2004/10/21 毎日新聞朝刊
[社説]ミャンマー政変 軍政を力づける中国の援助
ミャンマー軍事政権の穏健派指導者、キンニュン首相が失脚し、強硬派のソーウィン国家平和発展評議会(SPDC)第1書記が後任に就任した。
国際的な批判に耳を貸さず、ミャンマーの軍事独裁政権はますます強権体質を強めている。自宅に軟禁されているアウンサンスーチー国民民主連盟(NLD)書記長の解放がさらに遠のき、民政移管の歩みは遅れるだろう。憂慮すべき事態である。
ミャンマーの国民は、1990年に行われた民主的な総選挙でスーチー氏のNLDに圧倒的な支持を寄せた。誰の目にも明らかなこの結果を軍事政権は認めず、政権移譲を拒否した。軍政指導部はいまだに権力の座にしがみつき、政治的迫害を続けている。
批判の声は欧米だけでなく、ミャンマーも加盟している東南アジア諸国連合(ASEAN)各国からも上がっていた。これに対して軍政指導部の中でも、タンシュエ議長、マウンエイ副議長ら強硬派とは一線を画すキンニュン氏らの穏健派が、段階的な民政移管へのロードマップを発表し、国際的な批判に応える姿勢を見せてきた。
だが9月、キンニュン氏の右腕、ウィンアウン外相が突然解任され、強硬派のニャンウィン少将が後任になった。さらにキンニュン氏も解任された。国境貿易の利権をめぐる争いがからんでいるともいわれているが、強硬派が民政移管プロセスに不満を抱いたことは間違いないだろう。
ミャンマー軍政があえて国際世論に背を向けられるのは、北の隣国である中国からの経済援助を期待できるからである。
中国にとって、ミャンマーは雲南省からインド洋に出るための戦略的な要地である。天然ガスや鉱物資源の開発に投資しているほか、中東の原油をミャンマーから雲南に直送するパイプライン計画も浮上している。中東原油への依存度が高い中国は、マラッカ海峡を経由しない安定した輸入ルートが必要なのだ。
中国自身も一党独裁体制であるところから、ミャンマーの軍政を批判する立場にない。日本や欧米諸国がミャンマーへの援助を規制しても、真空を埋めるように中国が道路や発電所などインフラを中心とした経済援助を行っている。ミャンマー側も「中国は真の友人」と中国傾斜を強めている。
中国の影響力の浸透を目の前にして、西の隣国であるインドが脅威を感じ、ミャンマーへの経済援助を拡大している。
ミャンマーに対して、ASEANを中心に、孤立に追い込まず、国際的な場に引き出しながら、粘り強く民主化を説得する努力が続けられてきた。だが、中国の抜け駆け援助が軍政の強硬派の自信を高めるなら、国際社会の努力は底の抜けたバケツで水をくむようなものだ。中国は、自国の利害のみでミャンマー軍政へ突出した援助をするのは控えるべきである。地域の政治大国であり国連安保理常任理事国なのだから、そのくらいの慎みがあってしかるべきだ。
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