1991/01/15 毎日新聞朝刊
[社説]中国は経済に強い指導力を
中国は新年から第八次五カ年計画をスタートさせた。
今年から始まる十年は、中国にとって国家近代化事業の成否にかかわる重大な意義を持つ。このため、五カ年計画の大枠を決めた昨年末の党中央委員会総会(十三期七中全会)は、同時に今世紀いっぱいをカバーする十年構想も採択した。
七中全会の決定を読んで感じるのは、改めていうまでもない中国の経済運営の難しさである。
最高指導者、トウ小平氏の指導で七九年から始まった開放的な経済政策は、十年目の八八年に、建国史上最悪のインフレを招き、その調整過程で発生した一昨年六月の天安門事件は、中国の経済運営に極度に困難な問題を提起した。
昨年九月のアジア競技大会後に予定されていた七中全会が、年末ギリギリまで遅れ、しかも会議自体が相当にもめたらしいのは、天安門事件の後遺症の深刻さを物語る。
現在の中国政局をリードしているとされる保守派は、自由経済的な市場機能を大胆に取り入れた開放経済が、天安門事件を誘発したと主張し、計画経済への回帰と政治思想工作の重視を打ち出している。
これに対し、改革派は改革・開放の不徹底が事件の原因だと考え、市場経済のいっそうの進展を主張している。この主張は、経済分権で潤う地方の支持を得ており、中央指導力弱体化の原因になっている。
経済政策の実権を手にいれた、地方の指導者は強力である。勝手に地元産業保護措置を実施したり、税法を無視して大企業に減税したりは序の口。省内だけで通用する通貨を発行した例すらある。
七中全会の決定は、この利害衝突について「計画経済と市場調節を組み合わせる」「中央と地方の関係を正しく処理する」としか述べておらず、指導部内の力のバランスが、どちらにも決定的には傾いていないことを示している。
このことは、中国の経済政策が強力な理念によって指導される体制にないことを思わせるものである。
七中全会で採択された「五原則」も改革・開放、中国の特色のある社会主義、自力更生、精神文明の建設といった両派の合言葉を併記し、それを「持続、安定、協調」の六文字で妥協させたものである。
ところで中国の経済計画は、日本の協力を見込んで作成されている。橋本蔵相がこの八日から十一日まで中国を公式訪問し、天安門事件で棚上げになっている輸銀の資源開発ローン供与、日本市場での起債承認などの方向を示したことは、中国にとっては朗報であろう。
すでに第三次円借款の凍結を解除していることと合わせて、日本の対中経済協力は軌道に乗ったといってよい。中国の経済発展は日本にとっても利益であり、日本からの資金がお役に立てば喜ばしいことだ。
注視すべきは、中国が国内政治を安定させて、今世紀末までに経済規模を八〇年比四倍にする体制をつくれるかどうかであろう。
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