北京で開かれている中国の第九期全国人民代表大会(全人代=国会)第四回会議で、二〇〇一年度国防予算案が発表された。前年度比一七・七%増の一千四百十億四百万元(約二兆円)で、一九八九年以来十三年連続で二けたの伸び率になった。国防予算の持続的な大幅増は、中国の軍事大国化を促すものであり、深い憂慮を禁じえない。
項懐誠財政相が六日行った説明では、国防費の増加は主として将兵や軍属の給与引き上げと軍事技術のハイテク化への対応のためという。また唐家●外相は同日の記者会見で、同様の説明をした上で、中国の国防費は、米国の五%、日本の三〇%にすぎず、主要国の中では最も少ないと強調した。
しかし、こうした説明を信じる西側の専門家はいない。中国の国防予算には、兵器・装備の調達費や核ミサイルなどの高性能先端兵器の研究・開発費が含まれていないのは広く知られている。例えば中国は近年、ロシアから戦闘機、各種艦艇、レーダーシステムなどを買い付けてきたが、年平均五十億ドルを超えるとみられる購入費は、国防予算の枠外なのである。
本来、主権国家がどんな予算を組むかは主権そのものであり、他国が口を出すべきものではない。しかし国防力に関しては必ずしもそうではないことは、中国が常々、われわれに教えてきた。中国は日本の防衛力整備計画に対し、あれこれの批判をし、ほぼ横ばいの来年度の防衛予算についても、中国軍機関紙などはアジアの平和と安定を脅かすと論評している。
われわれが疑問を持つのは、中国が一方で平和主義を唱え、米国土ミサイル防衛(NMD)計画を軍拡競争に火をつけると非難しながら、過大な軍備増強を続けていることに対してである。朱鎔基首相は五日の政府活動報告で、平和な国際環境と周辺国との良好な関係の構築を強調すると同時に、今後も国防力の増強と近代化努力を続ける方針を明らかにした。
その目的が米国の一極支配に対抗し、台湾に圧力をかけることにあるのは疑いない。特に台湾に対しては、「武力行使」をちらつかせ、独立の動きをけん制、「祖国統一」を果たそうとしている。われわれは、主権国家が防衛力を持つのは当然だと考えているが、軍事力を背景に政治目的を遂げようとすることには断固反対する。
中国への警戒心からアジア諸国は一九九〇年代に国防力強化に着手した。中国の軍備増強の加速は、アジアの軍拡競争を招く。中国の自制を強く望んでいるのは、日本だけではない。
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