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1990/05/31 読売新聞朝刊
[社説]米中改善への新たなシグナル 中国への最恵国待遇更新
 
 米国は先週、中国への最恵国待遇更新という現実的な政策を選んだことで、米中関係改善へのシグナルを出した。
 ブッシュ米大統領は、一年前の天安門事件とその後の人権抑圧に不快感を示しながらも、通商上の締めつけが結果的に中国の経済状況を悪化させ、中国国民を苦しめると判断し、更新を決めたという。
 米国内では議会をはじめ、中国の人権状況に対する反発が、依然根強くあり、更新にも強い反対の声があったが、ブッシュ大統領の決定は正しいと思う。
 中国への最恵国待遇を撤回することは、中国を国際的にさらに孤立化させ、国内で政治、経済改革を推し進めようとする人々を追いつめることにもなるからだ。
 ブッシュ政権にとって、中国との関係改善は、戦略的にも、地政学的にも利益をもたらす。アジアの安定に、中国の果たす役割が大きいからだ。朝鮮半島の緊張緩和、カンボジア問題の解決などにも、中国の積極的な役割が期待されている。
 アジアでは、天安門事件前の中ソ関係正常化で、米中ソ等距離の関係ができたといわれた。だが、天安門事件で中国が孤立し、東欧の激変、ソ連の変化で、アジアでの米中ソ関係に変化が生じた。
 ブッシュ大統領は、昨年十二月の米ソ・マルタ首脳会談後、新世界秩序の構築のため、ソ連と協調する姿勢を鮮明にした。だが、大統領はアジアでは中国の存在を無視できないと見ている。
 昨年秋訪中したニクソン元米大統領は、米中修復によって、日ソ両国を牽制(けんせい)すべきだと提言したが、大統領にもこうした見方が反映しているようだ。
 だが、中国が、そうした見方に立って、甘い考え方をするのは危険だろう。天安門事件以前に戻っても、米国にとって、中国は友好国だが、日本は共通の価値観を持った同盟国である。
 今回の最恵国待遇の更新で、中国側は、対米関係改善に努めると言明している。これまで中国は、関係を悪化させているのは米国だとして、その「内政干渉」を批判していたが、微妙な変化がうかがわれる。
 この一年、中国は、天安門事件がいかに西側諸国に衝撃を与えたかを理解したはずだ。十一億の国民を抱える中国指導部が安定を至上命題とするのは分かるが、国際社会での信用回復に努めるのが、その道だと思う。
 それに、民主化は、中国自身の利益となるはずだ。反体制派の方励之夫妻の出国問題など人権問題で西側の懸念を解消する努力を期待したい。
 今回の米国の最恵国待遇更新をはじめ、西側からの様々なシグナルに、現実的に対応することが必要だ。
 一方、日本は、第三次対中円借款再開のため、米国などの了解を強く求めている。西側諸国は対中融資凍結で合意しているが、日本は、中国の孤立化回避と中国の経済発展が長期的にはその開放、民主化に寄与するとの立場から、米欧との調整に引き続き努めるべきだ。
 
 
 
 
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