10.3.2 船体・機関計画保全検査の実施船舶の見込み
計画保全検査を実施するためには、十分な保守管理体制が必要となることから、当面、実施の可能性がある候補事業者は、次の一部となると考えられる(平成16年4月1日現在のデータ)。
長距離航路事業者(片道300km以上の航路)
中距離航路事業者(片道100〜300kmの航路)
沖縄航路事業者 |
:14社
:5社
:4社 |
・22航路
・8航路
・7航路 |
・50隻
・13隻
・9隻 |
・644,651総トン
・78,646総トン
・64,671総トン |
(合計) |
:23社 |
・37航路 |
・72隻 |
・787,968総トン |
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上記船舶を念頭に、船体・機関別の計画保全検査の実施形態毎に実施船舶の見込みについて考察すると、次表のとおり。なお、5.旅客船事業者アンケート結果において、入渠時期の決定要因としては、機関の整備時期が最も高い要因とされている。
表10.3.1 船体・機関別の計画保全検査の実施船舶の見込み
計画保全検査の実施形態 |
実施船舶の見込み |
(1)機関計画保全検査のみを実施する船舶 |
10.2で見たように、機関計画保全検査のみを実施しても、従来の機関継続検査と比べて修繕費の大きな削減効果はなく、また、増便効果もないため、この形態を採る船舶は今後も少ないと見込まれる。 |
(2)船体計画保全検査のみを実施する船舶 |
稼働率が比較的高くなく、浮上中に従来の機関継続検査を実施できる場合は、船体計画保全検査のみを実施する可能性もあると考えられるが、多くの場合は、より利便性の高い(3)を採用すると考えられる。 |
(3)船体・機関計画保全検査の双方を実施する船舶 |
稼働率が比較的高くなく、毎年機関解放整備をせずに運航することが可能な船舶において、実施される可能性が高いと考えられる。 |
(4)船体・機関計画保全検査を実施しない船舶 |
次の船舶にあっては、従来どおりの毎年入渠を継続する可能性が高いと考えられる。 ・稼働率が高く、毎年機関解放整備をせずに運航することが困難な船舶。 ・就航海域が閉鎖海域である等、入渠間隔を延長すると推進効率の維持が困難な船舶。 ・稼働率が低く、入渠間隔を延長しても増便効果が期待できない船舶。 |
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したがって、船体・機関計画保全検査の実施により経済効果が見込まれるのは上記(3)に該当する船舶となる。他方、5.の旅客船事業者のアンケート結果から、大中型フェリーにおいては、過給器の解放整備時期等から2年程度の機関解放整備間隔とすることが可能な船舶は、全体の概ね1/3程度と見込まれ、これらの船舶が(3)に相当すると考えられる。
10.3.3 業界ベースでの経済効果の推定
上記から、長・中距離フェリー業界等(72隻・787,968総トン)の概ね1/3程度の船舶が船体・機関計画保全検査の実施候補者であると考えられる。
他方、定量的に経済効果を推定するためには、後述するように一定の財務データが必要となるが、中距離・沖縄航路事業者にあっては、貨物船運航や陸上関係等多様な事業を営んでおり、このうちフェリー関係の財務データを抽出することが困難なため、以下においては、便宜的に長距離フェリーに限定して、経済効果を推定する。
また、ラフな仮定となるが、以下では、長距離フェリー(50隻・644,651総トン)の概ね1/3程度(隻数、総トン数ベースとも)の船舶が、当面、船体・機関計画保全検査の実施を図るとの前提で試算する。
(1)修繕費等の減少効果
図10.3.5の相関式を用いると、
船体・機関入渠修繕費(百万円)=0.0058×644,651総トン数×1/3+4=1,250百万円
船体・機関計画保全検査の実施により、この費用が減少するが、追加的に発生する工事費用を考慮した上での減少比率として、「表10.2.3 船底検査の実施方法別の修繕工事費用等の比較(追加費用を考慮)」の49%を用いると、
追加的費用を考慮した修繕費の減少額=1,250×(1−0.49)=638百万円・・・(1)となる。
(2)増便効果
船体・機関計画保全検査を実施した場合の増便効果(不稼働損の減少)は、各船の運航実態や従来の入渠期間により異なるが、ここでは平均的な回航・入渠期間を12日間とし、長距離航路事業者の15年度海運業収益合計:126,252百万円を用いて、次のとおり推定する。ここでも、当該収益合計の1/3が船体・機関計画保全検査を実施する船舶によるものと仮定し、隔年で年間12日分の収益増が見込めると考えると、
増便効果=126,252百万円×1/3×12/(365−12)×1/2=715百万円・・・(2)
以上(1)(2)から長距離フェリー業界全体での経済効果をまとめると、次のとおり。
長距離フェリー業界全体での経済効果=(1)+(2)=[1,353百万円]
なお、同業界の15年度営業費用合計(海運業関係)が107,038百万円なので、1/3程度の船体・機関計画保全検査の実施見込み船舶の運航コストはその1/3程度であると仮定すると、
1,353百万円÷(107,038百万円×1/3)=4.2%
すなわち、業界ベースで見た場合でも、船体・機関計画保全検査の実施船舶に関しては、運航コストの4%程度の削減効果が生じると推定される。
一定の仮定の下での試算であるが、船体・機関計画保全検査を実施した場合、概ね運航コストの4〜5%程度の削減効果が期待でき、また、長距離フェリー業界の1/3程度の船舶が本制度を実施すると、全体で年間10億円強の経済効果が得られることが明らかとなった。
以上
本調査検討会では、船舶安全法による検査の過程で収集される膨大な不具合情報の活用策として、かねてより関係事業者から強い要望がある旅客船の船底検査間隔の延長について検討を行い、それを実現するための船体計画保全検査方式の承認基準案を具体化するとともに、船体保全計画試案の作成及び当該検査方式を導入した場合の経済効果の評価等を行った。
具体的な成果物としては、船体計画保全検査の承認基準として、「船舶検査の方法」(案)を作成するとともに機関計画保全検査の方法の改正案も作成した。また、関係事業者への制度の普及・説明のため、その背景となる考え方や留意事項を説明した解説案を作成した。
さらに、船体・機関計画保全検査を実施した場合、概ね運航コストの4〜5%程度の削減効果が期待でき、また、長距離フェリー業界の1/3程度の船舶が本制度を実施すると、全体で年間10億円強の経済効果が得られるとの試算結果が得られた。
今後、本調査研究結果が関係行政機関や関係者間で活用され、船舶の安全確保のための制度改正や事業運営に反映されることを期待する。
執筆担当者
宮本武 横田肇史 和高裕三
圍達也 田中光彦 丹羽敏男
吉田良治 高松勝三郎 岡本和夫
村上明 神山公雄 神谷和也
竹原隆 安藤昇 児玉敦文
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