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創造力の翼を広げることができた『地域文化シンポジウム』
 
マンガ家・徳山大学非常勤講師
なかはら かぜ
 
 徳山大学でおこなわれた峰岸先生によるアニメ教室は、たいへんすばらしいものでした。子ども達が創作したイラストやマンガが、あるいは粘土がまさに命を得たように動き踊る瞬間は、作った子ども達のみならず、となりで指導していたボクたちまで一緒に感激したものでした。
 絵が動くことによって、そこに命が与えられ、空間が存在し、時間軸が設定されるわけですが、それが何もなかったはずの紙の上や、単なる固まりでしかなかった粘土からわきあがってくるように、子ども達やボクらに圧倒的な存在感でもって飛び込んでくることの不思議さ。アニメの魅力は、そんな計算では計れない予想を超えて出来上がった作品の動きを見た時の感激と楽しさなのだなと思いました。
 もちろんプロのアニメーターはひとつひとつの動きを見事なまでにコントロールできなければならないのでしょうが、本来それとは違った、むしろ枯葉が枝をはなれ地面にはらはらと落ちてゆくときの動きを、実は誰も完璧に予想しシュミレーションできないのと同じように、いろいろな子ども達ひとりひとりの持っている想像力や感性でもって、大人達の頑なな頭では予想できないような個性的なアニメーションが今回出来上がったのだなと感じています。
 ボクの好きな言葉の一つに「どんな鳥も、子ども達の想像力より高く飛ぶことはできない」というのがあります。今回は短い時間でしたが、峰岸先生の適切なアドバイスのおかげもあり、十分に子ども達は想像力の翼を広げることが出来だのではないかと信じています。
 徳山大学の知財開発コースは、実はそのような自由な感性や発想が知財開発に不可欠であることを学ぶコースなのです。
 日本には、マンガ文化という独自の文化があります。電車の中でサラリーマンがマンガを読んでいる光景は、欧米人に言わせれば異様に映るようです。マンガというのは、作品の中だけで展開されるマルチメディアといえます。つまり、静止したイラストではなく、マンガは読者の頭の中に、紙という最もポピュラーなメディアを使用し、イマジネーションを最大限に利用して、架空の動画を展開するための要素をたたき込んでゆくメディアです。コマ割りという手法などを駆使して、登場人物のキャスティング、時間的な要素、空間的場面設定、大道具小道具、音響効果、特殊効果を実現しているわけで、小説の挿し絵を見ている感覚とはまったく違うということです。
 しかも、その作品のもっている世界観はすべて作家の頭の中のみで生み出されているということのすばらしさ。まさにマンガ、アニメなどを通して、ボクは学生達に知的空間を自由に飛び回る翼を持ってもらいたいと考えるのです。
 またマンガを早くからサブカルチャーとして発展利用してきた日本の社会では、もう何十年もの前からマルチメディアに親しんできたメリットがあります。それだけにマンガに代表される基礎文化は、別のジャンルのマルチメディアを受け入れるのに、非常に都合のよい基盤であるようです。
 またこのところ、マンガやアニメを学問的に分析しようという動きや、サブカルチャーをメインカルチャーにしてしまおうとする動きもあり、多くのマンガ・アニメの評論本が書店に並ぶ現実もあります。
 このように知的財産(ソフト、ソフトウェア)を生産する分野の一部がメインカルチャーとなりつつある現象は、これらの分野が持つ経済的規模が拡大したことに裏打ちされており、マンガについて教える大学・短大の出現や、マンガやアニメの製作を教授する専門学校の増加によって、これを学ぶ若者は年々増えつつあります。徳山大学でも学生達が経済や経営を学んでゆく上で、マンガ、アニメを通して知的空間を満喫することは、必ずや自らの夢や目標を実現させる大きな力となるのではと期待しているのです。
 そういった新しい世代の文化を睨んだときに、その文化を担っていくであろう子ども達が、はやくからマンガやアニメの魅力を学ぶことや実践することは、とても大きな意義があると思うのです。今回のアニメ教室は、子ども達の心の中にそんな一石を投じる企画となったと、とても喜んでいます。その石の波紋がやがて大きな波動となって、日本の文化をより高めてくれることも期待しているのです。
 マンガウォークラリーは3人のマンガ家の先生がそれぞれ4コマ、1コマ、似顔絵のマンガでの課題を出し、決まった時間内で仕上げて、3人のマンガ家すべての課題をクリアすると合格というラリーでした。制限時間があると人間はものすごい集中力を発揮するものです。その時に難問に対してどうにかしてアイデアを出そうと必死になり、普段余裕があるときのような余計な遊びがなくなり、自然と本当の自分の個性が表面に現れてくるものです。
 それこそ、その子どもが生まれながらに刷り込みされた個性であり、人間としてのすばらしいキャラクターだと考えます。まさに金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という詩に代表されるように、マンガの中にそれぞれ違った個性がきらりと光って見えてくるのです。それこそ子ども達が本来生まれながらに持っている知的財産といえるのではないでしょうか。
 こうして、東京財団のみなさんのご協力を得て、本州の西の端、山口県でも新たなる試みとして、次の時代へつなげることのできる文化維新としてのその一歩を今回踏み出すことができたのは、徳山大学としてのみならず、山口県全体としても新しい文化の時代の発動を実感できたイベントでした。このような活動の機会を無駄にすることなく、微力ながら生徒たちと共に山口県内だけではなく、全国へ、全世界へと発信できる授業や活動をこれからもがんばって展開しつづけていきたいと思っています。







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