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V 緊急時等における医療提供体制
 在宅終末期ケア(緩和ケア)において、緊急時の対応の中心は、本人の苦痛感の改善をする事。
 キーワードは適切な医療処置、十分な説明と指導、生活上の工夫、安心へのサポート
 
1 起きうる症状等予測される事に対して医師と話し合い症状対処の方法をいくつか確認。医師の連絡先と方法について確認。入院等病院受診が必要とされる場合の後方支援体制と方法についての確認(家族が一緒の事もある)
2 予測される事について上記内容を家族へ確認。
3 必要物品の準備をし、(酸素、薬品、吸引器、吸入器等)準備した物品や指示内容を家族にも伝える。
 
訪問看護ステーションにおける緊急連絡体制
(1)利用者氏名、病状、担当看護師名を聞く
(2)いつから、どんな状態なのか、訴えを聞き起きている病態についてアセスメントする。
(3)電話で症状緩和の指導をする。どれ位で訪問が可能か伝える。(場合によっては訪問希望か救急受診希望かを聞く事もある。)
救急受診希望時は救急車連絡方法や緊急受診先の連絡方法等の指導を行なう。
(4)管理者等に連絡し、すぐ訪問する。(携帯電話当番の住所から遠い場合は、一番近い看護師に訪問要請をする。通常の訪問時からどんな場合誰が訪問するか、誰と連絡し合うか、打ち合わせておく)必要があれば、医師に連絡する。場合によって連絡を受けた者が医師に連絡する事もある。
(5)訪問し病態を把握する。
 訴えを聞く
 症状観察、バイタルサインのチェックをする。(チアノーゼの有無、呼吸状態、四肢冷感等の有無)
(6)事前に話し合った方法で緩和の為の処置ができたか確認をする。処置ができていなければ処置を行う。処置を行ってもなお緩和されない場合は事前打合せの2段階目の方法で対処。
(7)安楽になる方法を考え、安心できるよう支援する。
 姿勢の工夫、空調調整、冷・温罨法リラクゼーション・マッサージ等の実施。
 側に居る事だけで安心する事もある。家族へ説明と共に精神的支援を行なう。症状がある程度軽減されるまで側にいる。
 
*(6)、(7)の状態で軽減されれば、訪問後または、翌朝医師へ連絡。軽減されなければ医師へすぐ連絡する。
 
VI 協働体制(心の見える関係)
1 チームケアの原則
1)チームメンバーの関係は指示関係ではなく、協働関係である
2)ケアに関わる情報は共有する。
3)ケアの方針はチームメンバー(本人、家族を含む)で話し合って決める。
4)ケアはチームで分かち合う
 
2 地域(他機関)との連携及び緩和ケアチーム体制作り
☆めざすこと
 在宅療養者が終末期を迎える場合、疼痛コントロールや余命の説明、延命治療、死亡確認など、医師との連携は不可欠である。また、介護保険制度の開始により、ケアマネジャー、福祉用具、訪問介護、訪問入浴、施設サービス事業者等の連携が必要となり医療 福祉の架け橋である看護師はチームコーデュネーターの役割が求められる。本人や家族の願いに添い、苦痛が緩和され安心した終末期を過ごすために、それを支えられるチームを作る必要がある。
 在宅終末期ケアチームは、地域にどんなサービスがあるか、療養者と家族にとって必要なサービスは何かを捜し、チームを創造するという視点が必要
☆連携のポイント
1、医師及び医療機関
(1)近隣病院等と連携を持ち、利用者の病状や終末期ケアの方向性など、相談できる関係を作る。
(2)主治医と家族間の信頼関係を作る連携を図る
(3)主治医とサービス提供者間の連携を図る
2、福祉サービス提供機関との連携
(2)ケアカンファレンスを行い、終末期ケアの目標や問題点、援助の方向性を共有する
(1)地域のケアマネジャーと綿密な連携を持つ
(地域のケアマネジャーヘの終末期ケアの啓蒙活動)
(3)ケアマネジャーと必要な情報交換ができるような関係を作る
(4)ホームヘルパーとの連携を持つ
(6)介護者の休息や社会参加の視点から終末期を支えてもらえる施設利用の検討や利用調整をする。
 
