に生きてくるはずなのです。
 そして、つぎに「達成感」を体験してもらうことです。これは、どんな体裁の仕上がりになったとしても、最終ページにエンドマークを打つことが大切で、自分が描き上げたんだという自信に繋がります。もちろん不満も納得のいかないことも当然ありますが、その気持ちもとても大切なのです。今回は上手くいかなかったけど、よし、次はがんばるぞ!という自分を立て直す気持ちは、どんな仕事であっても人生のあらゆる局面においても、必要な積極性ですから。
 絵については、あまりプロのテクニックを教える気はありませんでした。まず、この初歩段階では、自分のイメージを紙に描き落とすことでもかなり大変なのですから、ここではまず描いてみることを体験してもらうために、自由にさせました。なによりも表現意欲が大切だったのです。もちろん、質問があれば説明をしました。質問や疑問が出てくることが、真剣に取り組んでいる証拠です。
 「マンガを描く」と聞くと、紙に絵を描くことを連想しますが、それはイラストレーションなのです。マンガというものは、イラストではなく、アイデアやストーリーを持っていて初めてマンガなのです。また、アニメーションとも違うのは、動かない絵を動いているようにコマ割りや記号を駆使して、動いているように見せなければならない点がその違いです。今は、デジタル技術によってアニメーションであっても一人で制作出来るようになりましたが、ストップモーションで表現するマンガとはそこが違います。
 こうした講師側の目論見は、生徒たちは知る由もないのですが、私が驚いたのは皆のレベルの高さです。皆が作った絵コンテを見てみると、もうすでにそこにはマンガ的表現がありマンガ的世界があったのです。中学生の生徒であってもです。これはマンガ文化の根付いている日本ならではのことだと思います。諸外国ではこのように簡単に自分のイメージをマンガ化は出来ないと思います。その意味でもレベルは高く、生まれたときから、雑誌やあらゆる本、テレビ、ポスターなどのコマーシャルに、マンガ的表現が存分に使われている中で育ってきたわけですから、教えるまでもなくその表現は染み込んでいるということなのでしょう。とくに、このマンガワークショップにわざわざ応募してマンガを教わりたいと思った生徒たちですから、なおさらそうした感性に長けているわけです。正直、私は驚き、感動しました。以前、専門学校のマンガコースで講師をした経験があって、大学に行きたくない、就職もしたくない、ちょっと人生の決定を先延ばしにしておこうというモラトリアム状態の若者がそのコースに多くいました。その連中に比べればはるかにマンガを描くことが好きで一生懸命だったのです。当然レベルは高いわけです。
 こうした意欲とレベルを持った生徒たちを、1年間かけて毎週教えることが出来るならば、どんなに素晴らしい作品が出来るだろうと、さちみさんと話し合ったことがあります。たった10回という回数で一番苦しかったのは、もちろん生徒です。飛び飛びで開かれた9ヶ月の間、よく飽きずに意欲を持続させて仕上げたものだと思います。きっとこの生徒たちなら毎週でも積極的に参加してレッスンを受けたと思います。たとえプロのマンガ家にならなくて、他の職業についてもこの経験はきっと、生徒たちの中で実になっているはずです。マンガを制作するということは、いわば総合学習なのですから。
 最期に、都立高校でありながら、このような機会を作ってくれた小松川高校の校長先生や副校長先生、教頭先生の方々、素晴らしいサポートと気働きをしてくれた小松川高校の同窓生の皆さん、そして東京財団の方々にお礼を申し上げます。ありがとうございました。また、締め切りに追われる多忙な日々を縫いながら、私の緩いコーチングにビシッとした緊張感を与えてくれたり、またアシスタントの方々を動員してプロの雰囲気を醸し出してくれたり、親身になって生徒たちを心配して暖かく接してくれたさちみりほさんに、深く感謝いたします。
 そして、マンガ界に携わっている我々に、改めて希望と遣り甲斐を思い起こさせてくれた生徒たちの一人一人に出会えたことを、心から嬉しく感じています。いつか、この中の一人でも素晴らしい作品を描いて、読者に感動を与えてくれることになれば、もう最高です。どうぞ、今後も楽しんでマンガを描いていってください。







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