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1998/06/28 毎日新聞朝刊
[社説]米中首脳会談 「特別な大国」の時代なのか
 
 北京で開かれた米中首脳会談で、クリントン大統領と江沢民国家主席は、戦略核ミサイルの照準を相互に外すことで合意した。
 1989年の天安門事件以来、9年間にわたって冷却が続いていた米中関係が完全に正常化したことを世界にアピールする象徴的な合意である。
 ミサイルの照準を元に戻すには10分もあれば十分だと言われる。軍事的な意味は大きくないが、敵意という見えない壁を下げる心理的な意義は決して小さくない。
 中国の核ミサイルの標的には在日米軍基地も含まれると見られてきたから、日本にとっても、この照準外しの合意は無関係ではない。米中間に生まれた信頼の芽が育ち、近い将来、米中が共同で世界の核廃絶をリードするようになることを願わずにはいられない。
 天安門事件に続いて、米中関係を悪化させたのは、95年の台湾海峡危機だった。
 台湾の総統選挙に圧力をかけるために中国が台湾海峡に向けてミサイルを発射した。その直前に訪中した米国防総省の高官に中国軍の首脳が「中国はすでに核反撃能力を持った。米国はもはや台北のためにロサンゼルスを犠牲にすることはできないだろう」と、核の使用をほのめかしたと言う。
 この報告を受けたクリントン大統領は、即座に台湾海峡への空母部隊派遣を決断した。それ以来、米国は、核戦略などで中国の常識が米国とかけ離れていることに恐怖感を抱くようになり、中国を国際的な対話の場に引き出して、相互の意思疎通と信頼感の醸成を図る「積極的関与政策」を強めてきた。
 その延長上にあるのが、今回の米中首脳会談で再確認された「建設的戦略的パートナーシップ」であり、核兵器の照準外しである。
 不信感があるからこそ信頼醸成が必要になる。新しい米中関係はまだ緒に就いたばかりだ。「建設的戦略的パートナーシップ」の中身も「第三国に対するものではない」とされている程度で、具体的に示されたわけではない。
 首脳会談後の記者会見で、クリントン大統領と江沢民国家主席は人権問題、チベット問題などで激しくやりあって見せた。ある分野で意見を異にしても同じテーブルについて対話を維持するというルールが確立したという意味で、米中関係は新段階に入った。
 相互不信の末に米中首脳の対話が活発になり、相互理解が深まることは歓迎すべきことである。だが、それにしても米中二国の関係改善の中で大国主義的な姿勢がちらついていることは気にかかる。
 クリントン大統領は、首脳会談の前に西安で行った演説で、米国と中国を「世界の将来に特別の責任を持つ二大国」と表現した。
 しかし会談で主要なテーマとなったアジア通貨危機にしても、南アジアの核軍拡競争にしても、「二大国」だけで決められる問題ではない。
 少数の超大国や大国が世界を支配した冷戦時代は終わった。これから重要になるのは多国間の対話の枠組みである。
 米中が対立から「対話の時代」に入ったことが歓迎されているのは、そのような多国間の新しい関係が生まれるとの期待があるからだ。それを両国は自覚してほしい。
 
 
 
 
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