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2004/06/09 読売新聞朝刊
[社説]中国ガス採掘 国益を損なう過剰な対中配慮
 
 海洋国家である日本にとって海洋権益を守ることは、極めて重要だ。だが、憂慮すべき事態が生じている。
 日本が東シナ海の排他的経済水域の境界として主張している「日中中間線」から約五キロ離れた中国側海域で、中国が「春暁ガス田」の採掘施設の建設を始めた。政府は、日本の権利を侵す可能性が大きいと見て、中国に抗議する方針だ。
 排他的経済水域では、沿岸国が天然資源の探査、開発などの権利を持つ。問題は、ガス田の位置が日本と中国との排他的経済水域の「中間線」すれすれだということにある。
 「中間線」にまたがって天然ガスや石油が埋蔵されている可能性がある。その場合、埋蔵分布に応じて関係国に配分されるのが国際的な慣例となっている。
 しかし、日本が非公式に求めた試掘資料の提供などに中国は応じていない。日本側が主張する「中間線」という考え方自体を認めていないからだ。
 中国は、日本固有の領土である尖閣諸島を含む、沖縄のすぐ西側の海溝に至る大陸棚全域を自国の排他的経済水域であると主張し、日本と争っている。
 国連海洋法条約では、境界が画定していない場合、「関係国は最終合意への到達を危うくし、妨げないためにあらゆる努力を払う」とされている。この点で、日本政府は、春暁ガス田開発は海洋法条約違反だと判断している。
 中国は約十年前、日本側海域で日本政府の停止要請を無視して海洋調査船の活動を始めた。春暁ガス田を確認したのも同時期とされる。海洋権益の拡大は、中国の一貫した国家戦略だ。
 ところが、日本は従来、海底資源については基礎的な調査にとどめてきた。中国に天然ガスの配分を求めようにも、手元に試掘データさえない。早急に本格的な試掘調査を行う必要がある。
 この問題の背景には、過剰な対中配慮があるのではないか。今回の問題に限らず、中国とのつながりが深い一部の政治家たちは、中国と事を構えるのを避けるよう、政府に圧力をかけてきた。外務省も、それに歩調を合わせてきた。
 昨年夏に、中国が欧米の石油開発会社と開発契約を結んだのを知りながら、政府が今日まで正式な交渉議題にしてこなかったのも、こうした経緯からだろう。こんな腰が引けた姿勢では、東シナ海の石油や天然ガスに対する日本の正当な権利を守ることはできない。
 政府は、強い危機意識を持って海洋戦略を根本的に練り直す必要がある。中国には毅然(きぜん)とした姿勢で臨むべきだ。
 
 
 
 
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