3 訪問看護ステーション内のチーム体制
1)チームリーダーの育成
☆めざすこと
 管理者はいつも事業所にいるわけではないので、急変時や緊急時、対応困難なケース、特に終末期ケアに関して、すぐに代行が勤まり、整理や調整ができ、信頼して任せられるパートナーを育成する。
☆チームリーダー育成のポイント
(1)チームリーダーの経験を重ね、能力の発揮できる機会を作る
(2)主体的で客観的な行動がとれるチームリーダーを育てる
(3)管理の方法をチームリーダーに伝える
 
2)スタッフの育成
☆めざすこと
 終末期ケアを提供する場合、スタッフ自身の死生観が揺さぶられるような体験を通し、かなり追いつめられるような心境に陥る場合も少なくない。体験を精神的、技術的な成長につなげられるように支える。
☆スタッフ育成のポイント
(1)実施したケアや行動を認める
(2)日頃から終末期ケアに向き合うように意識づけをする
(3)スタッフが自分自身の感情を自覚し、表現できる環境を作る
(5)プライベートな問題が終末期ケアに影響しないようスタッフを精神的に支える
(6)ケースを振り返り、看護技術や対応の方法、利用者や家族の心の変化への気づきや自分自身の心の変化、他の事業者との関係構築など、総合的な振り返りを行う
3)訪問看護師間のチーム作り
☆めざすこと
 個々のスタッフが率直に話し合いのできる環境を作る。訪問看護ステーションがめざす目標をチーム全員で共有し、その目標に向かって行動できる。チーム全体がステップアップしていくことに喜びを感じられるようなチーム作りをする
☆チーム作りのポイント
(1)管理者自身が終末期ケアに意欲をもつ
 管理者自身の心の動きや姿勢は、チーム全体の雰囲気に影響を与える。
(2)ステーション内にいつも居心地の良い雰囲気を作る
 落ち込んでいるスタッフもステーション内の雰囲気が良いことで気持ちが変化し、仕事への意欲を回復させる
(3)個々のスタッフが感情を表出できる場作りをする
 個々のスタッフが自分の感情を表出できる環境を作る。素直に相談できるような関係がチームの雰囲気を穏やかにする
(4)個々のスタッフのキャリアを認める
 スタッフの多くは、施設での臨床経験を持っている。個々の特性を認め合いながらステップアップできる教育体制を作る
(5)ケアチーム全体で問題を共有する
 チーム全体でケース検討をし、問題や方針の共有化を図る。(独りよがりの看護にしない)
(6)チームケアの振り返りをする
(7)遺族との関わりの機会を通し、チームとしての課題を見出す
 訪問看護師個々が、自分の関わり方などを内省し、今後の自分の課題を確認すると共に、それをチーム全体の課題として共有する。
(8)チーム内で互いに理解し合い、励まし合える関係を作る
4)ケアチーム内の意見がまとまらない場合
☆めざすこと
 利用者及び介護者、家族が何を望んでいるのかを明確にし、ケアの方向性を一致させ、後悔が残らないケアが提供できるように調整する。
☆訪問看護のポイント
(1)利用者や介護者の願いをケアチームのメンバーに伝える。
(2)ケアチームのメンバーが、それぞれの願いを表出する機会を作る。
(3)だれのためにケアを提供しているのか、何の目的でチームを組んでいるのか十分に話し合う。
(4)お互いが妥協できる部分があるか話し合いをする。
(5)現在の状況と今後の予測を説明し、何が優先順位の上位になるか話し合う。
 
5)訪問看護師がケアマネジャーを兼任している、または、訪問看護ステーションに居宅支援事業が併設されている場合
☆めざすこと
 ケアマネジャーと訪問看護師の業務を兼任している場合、役割分担を明確に行い、ひとりで責任をすべて背負わないようにし、利用者や家族にサービスの違いを理解してもらう。
☆訪問看護のポイント
(1)利用者にサービスの内容を理解できるように説明する。
(2)奉仕のかたちでサービスを提供しない。自分ひとりで、利用者を支えているのではないことを自覚していることが大切。
(3)同じ場所で仕事をしているから、この事は知っているだろうと思い込みやすいが、誤解が生じないようできるだけ文書で情報の共有を行う。
(4)自分の仲間を信頼しお互いに尊重し合った関係を保つ。
 
