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1993/03/30 読売新聞朝刊
[社説]「トウ以後」へ新体制はできたが・・・
 
 中国の国会にあたる全国人民代表大会が任期五年の国家指導部の選定を終えた。二十九日には憲法改正案も可決された。
 中国を主導する共産党首脳部の人事と党規約は、昨年十月開かれた五年に一度の党大会とその直後の新中央委員会で新たに決まっており、これで今後五年にわたる党、国家の体制ができあがったことになる。
 今年八月に八十九歳になる最高実力者、トウ小平氏の高齢を考えれば、トウ以後をにらんだ新体制と言ってもよいだろう。
 新国家人事では、元首にあたる国家主席には江沢民党総書記兼党中央軍事委員会主席が選ばれた。江氏は国家中央軍事委主席にも再任され、党、国家、軍の最高ポストを一人で占めることになった。
 全人代の常務委員長には喬石党政治局常務委員が選出され、首相は李鵬氏の再任となった。昨年、党中央委員候補から政治局常務委員に昇格した朱鎔基副首相も再任された。副首相の筆頭である。
 これにより、八老と呼ばれたトウ世代の長老は党、国家の指導部から引退し、江氏を中核とする集団指導体制がとにかくできあがったと言える。
 江氏への権力集中も、江氏に飛び抜けた指導力や基盤、権威がないのを見抜いて、独裁化することはないし、かえって安定を維持し、改革・開放路線の継続、加速が期待できるとトウ氏が判断してのことだろう。朱副首相は改革派の旗手で、経済運営を主導することになろうし、近い将来の首相という見方も多い。
 一党独裁下の富国をめざすトウ路線の担保は憲法改正によっても確保された形だ。改正憲法では、トウ理論とされる「中国の特色を持つ社会主義」がうたわれ、改革・開放の堅持や「社会主義市場経済の実行」が明記された。「計画経済」の語句も削除された。トウ理論は昨年採択の新党規約にも盛り込まれている。
 問題は、トウ以後をにらんだこの新体制がほかならぬトウ氏自身の権威と指導力によって固まったことだろう。実は、トウ以後の安定を必ずしも保証するものでない。なお不透明と言わざるを得まい。
 中国が取り組むべき難問は多い。
 さしあたり、高度成長の軌道を走ろうとしているが、過熱を回避できるか。インフレを招かないか。地域格差や貧富の格差をどうするか、改革・開放が進めば進むほど、かじとりは難しくなるだろう。
 対米関係の難問もある。相互に重要な米中経済関係や両国の国際政治上の地位からみて、米中関係の決定的破たんは避けられるにしても、人権問題や民主化、貿易不均衡など、きわどい調整が必要である。
 香港の民主化をめぐる英国との対立を克服して、九七年の香港回復を円滑に達成できるか。台湾問題も残されている。
 中国の市場経済化と開放に逆戻りはないだろうが、その進展はいずれ、民主化の問題を再燃させるだろう。
 トウ以後へ中国指導部が必要としているのは、発展と安定を維持しつつ民主化への軟着陸を可能にする新たな構想力である。
 
 
 
 
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