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2001/10/23 読売新聞朝刊
[社説]対中ODA 規模と中身の抜本見直しは当然
 
 実施額削減を目指す対中援助の抜本改革がやっと動き出す。
 政府が、中国向け政府開発援助(ODA)のこれからの具体的な在り方を示す「中国経済協力計画」を決めた。
 日中首脳会談で、小泉首相も、江沢民国家主席にこの方針を伝えた。
 最近の中国の経済発展、軍事力の増強や、日本の経済・財政事情の厳しさなどから考えて、抜本改革は当然だ。
 援助額の大幅削減も含め、計画で示した方針を、今年度の援助実施、さらに来年度の予算編成に反映すべきである。
 対中援助を始めて二十年余り、九九年度までの援助総額は約二兆七千億円に上った。国別援助額も、九九年度まで五年間の合計で第一位を占めている。
 政府はこれまで、援助の意義を、中国の安定成長、国際社会への参加推進と、相互理解に基づく日中関係の強化をもたらし、日本の安全と繁栄に寄与すると説明してきた。しかし、相互理解ひとつ取っても、一般の中国人は日本からの巨額の援助を知らないのが現実だ。
 しかも、中国はここ十年、急成長を続け、沿海地域は繁栄を謳歌(おうか)する一方、軍事力の拡大を加速し、第三国への経済援助も強化している。このため、日本国内に援助の削減や抜本見直しを求める声が強まっている。
 こうした状況を踏まえて、協力計画では、今後の対中ODAを、中国が自力では実施困難な分野に対する側面支援を基本に、重点を沿海部のインフラ整備から環境対策や内陸部の民生向上、人材育成などに移し、援助額を減らす。
 円借款は今年度から、数年度分の供与額を一括決定する方式を、年度ごとに決める方式に改める。さらに、無償資金協力、技術協力を含めて、中国側の希望案件を個別審査で厳しく選別する。
 このような対中援助の改革の方向は妥当だ。問題は、毎年度の援助に、いかに具体的かつ適切に反映していくかだ。
 援助案件の事前、事後の厳格なチェックも重要だ。計画では、民間の第三者による評価委員会の設置などを盛り込んだが、体裁を整えるだけなら要らない。
 軍事力強化の問題もある。中国の核兵器をはじめ軍備増強のペースは一段と加速しており、東アジアばかりか世界の軍事的な不安要因になる恐れがある。
 計画は、軍事力強化に結び付けないよう、中国側の認識を深めることに最大限努力する、としているが、不十分だ。
 日本政府は二国間援助協議をはじめ機会あるごとに、援助の中断も辞さない、という毅然としたメッセージを中国側に伝え、自制を強く促す必要がある。
 
 
 
 
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