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4 モデル地区における地域自衛型防犯システム構築に係る課題の整理
 
 ワークショップを通じて、地域自衛型防犯システムの構築のために必要となる各種取組、主体間の連携についての提案がなされた。各地区の提案内容をもとに、地域および自主活動団体が、主体的に地域防犯対策に取組むための必要事項を抽出し、普遍化することで、地域自衛型防犯システムの構築に向けた共通課題として整理した。
 
(1)地域情報の定期的な把握、発信・伝達システムの工夫
 地域特性を表す指標(人口、世帯数、高齢化率等)について定期的に情報を把握し、地域住民に対して開示される必要がある。
 また、地域内での犯罪発生情報についても、大津市子ども安全リーダーの活動に見られるような、情報収集伝達の仕組みを構築することにより、リアルタイムで犯罪発生情報を収集し、適切な情報を地域住民に向けて発信していく必要がある。
 行政・警察からの情報発信に当たっては、各種メディア(広報誌、インターネットケーブルテレビ等)の活用、住民の日常利用施設における情報開示(駅、スーパー等の事業者との連携)等、地域住民に伝わりやすさの工夫が必要である。
 また、地域内における情報伝達の窓口の明確化、地域連絡網の必要性(新旧住民間の情報連携)が指摘されている。情報の発信者、受信者双方での問題点改善による情報発信・伝達システムの工夫を行うことが必要である。
 
(2)生活者・犯罪弱者の視点からのまちの問題点洗い出しと定期的なモニタリング
 ワークショップ・アンケート調査を通じて、不安感マップ・地域防犯対策マップを作成したことにより、地域住民の日常生活の視点から、まちなかへの防犯上の問題意識を洗い出すことができた。
 まちなかにおける防犯上の問題点は、犯罪情勢、都市開発に伴い、変化するものであるため、地域住民・行政・警察等との連携による防犯対策を計画した後(Plan)、計画に基づいて対策を実行し、(Do)、ワークショップによるマップ作成の定期的実施、こどもヒヤリ掲示板(街頭、インターネット等)の設置等によりその効果と活動上の課題等について評価し(Check)、より効果的な活動へと対応を改善(Action)させていく、PDCAの視点での持続可能な地域防犯活動の展開が必要である。
 
(1)取組みやすい防犯対策の推進から組織的・計画的防犯対策への発展
 ワークショップにおいて、防犯環境設計の視点に基づく各種取組が提案の傾向として、地域活動への新たな参加者を呼び込み、定期的・組織的な活動に発展させていくために、「一人ひとりでも出来ること」「参加負担が少なく出来ること」の視点に立った提案(夜間外灯点灯運動、犬の散歩時パトロール、通学時間帯の庭仕事励行等)が多く見られた。
 
(2)地域防犯活動情報の発信・参加者の呼び込み(新旧住民の交流促進)
 地域防犯活動を継続して行くためには、新たな人材の確保が必要不可欠である。そのためにも、現在の地域防犯活動団体の活動状況についての情報発信の工夫を行い、新たな参加者を呼び込む工夫の必要性が指摘されている。
 特に、新住民の流入増加、定住率の低い地域においては、新旧住民の交流不足が課題として指摘されており、一人でも気軽に参加可能なメニューの工夫、地域イベント(野外音楽コンサート等)の開催による地域コミュニティの育成等の必要性が指摘されている。
 
(1)地域防犯組織の活動基盤の充実・強化、活動の継続性確保
 地域防犯活動団体の活動基盤を充実・強化し、活動の継続性を確保していくために、将来的にNPO法人化を目標とする提案が見られた。
 また、活動の継続性確保の視点として、地域ニーズ・組織の成熟度(多様な要望への対応が可能な状態)に合わせて「防犯」だけに捕らわれることなく、活動テーマの多様性によるを確保していくことが重要であることが指摘されている(例えば、地域コミュニティの育成が地域防犯能力の向上にも寄与するといった視点から、「地域イベントの開催」も活動テーマに加える等)。
 
