2000/08/31 毎日新聞朝刊
[社説]中国調査船 通報は信頼醸成の第一歩
北京で開かれた日中外相会談で、日本と中国の中間線付近で行う海洋調査船の活動について「相互通報」の制度を作ることが決まった。
中国の海洋調査船や情報収集艦の無遠慮な行動が、日本の国民感情を傷つけている。そんな日本の不満に耳を貸そうとしない中国政府の姿勢が、さらに中国への反感を高めていた。それだけに、両国の間に、相互信頼を高めようという機運がやっとできたことを歓迎する。
10月に朱鎔基首相が訪日する。それまでに両国の外務当局の間で、「相互通報」の具体案を煮詰めてほしい。
今回、中国は情報収集艦の行動については「日本側が心配した事態は、すでに存在しない」と回答したにとどまった。
日本側は、当面自制するという意思をにじませたものと受け取っているが、朱首相の訪日が終わったら、もとに戻るのでは意味がない。
友好関係にある隣国同士なのだから、国際法のぎすぎすした解釈ではなく、気配りのルール作りを安保対話の中で引き続き探ってほしい。
朝鮮半島の緊張緩和ひとつをとっても、アジアではこれから日中の協力関係が、ますます必要になる。お互いに無用の摩擦を回避するための努力をすべきだ。
振り返ってみると、日本では国交正常化前後の1970年代に中国ブームが起きた。だが、中国国民の間では、日本ブームが起きたわけではない。
片思いのような日中友好の熱がさめてくると、日中間で相互信頼の積み上げがいかに足りなかったか、あらためて思い知らされた。調査船問題は、その貴重な教訓である。
だが、「相互通報」の制度化に過大な期待はできない。調査船問題の最大の原因は、日中間で尖閣諸島の領有権問題が未確定であり、排他的経済水域(EEZ)の境界線が未画定であるところにある。
国連海洋法条約は、200カイリの排他的経済水域内における資源の排他的管理を認めているが、同時に、200カイリを超えても大陸棚が続いている場合は、沿岸国が地下資源を利用する権利を定めている。
中国の調査船は、日本から見ると中間線を越えているが、中国の大陸棚論に立てば、おおむね中国の排他的経済水域内の行動である。
心理的な摩擦を避けるために通報水域を決めることと、排他的経済水域の画定問題とは別問題だ。それを踏まえておかないと、水域設定そのものが、新たな摩擦を引き起こしかねない。
中国の国内では、日本は空母の建造を計画しているとか、尖閣諸島周辺で中国調査船の針路を妨害した日本の駆逐艦を、中国戦闘機が追い払ったなどという、ことさら日中間の緊張をあおり立て中国の軍備強化の必要に結びつける報道が見受けられる。「海洋強国を目指せ」というかけ声も出てきた。
「相互通報」は、両国民の相互不信の連鎖を断ち切る第一歩である。この雰囲気は大事にしてほしい。
自民党内から反対論が出ている対中特別円借款の供与をめぐる空気も和らぐだろう。だが、円借款を「援助」と位置づけている日本と、「融資」と見なしている中国の意識のずれは残る。日本の援助政策は、戦略的調整を迫られている。
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