2 地域自衛型防犯システムの構築に向けた地域の取組、行政・警察支援のあり方
前節で整理した地域自衛型防犯システムの構築における共通課題および課題解決に向けての方向性をもとに、本節では、地域自衛型防犯システムの強化に向けた地域の取組のあり方(基本方針・目指すべき姿)、段階的な取組イメージ(具体的取組内容(例))や、地域の取組推進のために必要と考えられる行政・警察の支援のあり方について整理を行った。
次頁の図表は、地域自衛型防犯システムの強化に向けた段階的な取組イメージである。これまでの検討により、各地域における地域防犯システムの充実・強化を図っていく際に重要な課題として、以下の6つの要素があるものと考えられる。
○防犯環境の整備
○情報(知識・ノウハウ)の共有・発信
○人材の育成・確保
○組織運営
○活動基盤(装備・設備・資金・拠点)の確保
○その他団体・地域・行政との連携・ネットワーク
図表は、各取組要素ごとに自主防犯組織の成長に応じた段階的な取組イメージについて、今回調査で把握した活動の実態を踏まえつつ概念的整理を行ったものである。
図表では、取組の成長過程をSTEP1〜3の3段階に区分し整理を行ったが、これは取組成長過程の一例に過ぎず、実際各地域の取組の成長過程は様々であり、必ずしも記載内容のとおりに段階的な取組内容の成長が行われるわけではない。また、各地域の実情(まちの成り立ち、犯罪情勢等)、既存組織の関係性等に応じて、地域防犯の各種構成要素の成長レベルは異なってくるため、行政・警察側からの支援を検討する際には地域の実情を十分に把握し、各種構成要素がそれぞれどの段階に達しているのかを評価し、適切な支援を選択する必要がある。
図表3-2 「地域自衛型防犯」(望ましい地域防犯システム)の
強化に向けた段階的な取組イメージ
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(1)STEP1(新団体設立、既存団体による個別活動)
●比較的取組みやすい防犯活動の実施
ア 基本方針・目指すべき姿(達成目標)
地域住民等が「自分の安全は自ら守る」「地域の安全は住民自ら守る」という自主防犯意識のもと、それぞれのライフスタイルに応じて、負担感を感じることなく気軽に取組めるような防犯活動のPR、推進を実施し、地域防犯への意識高揚、地域防犯活動への参画体験を行う機会を提供する。
イ 具体的取組内容(例)
地域住民等の誰もが比較的容易に無理なく取組むことのできる不定期の地域防犯パトロール活動の実施、子どもや住民へのあいさつ運動の展開、外灯点灯、自転車の鍵かけなどを地域ぐるみの運動として位置づけ、地域の自主防犯活動への参加や自主活動団体の設立の気運を醸成する。
また、「割れた窓ガラスの理論」の小さな犯罪が大きな犯罪を誘発するとの考えに基づき、地域の掲示板から破れたポスターをなくすなどの管理、街から落書きを一掃するなどの地域環境イメージの改善・美化を図る取組や子どもの通学路の安全確保の観点からの街路樹や公園植栽の剪定による見通し確保、暗がりの改善等を実施する。
ウ 行政・警察による支援
個人的な取組から地域一体となった活動への成長を促すため、誰もが取組める自主防犯の県民総ぐるみ運動を展開し、具体的な重点活動項目に沿って広報誌やその他の媒体を用いるなどして、広く県民に実施協力を呼びかける。
また、各種活動を行う際の着眼やノウハウについて、先進事例を紹介するなど配意する。
なお、防犯パトロールを実施する地域に対して、警察は事故防止や緊急時の対応についてアドバイスを行なったり、パトロールに同行するなどの支援を行うことが必要である。
<活動例> 落書き消し活動(大津市、草津市など)
滋賀県では「『なくそう犯罪』落書き一掃事業」と銘打った清掃活動を展開。大津市のJR堅田駅周辺を皮切りに、自主活動団体や清掃業者が中心となって落書き消し活動を実施した。落書き消し活動は住民の防犯意識啓発のほか、住民の活動参加の契機となる面もあわせ持つ。
また、同じく大津市のJR西大津駅周辺では中学生と共同で清掃作業を行う例がみられるほか、草津市では落書きを消した後のトンネルで美術大学やNPOの協力によって小学生が壁画制作に取り組むなど、落書き消しは世代を超えた地域交流を生むきっかけにもなりつつある
(出典:04/5/5毎日新聞、04/9/6京都新聞、04/9/14朝日新聞)
(2)STEP2(地域団体の連携による自主防犯組織設立)
●定期的な防犯活動の実施、各地点での効果的な防犯対策
ア 基本方針・目指すべき姿(達成目標)
