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2001/10/24 毎日新聞朝刊
[社説]対中経済協力 脱円借款で新戦略を築け
 
 今年度からの中国に対する経済協力の基本方針である「対中経済協力計画」がまとまった。政府が99年度から開始している国別援助計画策定の一環で、これまでの経済開発支援から、環境対策、貧困対策支援に重点を移すことが打ち出されている。当然のことだ。
 中国の軍拡とからみ、軍事的用途への使用を禁じている日本が政府開発援助(ODA)を実施する際の指針であるODA大綱の尊重も表明されている。経済協力の趣旨から、この点の徹底も必要だ。
 同時に、経済協力戦略のなかで、中国が被援助国から卒業する段階に入りつつあることを明確に認識しておくべきだろう。言い換えれば、対中円借款は役目を終えつつあることを自覚した戦略の構築が課題であるということだ。お金を貸せばありがたがられるというわけではないのだ。
 中国向けの経済協力は、79年度に始められて以来、99年度までに有償資金供与は2兆4500億円を約束してきた。その大半は港湾や鉄道などのインフラ整備、石炭、石油開発などに使われてきた。トウ小平路線に基づいた経済の改革・開放を支援してきたのだ。
 いまや、中国は世界で最も元気のいい国になった。家電製品を中心に世界最大の生産拠点に成長し、沿海部はすでに中進国段階に入っている。世界の目は中国に集まり、途上国では最大の直接投資受け入れ国になっている。いまや、中国は民間資金を調達できる段階にあるといってよい。
 そうであるならば、今後、円借款は分野を限定していくべきだろう。同計画では沿海部のインフラ整備からは撤退するものの、改革・開放支援は重点分野として続けていくとしているが、それでいいのか。この分野は中国自身が民間資金でやるべきだろう。
 また、環境対策や貧困対策への協力でも円借款一本やりでは問題は解決しない。
 地球温暖化にしろ、酸性雨にしろ中国は今後、大規模な対策が必要だ。水問題でも同様だ。その際、プロジェクトに資金を付ける手法だけでは不十分である。そこでは技術協力が欠かせない。同時に、中国の技術開発を促すものでなければならない。貧困対策も2国間よりは国際機関による援助が適した分野である。そのための資金拠出は必要である。
 これまで、日本のODAは戦略性が欠如している上、顔が見えないと批判されてきた。しかし、中国については、日中国交正常化に際して、中国が賠償を放棄したことへの「見返り」という性格から、高度に政治的であった。中国が円借款を援助ではなく経済協力とみなしてきたのもそのためだ。しかし、時代は変わった。
 日本は財政状態の急激な悪化でODA予算にもメスを入れざるをえない。同時に、アフガニスタン和平など新たな支援を求められている。対中協力=円借款という固定概念から脱却することで、経済協力政策は新たな次元に入ることができるだろう。
 
 
 
 
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