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2000/03/07 読売新聞朝刊
[社説]「格差」と「腐敗」に悩む中国
 
 中国の国会にあたる全国人民代表大会が五日から始まり、朱鎔基首相による「政府活動報告」や、項懐誠財政相による「財政報告」などが行われている。
 「富強」を目指して、二十一世紀の半ばには近代化を成し遂げたいとする中国は、「改革・開放」開始から二十年余りを経た今、その負の遺産が座視できないものとなっている。格差と腐敗が二つの大きな負の遺産で、朱鎔基報告は、解決に向けた「処方せん」として読むことができる。
 朱首相が報告で宣言した「西部大開発」の推進が格差是正への取り組みだ。「改革・開放」によって東部の沿海地区は発展し豊かになったが、内陸の西部地区は立ち遅れて、住民の不満が高まっている。
 一九九二年から成長率が右肩下がりの中国経済にとって、西部開発は内需拡大と経済成長を維持するうえでも不可欠となっている。西部には分離・独立への動きの見られる地区が含まれており、民族融和実現への狙いも込められている。
 ただ、開発に必要な資金や人材、技術などを十分に手当てすることができるかどうか、疑問視されている。外資も進出になお消極的だ。夢は大きいが、実現にはさまざまな困難や障害が待ち構えている。
 清廉さで定評のある朱首相は、「反腐敗闘争の強化」を約束した。権力を握る共産党や政府の幹部らに対する腐敗摘発の実績が「人民大衆の期待とはまだかなりの差がある」ことを認め、「いかなる部門、いかなる人物」も容赦しないと言明した。
 腐敗問題は、今日に始まったことではない。かねてから一掃が叫ばれながら、目立った成果は上がらず、事態はより深刻化している。経済は市場経済だが、政治は一党独裁という仕組み自体に、腐敗が生じる原因があるのではないか。
 腐敗をもたらす権力の乱用や政界と財界との癒着などをなくすには、政治改革が必要である。政治改革の伴わない反腐敗闘争は、腐敗摘発への権力者の介入を招き、結局は「各人が気を付けましょう」の精神論に堕してしまう。権力者と権力機関を監視できる制度が求められている。朱鎔基報告は、政治改革に触れていない。
 解決への意欲はあるが、手立てが不十分というのが、「処方せん」に対する評価ということになろう。
 朱鎔基報告はこのほか、台湾問題について、独立への動きに警告し、今月中旬の台湾総統選挙後の中台対話再開への期待を表明した。中国には、この問題は平和的に解決すべきだとする国際社会の意向を踏まえた自制的な言動を求めたい。
 対日関係で朱首相は、「ごく少数の日本の極右勢力による中日関係の破壊」にわざわざ言及した。歴史問題に関する両国間の溝がうかがわれるが、相手国の政治・社会制度などに対する正確な理解に基づいた、バランスのとれた認識が重要だ。
 財政報告では、二〇〇〇年度の国防費が十二年連続で二けたの伸びとなることが示された。国防に関して透明度を高めることがますます必要となっている。
 
 
 
 
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