防犯活動を展開する地域組織の成熟度に応じて、地域自衛型防犯の構築を目指して不定期活動から定期的な活動への展開の取組を行う。各種取組は、設立された自主活動団体などを中心にした、「取組みやすさ」よりも「防犯上の効果」をより重視する形に戦略的な活動方針への転換が望まれる。
イ 具体的取組内容(例)
地域住民が抱えている日常生活における防犯上の問題点を把握するため、不安感マップ、犯罪発生マップ、地域防犯対策マップの作成を通じて(ワークショップ開催、アンケート調査実施等)、地域の住民自らがハード、ソフト両面から防犯上の課題整理を行う。
また、把握された問題箇所の重点的・定期的な防犯パトロールの実施、防犯灯の設置による暗がり改善、防犯カメラの設置・運用によるパトロールの補完、地域住民の協力による問題エリアの美化運動・改善イベント(落書き消し、清掃、緑化運動、外灯点灯等)等の展開によって、問題箇所の解決に向けた継続的かつ効果的な取組を実施する。
ウ 行政・警察支援
定期的な活動展開の見られる地域に対する防犯アドバイザーの派遣や先進実例の紹介など、地域特性に応じた特徴的な取組に対しても活動支援が行えるような柔軟な支援が求められる。
特に、不安感マップ、犯罪発生マップ、地域防犯対策マップの作成を通じた地域自衛型防犯への取組について、アドバイザーの派遣によりワークショップ開催を支援することなどが考えられる。なお、防犯カメラの設置・運用に関する統一的な指針やモデルを示すことにも配意されるべきである。
<活動例> 防犯アドバイザー制度(滋賀県内)
地域の防犯活動団体をはじめ自治会やグループ、事業所単位で(1)防犯パトロール(2)防犯診断(3)危険箇所の点検(4)防犯教室(5)広報・啓発(6)その他安全なまちづくり活動、といった取組をする際、警察官OBの防犯アドバイザーが自らの経験を生かして助言や指導を行っている。
(アドバイザーによる防犯教室)
(出典:「なくそう犯罪」滋賀安全なまちづくりホームページ
(3)STEP3(地域課題を自律的に解決するまちづくりの組織化)
●計画的・持続的な防犯活動の実施、線的、面的な防犯まちづくりへの展開
ア 基本方針・目指すべき姿(達成目標)
各年の定期的な防犯活動から、中長期的な地域防犯力の向上を目標として設定し、目標を達成するための計画的・持続的な防犯活動の実施を行う。また、問題地点への防犯対策から、安全なまちづくり的な視点からの線的、面的な防犯環境整備の展開を行うとともに、PDCAサイクルの中で地域住民自らそのステップアップを図っていくことが望まれる。
イ 具体的取組内容(例)
中長期的な防犯まちづくり目標の設定・共有化(地域防犯基本計画の作成)を行うとともに、目標実現に向けた防犯環境改善アクションプランの策定(ハード・ソフト)、防犯まちづくり協定の制定(街路環境基準、建物基準、小売店営業基準等の地区独自ルールの設定)を行う。
ウ 行政・警察支援
地域防犯基本計画、アクションプラン、防犯まちづくり協定の策定支援(アドバイザー派遣、関係団体参加調整等)を行うとともに、道路、公園、駐車場、駐輪場等の防犯指針が防犯環境整備に反映されるための普及・啓発への取組を行う。
各種基準設定にあたり、警察からのアドバイス(防犯アドバイザー派遣)を行うほか、地域の開発行為などについても、行政指導が防犯の視点を加味した上で行われる必要がある。
<活動例> 開発指導要綱に防犯条項を追加(草津市)
草津市ではコンビニエンスストアなど集客施設周辺の防犯環境の改善を図るべく、事業者が防犯カメラ設置や照明の充実に努めるよう、協力を求めることができるとする条項を開発指導要綱に追加し、平成17年2月1日より指導を始めている。
【改正内容】
(1)改正条項を適用する開発事業
駐車場を併設するコンビニエンスストア等を建築(新築、改築または増築)する事業
※コンビニエンスストア等とは、以下のとおりとする。
大規模量販店(デパート、スーパー、ホームセンター等)、遊技場(パチンコ屋、ゲームセンター等)、飲食店(ファミリーレストラン等。但し建築延床面積300m2以上のものに限る)、飲食料品店(コンビニエンスストア)、その他市長が必要と認める集客施設。
ただし、上記の駐車場施設については、別途市長と協議するものとする。
(2)必要な措置
上記の事業を行おうとする事業者は、駐車場等店舗周辺に、市長と協議のうえ、次のとおり防犯上必要な措置を講ずるものとする。(1)駐車場等店舗周辺の照明設備を充実すること。(2)駐車場等店舗周辺に向けた防犯カメラの設置に努めること。なお、防犯カメラを設置する場合は、「防犯カメラの運用に関する指針」を遵守すること。
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