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1993/03/16 毎日新聞朝刊
[社説]国際 経済大国への道を走る中国
 
 世界経済が停滞するなかで、中国の経済は快調に拡大しつつある。十五日開幕した全国人民代表大会(国会)に提出された李鵬首相の政府活動報告が、高度成長路線を突き進む決意を表明しているのも、最高指導者・トウ小平氏に指導された、ここ数年の経済政策に自信を持ったためであろうか。
 李鵬報告は、現行の第八次五カ年計画(一九九一―九五年)の予定成長率六%を八―九%に上方修正し、二〇〇〇年までに国民総生産(GNP)を八〇年の四倍にするという“トウ小平計画”を、三年繰り上げ達成するとの決意をブチ上げている。
 昨年の初め以来、トウ小平氏は思い切った市場メカニズムの導入による高度経済成長政策の旗を振り続けており、今年に入ってからも「大発展のチャンスはそう多くはない。今のチャンスを逃さないよう希望する」と述べて、過熱現象を心配する声にけん制球を投げている。
 中国経済はすでに昨年夏ごろから過熱の気配が指摘されており、経済政策当局も警戒信号を発している。それを押して李鵬首相が強気の報告を行ったのは、トウ小平氏の大号令が背後にあるからである。さらには経済大国への道を突っ走ろうとする、強烈な国家意思をそこに感じ取ることもできよう。
 だが市場経済はまだ定着したわけではない。今は計画経済から市場経済への移行期である。「社会主義市場経済」の用語に見られるように、社会主義を逸脱しないことを強調する歯止めキーワードがついているものの、実態として欧米や日本の経済運営とどれほどの違いがあるのかはっきりしない。
 現実の問題として、一方に社会主義経済の主柱であるはずの国営(国有)大企業が、市場経済のメカニズムに巻き込まれて赤字経営を抜け出せず、国家財政の重大な負担になっている事実がある。
 もう一方に、市場メカニズムに乗って利潤をあげている地方の集団経営企業、私企業の税金が、順調に国庫に入ってこない現実がある。徴税を請け負っている地方政府も企業も、規定通りの納税義務を果たさない例が多すぎるのである。おかげで国家財政は火の車である。
 国民生活の方を見ると、開放的な政策で潤っている層が輸入商品に殺到して消費ブームを引き起こし、同時に職を求めて農村地帯から都市へ向かう大規模な人口流動が発生している。
 つまり中国経済は、これまでの中央統制型経済から、中央のコントロールが利きにくい経済に変質しつつある。こういう状態で、成長率を九%にまで引き上げた場合、悪くすると中央政府の計画を無視して、地方が勝手に高成長を目指し、いたるところにネックを生みだして、経済を大混乱に陥れる危険がある。
 いまのところ中国経済の成長を見込んで、日本も含めた外国資本と華僑資本の投資が続いていて、これが強気の経済政策を支える柱の一つになっている。しかし景気の波は当然予想されるうえ、中国では経済不振は政治の動揺を誘いやすい。
 昨年の日中貿易が三百億ドルを超えたほか、三次にわたる政府借款やエネルギー借款が二兆円を超える事実に示されるように、日本は中国の開放経済に深くコミットしている。李鵬報告が描く経済発展は、日本にとっても歓迎すべき未来図ではあるが、その過程に混乱も予想されることを心すべきであろう。
 
 
 
 
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