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1998/07/19 読売新聞朝刊
[社説]公約実現に苦しむ中国経済
 
 改革・開放政策の推進によって、高度成長を突っ走ってきた中国経済が大きな壁にぶつかりつつある。
 中国経済の動向、とりわけ人民元レートの行方は、アジア経済全体にも連動しているだけに、日本としても、その現状と成り行きを見守りながら、経済交流や経済協力のあり方を考えていくべきだろう。
 朱鎔基首相は今年三月、首相就任にあたって、8%以上の経済成長率、3%以下の物価上昇率、人民元の対米ドル・レートの維持を公約した。だが、十七日の中国国家統計局の発表では、今年上半期の経済成長率は7.0%にとどまり、公約実現が一段と難しい情勢となっている。
 この公約について、朱首相は当時、「中国の発展だけでなく、アジアの繁栄と安定にもかかわるので、必ず成し遂げなければなりません」と説明した。人民元を切り下げた場合、アジアの金融危機に再び拍車を掛け、その悪影響が中国に逆戻りしてくるのを意識した発言といえよう。
 それにしても、中国はなぜ8%という高い成長目標を掲げるのか。
 年間千二百万人前後の人口増加に加え、国有企業改革の実施に伴い、二〇〇〇年までに一千万人から二千万人の失業者が出ると予想されるからだ。高い成長率によって雇用を作っていかなければ、大きな社会不安につながり、経済を率いる朱首相自身の政治生命にもかかわってくる。
 都市部の失業率は昨年末、一時帰休者を含めると、6.5%に達し、今年に入り、さらに上昇傾向にある。
 九二年から九五年まで2ケタ台を記録した成長率は、九六年9.6%、九七年8.8%と落ち込んできた。高度成長を引っ張ってきた輸出も、昨年は対前年比20.9%の伸びだったのに対し、今年上半期は7.6%と、鈍化傾向が見える。
 国内市場も冷え込んだままで、主な業種の工場操業率は六割以下といわれ、人民元の切り下げ圧力となっている。アジア各国の経済が失速する中で、中国だけが独走するのは無理ともいえる。
 中国政府はテコ入れ策として、インフラ建設の強化、住宅の市場化、農村市場の開拓など内需拡大に力を入れている。だが、その効果が出るには時間がかかるし、資金面でも大きな困難を抱えている。むしろ海外からの一層の資本や技術の導入がカギであり、受け入れ態勢の整備が急務だ。
 もっとも、中国経済の苦境は、「対岸の火事」ではない。日本は中国にとり最大の貿易相手国の一つであり、投資・援助面でも貢献してきた。だが、上半期の日本向け輸出は4.3%の減少となり、日本経済の低迷が中国の苦境の一因になっている。人民元レート維持の努力にこたえるためにも、日本は景気回復を急がねばなるまい。
 日中関係は経済関係を基礎に発展してきた。長期的に大きな経済補完関係にあることに変わりない。中国経済の動向はアジアの安定にもかかわっている。内陸開発などその体質改善を促すための経済協力をより強化する必要があろう。
 
 
 
 
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