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はじめに
 分権型社会の実現を目指して、市町村合併の推進や、三位一体改革、規制改革による民間の活力の導入など、地方公共団体を取り巻く環境は著しく変化している。
 このような構造改革のうねりは、国と地方の関係のみならず、これまで行政が中心的に担ってきた公共サービス、ひいては国、地方公共団体の役割そのものを問いかけ、地方公共団体に公の理念の再構築と、より効率的、効果的かつ自律的な行政運営を実現するための創意工夫が求められている。
 当機構では、地方公共団体が直面している諸課題の解決に資するため、全国的なレベルと個々の地域の実情に即した双方の視点から、できるだけ多角的・総合的に課題を取り上げ、研究を実施している。本年度は、5つのテーマを具体的に設定し、取り組んだ。本報告書は、このうちの一つの成果を取りまとめたものである。
 本研究は、滋賀県を調査対象地とし、住民誰もが安心して暮らすことができる地域社会の実現を図るために、住民による自主的な地域防犯システムの構築を検討したものである。
 本研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員及び幹事各位をはじめ、関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
 また、本研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて、滋賀県と当機構が共同で行ったものである。ここに謝意を表する次第である。
 本報告書がひろく地方公共団体及び国の施策展開の一助となれば幸いである。
 
平成17年3月
財団法人 地方自治研究機構
理事長 石原信雄
 
1 研究の目的と背景
 わが国では近年、都市化や国際化、情報化の進展などによる社会環境の変容や地域における人間関係の希薄化などから全国的に犯罪の発生が増加し、その内容も多様化、凶悪化の傾向にある。こうした事態に対応するには警察による取締りや防犯対策に依拠するだけでなく、住民一人ひとりが自らの安全は自らが守るという意識を高め、身近な地域社会において、住民と地方自治体、事業者、警察などが密接に連携と協働を図りつつ、安全な社会の実現に向けて主体的な取組を進めていくことが求められている。
 
 本研究の対象地である滋賀県(以下、本県という)は、第二次産業就業者比率が全国一高く、関西都市圏のベッドタウンとして人口増加が続いており、都市化が急速に進んでいる。また大学の新設・移転により学生を取り巻く犯罪が最近の10年間で倍増している。さらに、本県は、鉄道、道路など国土幹線交通の要衝に位置しており、県内外への移動が容易なため、県外者による犯罪も増加傾向にある。
 このような治安に対する住民不安の高まりに対し、本県では誰もが安心して生き生きと暮らせる安全な社会の実現を目指して、平成15年4月に「なくそう犯罪」滋賀安全なまちづくり条例を施行するとともに、同年10月には基本的方向と推進方策を示した基本方針を策定している。なお、本県では、県内すべての市町において生活安全条例を制定するなど、全県的な犯罪抑止のまちづくりの実現に向けての取組を進めている。
 
 本研究では、本県の地域特性を踏まえた犯罪発生状況のマクロ分析を行うとともに、県内市町の協力を得て、地域特性および犯罪傾向の異なる代表的な3つの地域をモデル地区として選定し、地域住民の参加・協力により防犯まちづくりの課題抽出や取組方策の検討を行う。そのことにより県内市町に共通する地域防犯課題を抽出し、解決に向けての方策を提示することで、安全で安心なまちづくりの具現的な施策展開に資することを目的とした。
 
 本研究では、以下の基本的な視点に立ち、調査分析作業を実施した。
 
(1)防犯環境設計(CPTED)による犯罪抑止の視点からの調査分析
 モデル地区の現地調査に際しては、犯罪率を抑止した有効な対策として注目されている防犯環境設計手法に基づくチェック項目(被害対象、監視性、領域性、接近性)を活用し、建物や街路空間などの周辺環境のチェックを行い、地域防犯の課題・問題点の把握・分析を行った。
 
図表序−1 防犯環境設計(CPTED)による防犯まちづくりの概念図
 
(2)防災、交通安全、福祉、教育分野などの地域課題領域に従事する住民、NPO、民間企業、行政機関との連携・協力による地域防犯力の向上
 市民活動が活発で、地域の連携・連帯が強い地域(ソーシャル・キャピタルが豊かな地域)は、犯罪抑止や少子高齢化など地域の課題発見、対応が迅速であり、地域社会・経済の安定や活性化が期待できるといわれている。
 
図表序−2 ボランティア活動行動者率と犯罪率
注1)「ソーシャル・キャピタル」
人々の強調行動の活発にすることによって社会の効率性を高めることができる「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴(米・R.パットナム)
注2)「SCの負の側面」
(1)個人の自由や特異性を損なう、(2)学歴、人種、性別、収入等の社会的階層によりSCの蓄積は異なるなど、特定グループの利益に偏った内向き、排他的なSCが形成されないように、地域社会のすべての人が参加できるオープンなものとする必要がある
 
出典)内閣府「ソーシャル・キャピタル」2003年より
 
 そこで、警察と消防、児童・高齢者福祉、学校教育・生涯学習など、地域および行政関係機関において、それぞれ機能している組織および活動を防犯まちづくりの潜在的な資源ととらえ、連携・協力による地域全体の活力向上の可能性を検討した。
 
(3)持続可能な犯罪抑止のしくみ(リスクマネジメントシステム)の検討
 複雑多岐にわたる犯罪危機に迅速・的確に対応するために、平時から地域で安全方針を定め、犯罪危機を想定・評価し、防犯対策の検討を行い(Plan)、実際に防犯対策を実施すると共に、犯罪発生後の緊急時、収束時の組織的な対応(Do)や予防対策内容の見直し・評価(Check)、改善(Action)などPDCAサイクルに基づき、住民と行政の協働による持続可能な犯罪抑止のしくみ(リスクマネジメントシステム)の構築を検討した。
 
図表序−3 持続可能な地域自衛型防犯の展開モデル
出典)「リスクマネジメントシステムJIS原案」を参考に作成
 







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