2003/10/20 読売新聞朝刊
[社説]中国共産党 この変化は「民主化」なのか
先の中国共産党の年に一度の重要会議、中央委員会総会は、ふたつの点で、昨秋までの江沢民時代とは異なっていた。
ひとつは、総会が始まったという事実が、国営メディアを通じて公表されたことである。従来は、数日間の総会が終わるまで、一切発表されなかった。
共産党は一党独裁を続ける政権党であり、総会での討議、決定は国民の生活に直結している。にもかかわらず、国民は総会が開かれているかどうかすら知らされなかった。
もうひとつは、最高指導者の胡錦濤総書記が総会で政治局の活動報告を行い、それが討議されたことである。総書記時代の江氏は、総会で「重要演説」はしても活動報告はしなかった。
政治局は中央委員会によって選ばれた上部機関である。活動報告とその討議は少なくとも形のうえで、選出母体の中央委員会に、政治局の活動を審査、監督する権限を認めたものといえよう。
ささいな変化ではある。しかし、政治の透明度を高め、「民主化」を進めようとする胡錦濤指導部の姿勢を示す象徴的な動きとみることもできる。
もっとも、これらの変化は、初めての試みというわけではない。一九八九年の天安門事件以前の趙紫陽時代のやり方を復活させたものだ。
趙氏が総書記を務めていた時代、中央委員会総会開会の事実は公表され、趙氏は総会で政治局の活動報告を行った。
趙氏が失脚した天安門事件以降の江沢民時代、経済面で改革・開放が進み、市場経済が浸透した。一方、政治面での改革は棚上げされ、「民主化」は前進するどころか後退さえした。
政治の民主化がないがしろにされている間に、党幹部の腐敗に代表されるひずみが深刻化した。それに伴い、党の内外で「民主化」を求める声が高まった。
江沢民時代とは異なる胡錦濤指導部の動きは、そうした要望に応えようとしたものといえよう。それはまた、政権を握ってまだ一年の胡氏が、自己の権力基盤の強化を狙ったものでもあろう。
ただ、胡錦濤指導部が進めようとしているかにみえる「民主化」は、共産党の独裁を前提としたものだ。多党制への移行や三権分立の確立などにつながるものではない。
今総会は政治体制改革の着実な推進で一致した。共産党内では、党幹部の選出に、複数候補者制の導入を拡大、徹底することなどが議論されている。
小さな変化がより大きな実質的な変化をもたらすのかどうか、注目したい。
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