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1991/04/12 毎日新聞朝刊
[社説]新たなあゆみ始める中国
 
 経済を発展させて社会主義の強国を築くとともに、大国にふさわしい軍事力も備える――中国が今世紀いっぱいをにらんで設定した、雄大な国家目標である。
 九日終了した全国人民代表大会(国会)で採択された、国家発展の十年構想と、今年から始まる第八次五カ年計画の要綱は、中国が天安門事件を克服して、新しい成長の歩みを始めようとする決意表明だ。
 年率六%程度の緩やかな成長でこの目標は達成できるというのが、指導部の腹づもりだが、そのためには政策の安定性が必須ひっすである。
 八九年六月の天安門事件をきっかけに政局の主導権を握った保守派長老グループは、経済打開に有効な政策を提示できなかったようである。そこで今回の全人代に提出された政府活動報告は、かつての改革・開放政策への回帰の方向をうかがわせる内容になっている。
 だが自由主義経済的な手法を大胆に取り入れた市場機能重視政策と、社会主義の正統性を重んじる経済計画重視政策にどう折り合いをつけるのかがはっきりしない。この点は、背後に思想闘争と権力闘争が絡んでいるだけに、中国経済は常に混乱に陥る危険にさらされている。
 改革・開放に伴う権力分散で、地方のエゴイズムがまかり通っている問題も明確な解決策はないようだ。広東省、福建省、江蘇省などのような対外経済の振興で潤っている地域に比べて、中央政府は大幅な赤字財政に悩まされている。
 豊かな地方は中央への財政貢献に消極的で、しかも中央には地方からの税収を増やす有効な手段もないという。省によっては自省産業の保護のため、他省からの商品に高関税をかけたり、搬入を禁止したりする有り様だ。悪くすると国家の統一を阻害する行為ともいえよう。
 こうした難問題の解決も大変だが、軍事費の増大も経済成長の足を引っ張る可能性がある。当面大きな戦争はないとの判断から、中国は、百万人の兵員を削減し、軍事予算を低い水準にとどめ、一時は演習費用にもこと欠くといわれたほどだ。
 しかし天安門事件で軍の発言力が強まり、さらに湾岸戦争でハイテク兵器の威力を見せつけられて情勢が変わった。巨額の財政赤字にもかかわらず、昨年は前年比一五%、今年は同一二%も国防費を増額した。政府活動報告は、この傾向が今後十年続くと明言しており、いずれ国防費と経済成長の関係が問題化するのは避けられないだろう。
 国防近代化の方針は、さっそくソ連との軍事協力再開に道を開き、中国は近く、ソ連製全天候戦闘機Su27型機を二十四機購入すると報じられている。
 同機は米国のF15の対抗機種で、ベトナム、台湾あるいはインドなど周辺諸国には大きな脅威になり得る。日本は中国の経済開発に多額の資金協力をすることになっているが、中国の軍事力強化が、周辺にどう影響するかにも考えを巡らせる必要が、そのうち出てくるだろう。
 
 
 
 
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