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2004/04/03 読売新聞朝刊
[社説]対中円借款 早晩、打ち切るのが筋ではないか
 
 対中援助の継続の是非を判断する時期に来ているようだ。政府が二〇〇三年度の中国向け円借款供与額を閣議決定した。
 過去最大だった二〇〇〇年度の半分弱、1000億円を切り、これまで一位だった国別順位も、インド、インドネシアに次ぐ三位に落ちた。
 問題は、これからの対中援助の取り組みについて、同時に閣議報告された二〇〇三年版の政府開発援助(ODA)白書も、明らかにしていないことだ。
 円借款を主体とした対中ODAの継続には、これまでも疑問の声があった。
 中国は、過去十年以上にわたり年間二けた近い経済成長を続け、国内総生産でイタリアを抜き、世界六位になった。近隣諸国への影響力を高めることを狙いに対外援助も活発化している。そうした国に援助を続ける必要があるのか。
 政府は二〇〇一年度に決めた対中経済協力計画で、円借款額を複数年度分を一括して決める従来の方式を改めた。環境保全など重点分野を絞り、毎年度、案件ごとに審査して供与額を削減してきたが「今後も総合的に判断して適切に実施していく」と、白書は説明するだけだ。
 先進七か国(G7)に並ぶ経済大国となり、海外から巨額の民間直接投資を受け入れる中国への資金援助は、有償、無償ともに早晩、打ち切るのが筋だ。
 継続の必要があるとすれば、環境、感染症、エネルギー問題など、悪化を放置すると日本に深刻な影響を及ぼしかねない分野での、技術協力である。
 当面の円借款の実施についても、慎重に判断すべきだ。昨年夏に全面改定されたODA大綱は、援助の実施に際して軍事的支出や大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造など、相手国の行動に十分注意しなければならない、としている。
 ところが、中国はここ十数年、経済成長率を上回る国防費の増額を続け、日本政府の抑制要請を無視して、二〇〇四年予算は前年比13%増を計上した。
 日本側の再三の警告にもかかわらず、中国調査船が、日本の排他的経済水域内で、調査活動を活発化させている。
 先週は、日本の領土である尖閣諸島・魚釣島に上陸した中国人活動家を逮捕、強制送還したが、中国政府は、活動家グループが日本国旗を焼いたことも含めて擁護する見解を示している。
 こうした態度を続ける中国に対して無条件に円借款を実施すれば、国内の反発がますます高まるだろう。
 川口外相は三日に訪中し、李肇星外相らと会談する。日本側の姿勢を明確にし、納得できる対応を引き出せなければ、実施延期も考えるべきではないか。
 
 
 
 
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