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1988/04/14 読売新聞朝刊
[社説]改革前進を裏打ちした中国全人代
 
 「経済面では発達した資本主義国に追いつき、政治面ではそれらの諸国よりもさらに高く、さらに適切な民主主義を生みだす」
 中国の趙紫陽党総書記が昨年秋の党大会であげた目標だが、それが容易でないことは、中国が十年近く進めてきた経済体制改革、政治体制改革がジグザグをたどってきたことからも明らかだろう。
 だが、十三日閉幕の全国人民代表大会(全人代=国会)第一回会議は、さまざまな点で、この目標への一里塚として記憶されてよい。
 こんどの会議は全人代新任期の最初の会議であり、向こう五年間の国家機関の主要人事を決めたが、昨秋の党人事に重ねて最高実力者のトウ小平氏、趙総書記のいわゆる改革主流派の基盤が固まったと言えるだろう。
 新国家主席にはトウ氏に近い楊尚昆党中央軍事委員会常務副主席が、全人代常務委員長には保守派の彭真氏に代わり、トウ派の万里前副首相が就任した。全人代の機能強化に動いている状況下では、意味のある人事だ。
 趙氏が国家中央軍事委員会副主席に就任したことは、昨秋、党軍事委第一副主席に就任していることとあわせ、国家、党両軍事委の主席であるトウ氏が握る軍権を将来、趙氏に譲る布石でもあろう。
 首相こそ、改革に慎重ないわゆる保守派と目される李鵬氏がそのポストについたが、主流派としても、バランスを考えざるを得なかったと言えよう。
 たしかに、李氏はその政府活動報告で、趙氏が打ち出した沿海地区発展戦略の優先順位を第四位に置いて、趙氏との差を見せた。インフレ抑制や農業生産拡大などの当面の課題と長期戦略をにらみあわせた調整が求められよう。
 日中協力関係の持続的進展を図るためにも、われわれは中国がその政策のぶれの幅を小さくする努力を重ねるよう望みたい。
 今回の全人代では、改革路線の目玉で、長年の懸案だった国営企業法が成立した。この法律は国営企業の所有権と経営権を分離し、工場長の経営権を強化して、国営企業の活性化を図るものだが、保守派の抵抗で成立が遅れていた。人事工作が功を奏したこともあり、改革派が押し切った形である。
 同じように、今回成立した憲法改正は、私営企業経済や土地使用権の売買を法的に認知するものである。昨年の党大会で打ち出された社会主義初級段階論に立ち、資本主義的要素も社会主義の補完として取り入れ、生産力の発展を図る「中国の特色を持つ社会主義」路線を前進させる裏打ちである。
 今回の全人代で目立ったのは、とりわけ分科会で活発な政策討議が見られ、それがマスコミによって、伝えられたことだった。きびしい政府批判もとびだした。政府活動報告は百か所も修正を加えられたという。
 人事でも、無記名投票制が採用され、反対票や棄権票が少なくなかった。従来、みられなかった現象である。
 党の指導をはじめ、四つの基本原則堅持のワクがあり、限界はあろうが、中国の民主化の過程として、歓迎したい。
 この過程が一層、進み、全人代が国会としての機能を活性化させることが望まれる。開かれた政治で民意を吸いあげることこそ、持続的安定と発展を支える道だろう。
 
 
 
 
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