(2)地域防犯活動団体、その他各種団体との連携・ネットワークの構築
 地域の中にある各種防犯活動団体の活動概要、成果などについての情報共有の必要性が指摘されている。また、防犯以外のテーマに取組んでいる地域団体との活動連携、民間事業者、NPO等との効果的な連携を行うことが重要である。
 特に、未だ犯罪に対する危機意識の薄い地域であっても、その他のテーマ(高齢者福祉、防災・防火等)により各種団体の連携・ネットワークが構築されていれば、犯罪危機意識が高まってきた際に、それが防犯ネットワークとしても活用が可能である。
 各種団体が混在し、団体間の情報連携、人的交流が十分ではない地域において、「地域の安全・安心を守る」といった共通のテーマのもとに、多様な主体が活動連携する仕組みづくり(安全・安心まちづくり協議会の設置等)が必要である。
 
(1)防犯まちづくりビジョン、防犯まちづくり協定の策定
 短期的な取組にとどまらず、長期的な視野に立っての防犯まちづくりビジョン(ハード面の改善も含め)、防犯まちづくり協定等を住民参加によって作成し、地域のコンセンサスを得つつ、防犯活動を計画的、継続的に実行し、ビジョンの実現に向けた関連主体との効果的な連携を行うことが可能となる。特にハード面での改善については、予算上の問題、周辺地域住民との調整等の問題が発生してくることから、普段からの住民ニーズの汲み上げが行われている状況が重要である。
 
 地域防犯システムの構築にあたっては、その前提条件となる地域特性を如何に的確に把握し、その特性に応じた防犯環境の整備、情報の共有発信、活動団体への支援メニューのあり方を検討することが重要である。本調査においては、各種調査が実施されており、それぞれの地域特性の把握に有効であったものと考えられる。
 
(1)各種統計データの分析による地域特性の把握
 各地域特性に関連する各種統計データ(人口、世帯数、高齢化率、定住率、産業別人口比率、刑法犯認知件数(犯罪種別)等)を分析し、統計的に地域特性の把握を行うことにより、関連調査結果を分析する際の基礎情報となる。また、これらの情報をワークショップ参加者に伝えることにより、自分達の地域特性について新たな発見、再認識が行われ、参加者の防犯意識を啓発することで、より効果的な意見交換が可能な状態となる。
 
(2)インタビュー調査による各種地域活動団体・資源の発掘
 各地域において地域活動の主体となっている活動団体に対してインタビュー調査を実施し、活動の現状と課題、活動の展開・方向性等についての情報を把握することにより、地域自衛型防犯体制を確立していく上での地域資源の把握を行う。これにより、ワークショップを通じての具体的な活動展開、主体間連携を検討する際の、取組主体が明確にイメージすることが可能となる。
 
(3)不安感マップの作成による問題意識の共有・洗い出し
 ワークショップおよびアンケート調査により、地域住民の持つ犯罪不安感情報を集約し、不安感マップの作成を行う。これにより、地域が抱えている防犯上の問題点について、より広い視野での共有・洗い出しが可能となり、今後の地域防犯活動をより効果的・効率的に展開することが可能となる。
 
(4)地域防犯対策マップ作成による解決方法の具体化・主体間連携の検討・課題整理
 地域の防犯上の問題点を解決するために、「自分達でできること」「地域団体と連携してできること」「行政と連携してできること」について整理した地域防犯対策マップの作成を行う。これにより、地域特性に応じた課題解決のためにすべきこと、あるべき連携体制について整理することが可能である。
 
 不安感アンケート調査において、今後の地域防犯活動のあり方についての回答として、「警察パトロールの強化」「警備体制の強化」を求める姿勢が強く、「地域住民の連携強化」などによる地域自衛型防犯の発想に乏しい点が見受けられた。
 地域防犯システムの構築にあたっては地域住民の側が「守ってもらう」という受身の姿勢ではなく、「地域の安全のために自分達でできることを自分達でやる」という積極的な地域防犯の担い手としての意識改革が大前提となる。
 本調査を通じて各モデル地区で実施された、各地域の地域特性データ・犯罪情報の発信、不安感マップ作成による地域現状の把握、地域防犯対策マップ作成による具体的な解決検討を図る地域自衛型マップづくりの手法は、地域住民の意識改革ツールとしても有効であるものと考えられる。







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