1999/03/05 毎日新聞朝刊
[社説]中国全人代 改革には柔軟さが必要だ
中国の国会、全国人民代表大会(全人代)が5日から始まる。
朱鎔基首相の「政府活動報告」と予算案を審議し、私有制経済の存在を保障する憲法の一部改正などを行う予定だ。
昨年の全人代で、新首相に選ばれた朱首相は、「8%成長」と「三つの実行」(国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革の3年以内解決)などを公約した。
国有企業改革、行政機構改革は計二千数百万人規模の大リストラ計画であり、「命をかけてやる」と言い切った首相の強い決意に称賛の声があがった。
本来なら改革2年目の今年が正念場となるはずである。ところが現実には、改革の熱気は薄い。
アジア金融危機の影響が中国に及び、経済環境が急速に悪化した。改革で生まれる失業者を他の産業に吸収できない。改革のテンポを緩めても、社会不安を抑え込むべきだという空気が強まっている。
安定追求とのジレンマがあっても意志の強いことで知られる朱首相は改革路線を貫くと期待したい。
しかし、中国の経済が悪化するとともに、中国に対する信頼を揺るがせるような問題もいくつか発生している。
例えば、朱首相が昨年公約した「8%成長の確保」は、7.8%に終わった。ほぼ8%であり、公約は達成されたとされた。だが西側の経済専門家からは「本当は7.8%より低いのではないか」という疑問が出されている。電力消費量や国内輸送量が増えていないのに、国内総生産(GDP)が増えるのはおかしいと統計の公正さに疑問が出された。
広東省など地方の成長率が10%を超えたのも水増しを疑われている。
金融改革については、外資の取り扱いで大きく揺れている。
昨年秋、突然倒産した広東国際信託投資公司(GITIC)の負債の処理について、「正規に登録された外資は返済を保証する」という中国政府の方針が、今年になって引っくり返った。外資は「貸手にも責任がある」と突き放された。
各地方の国際信託投資公司(ITIC)にも同様の問題が飛び火している。そこでも同じ方針が貫かれると、今後中国へ向かう勇気のある外資はなくなるかもしれない。
香港に対しても、最近の中国の姿勢は、硬直した感じが否めない。
香港人が中国国内でもうけた子供に香港居留権があると判断した香港の裁判所を、中国当局者が激しく批判した。「香港基本法」の解釈権は中国の全人代にある。一地方政府にすぎない香港の裁判所に解釈権はない、という趣旨だった。
香港の最終審長官が、「全人代の解釈権を侵害する意図はない」と釈明して収拾された。だが「1国2制度」に対する香港市民の自信はこの一件で急落した。
中国の国有企業は、香港の株式市場で資金を調達する予定だった。ところが香港の不況で、上場延期に追い込まれている。香港の繁栄回復が、中国の改革と切り離せないことを肝に銘じているのは中国のはずだ。にもかかわらず、中国の対応はあまりにも官僚主義的だった。
改革の直面する困難が大きければ大きいほど、柔軟な対応が必要になるだろう。
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