参考文献
1 財団法人 日本訪問看護進行財団:平成13年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業 終末期ケア体制のあり方に関する研究―高齢者の在宅における看取りを中心に―研究報告書(検討委員長 川越厚) 平成14年3月
2 財団法人 日本訪問看護振興財団:平成14年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業―高齢者終末期ケア体制のあり方に関する試行事業―事業報告書(検討委員長 遠藤恵美子) 平成15年3月
3 川越厚 在宅ホスピスケアを始める人のために 医学書院 1999年12月15日 第1版第2刷
4 村井淳志 監訳 重度痴呆性老人のケア 終末期をどう支えるか 医学書院 2000年4月 p.223
5 岡本祐三 高齢者医療と福祉 岩波書店 2002年10月25日 第14刷
6 日本訪問看護振興財団 編集 継続看護実践ガイド 医療機関と訪問看護をつなぐ看看連携 中央法規出版
7 田村恵子 編集 がん患者の症状マネジメント 学習研究社 2002年12月30日 初版第1刷
8 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科:平成14年度厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業) 在宅ターミナルケア患者の経時的ニーズの変化に対応するケアプログラムの開発と評価方法(主任研究者 島内節) H15年3月
9 日本福祉大学在宅ターミナル研究会:財団法人住友海上福祉財団研究助成介護保険下における在宅介護と保険・医療・福祉の連携に関する調査研究報告書〜在宅高齢者のターミナルケアに関する全国訪問看護ステーション調査報告書〜 (研究代表者 近藤克則)
10 社団法人 全国訪問看護事業協会:平成13年度社会福祉・医療財団(長寿社会福祉基金)助成事業 早期退院における病院との連携を促進する訪問看護ガイドライン作成事業 (委員長・主任研究者 川越博美) 平成14年3月
11 社団法人 全国訪問看護事業協会:平成14年度社会福祉・医療財団(長寿社会福祉基金)助成事業 早期退院における病院との連携を促進する訪問看護ガイドライン作成事業(委員長・主任研究者 川越博美) 平成15年3月
 
お勧めしたい本
・看護は祈り 寺元松野ことば集 日本看護協会出版会
・いつでも会える 菊田まりこ 学習研究社
・君のためにできるコト 菊田まりこ 学習研究社
・さよなら エルマおばあさん 大塚敦子 小学館
・わすれられないおくりもの スーザン・バーレイ さくえ 小川仁央 やく 評論社
・おにいちゃんが病気になったその日から 佐川奈津子 小学館
・「なぜ」から学ぶ生命倫理学 松川俊夫 医学芸術社
・ケアの向こう側 ダニエルFチャンブリス著 日本看護協会出版会
・命は誰のものか 岡田玲一郎著 家の光協会
・物語としてのケア ナラティブアプローチの世界へ 野口裕二著 医学書院
 
 
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衣病訪問看護ステーションにおける教育プログラム
I 1ヶ月目
1 法人・法人各組織(病院・老人保健施設・老人福祉施設・各ケアセンター)を知る。
2 衣病訪問看護ステーションの理念・目標・訪問看護の役割の理解。
3 衣病訪問看護ステーションの地域・対象者の理解(各月毎の利用者状況等)
4 経験年数と病棟等経験の理解。(経験の有無と得意・不得意の確認)
5 経験不足項目についてステーション内でトレーニングし、サポートのもと実施。
6 サポートのもと同行訪問。月末より一人訪問開始。
7 他職種とのカンファレンス・定期または事例毎に(不定期・必要に応じて)
8 毎朝のケース報告・カンファレンスヘの参加。(率直に意見を話す。聴く事で参加メンバー間のコミュニケーションを図る。)
9 緊急時・携帯電話・苦情対応について知る。
10 不得意項目についての自主学習及び課題本・資料の学習。月末頃面接
 
II 2ヶ月目
1 携帯電話対応をサポートのもとで実施(携帯電話対応者)
2 医療依存度のある方へのサポートのもと同行訪問
3 月末位を目処に医療依存度の高い方への一人訪問開始
4 精神疾患のある方へのサポートのもとで同行訪問
5 Iの5・7・8・10について継続
6 面接(精神的フォローを中心に)
 
III 3ヶ月目
1 精神疾患のある方への一人訪問開始
2 終末期にある方へのサポートのもと同行訪問及び一人訪問開始
3 Iの5・7・8・10について継続
4 面接(精神的フォローを中心に)
 
IV 4ヶ月目以降
1 Iの5・7・8・10について継続。
2 専門性の開拓に取り組む
 
関連ホームページ:http://www.jvnf.or.jp/







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