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1993/11/18 毎日新聞朝刊
[社説]中国 市場経済への移行は慎重に
 
 中国経済を今世紀末までに社会主義市場経済体制に移行させる壮大な青写真が中国共産党の中央委総会(三中全会)で決まった。市場経済への方向を目指しつつ、中央のマクロ経済への管理を強め、経済改革で生じているひずみを正そうとしている点は高く評価されよう。
 税制改革では税金を中央税(国税)と地方税に分ける「分税制」の導入が決まった。地方政府が税収の約三割を国に納めるこれまでの財政請負制では、中央の財政赤字は増える一方で、地方の豊富な資金は経済過熱や腐敗の原因となった。
 金融面では中国人民銀行の「中央銀行」化、専業銀行の商業銀行化の方向が示された。通貨政策を適時に調整するため日銀政策委員会のような通貨政策委員会や開発銀行、輸出入銀行などが設立され、農業テコ入れのため農業銀行も改組される。
 政府も国有企業も、資金繰りに困れば紙幣の増刷や融資を頼み、返済を気にしないという安易な姿勢は許されなくなった。
 最大の難問とみられている国有企業の改革では、税負担を私営企業や外資系企業と同率に引き下げ、一部重要産業を除き、民間などからの資本参加も認められ、株式会社化が図られる。その代わり不良企業は破産などの形で処分される。親方「五星紅旗」気質の抜けない経営者や従業員へのショック療法だ。
 しかし一億人以上の労働者を抱える中国の国有企業のうち三分の二が赤字体質といわれる。三中全会の「決定」がいう年金、失業、労災保険などの各種社会保障制度が確立されても、大量の企業破産、失業者の出現は、ポストトウ小平時代の中国社会の最大の不安定要因になろう。
 改革のねらいは政府が国有企業に対する「無限責任」から解放されることにあるとされているが、社会を安定させる最終的な責任は国家にあることを忘れてはならないだろう。
 「分税制」がすんなり導入できるかどうかも疑問だ。当初の計画では国の取り分を六割程度に増やす構想だったようだが、結局分け前の比率は「合理的に確定する」ことになった。「決定」は「地方税の種類を充実し、地方税の収入を増やす」ともうたっている。改革の既得権益を失う地方の抵抗が相当に強かったことがうかがえる。
 十五年来の経済改革で経済全体は底上げされたが、貧富の格差、地域格差の拡大、拝金思想のまん延、腐敗と経済犯罪の急増、治安の悪化など、さまざまなひずみが深まってきた。四年前の天安門事件の根底にも庶民の不満があった。
 「決定」が市場価格の安定に努め、金融、労働力、不動産、技術、情報市場の「規範化」を強調しているのも、改革のひずみの危険性を認識しているためだろう。三中全会コミュニケが「社会の安定」を繰り返し強調しているのも、昨年の党大会報告にはみられなかった特徴だ。
 十二億の中国は、今や世界の成長センターといわれるアジアの機関車役になりつつある。順調に発展すれば来世紀には経済規模で世界一の大国になる可能性も秘めている。逆に国のカジとりを誤れば、周辺諸国はとてつもない大波をかぶる。
 三中全会直前に最高実力者、トウ小平氏から「成長加速」の“天の声”がかかったため、再び高度成長の目標が掲げられた。しかし昨年の同氏の南方講話で火が付いた中国経済の過熱はまだ収まっていない。慎重なカジとりを望みたい。
 
 
 
 
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