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HAND BOOK
「旅客船バリアフリーハンドブック」
旅客船バリアフリー基準の解説
 
平成17年3月
交通エコロジー・モビリティ財団
国土交通省 海事局 安全基準課 監修
 
はじめに
 本書は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて「高齢者・障害者の移動円滑化に関する推進」事業の成果として、国土交通省のご協力によりとりまとめたものである。
 
 わが国においては、諸外国に例を見ない高齢化が進展し、平成27年(2015年)には国民の4人に1人が高齢者(65歳以上)となる本格的な高齢社会の到来が予測されている。また、約324万人の障害者が障害のない者と同等に生活し、活動するノーマライゼーションの社会をめざし、身体障害者についても健常者と同様のサービスを受けることができるよう配慮することが求められている。
 わが国の高齢者・障害者対策は、昭和56年(1981年)国際障害者年の「完全参加と平等」並びに「ノーマライゼーション」の理念のもと、障害者施策にかかる長期計画の策定や各種施策の推進が図られたことにより、多くの分野で取り組みが行われてきた。
 バリアフリーにおいても、この頃から本格的な取り組みが見られるようになり、運輸省は昭和58年に「公共交通ターミナルにおける身体障害者用施設整備ガイドライン」を策定し、鉄道駅を念頭に置いたものとは言え、初めて総合的に公的に指針を示したものとして大きな意味を持つものである。
 そして平成12年(2000年)11月15日に、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」等が施行され、鉄(軌)道車両、バス、航空機、旅客船並びに鉄道駅、バスターミナル、空港ターミナル、旅客船ターミナルは移動円滑化(バリアフリー化)することとなり、旅客船においては平成14年以降の新船は、バリアフリー基準への適合を義務(既存船は努力義務)づけられ整備することとなっている。同法施行後、運輸省は平成12年12月「旅客船バリアフリー〜設計マニュアル」を策定し、旅客船のバリアフリー化の指針を示している。
 しかしながら、旅客船においては、空間の制約、動揺、潮位、水密段差等さまざまな船舶特有の事由からバリアフリー化を困難とする要因が多く存在し、旅客船事業者及び造船事業者は、これまで旅客船のバリアフリー化に対する整備の経験も浅く、高齢者や障害者の方々の移動をどのように理解し、整備するのが望ましいのか、その判断に苦慮している意見も多く寄せられていた。このため、それらの意見を取り纏め、また「旅客船バリアフリー〜設計マニュアル」発行後、関係のガイドライン等により定められた項目も加え、具体的に分かりやすく説明したハンドブックを作成したものである。
 
 本書が旅客船のバリアフリー化の基礎資料として広く関係者に利用されれば幸いである。
 また、本書の作成にあたり、大変なご努力をいただいた国土交通省海事局安全基準課並びにご意見をいただいた地方運輸局船舶検査官、造船関係者の皆様に深く感謝を申し上げる次第である。
 
平成17年3月
 
交通エコロジー・モビリティ財団
会長 井山 嗣夫
 
第1章 旅客船におけるバリアフリーの必要性
 『国土交通白書』(平成15年度版)では、「わが国においては、諸外国に例を見ないほど急速に高齢化が進んでおり、平成27年(2015年)には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となる本格的な高齢社会が到来すると予測されているが、高齢化の進展の速度に比べて社会のシステムの対応は遅れているといわざるを得ない状況にある。」として、今後さらに高齢社会への対応を強める必要性が高いことを示し、高齢者人口の確実な増加は、公共交通機関の利用者における高齢者の占める割合が高まることを意味している(特に離島における高齢化は深刻(平成12年度の高齢化率27%)なものであり、海上交通におけるバリアフリー化対策は急務であると言える。)。
 さらに障害者の社会参加に関しては「障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会をめざすノーマライゼーションの理念に基づき、身体障害者についても、健常者と同様のサービスを受けることができるよう配慮することが求められており、高齢者、身体障害者等が自立した日常生活や社会生活を営むことができる環境を整備することが急務となっている。」(同白書)として、移動に何らかの不自由のあるいわゆる移動制約者も、社会的な環境整備を進めることにより、安全で快適に外出できる環境を実現する必要性が高いことを示している。
 こうした背景を受けて、平成12年(2000年)5月、交通バリアフリー法(「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が国会で成立し、同年11月に施行され、鉄道やバス、航空機、旅客船並びにそれらのターミナルは益々使いやすく、多くの人にとってバリアのない環境に変わりつつある。
 海上交通における旅客船は通院、通学、買い物など日常生活航路として利用される離島航路から、船旅を楽しむ長距離航路まで幅広いバリアフリー化が望まれており、特に離島航路においては高齢化率が高く、その必要性は緊急の課題となっている。
 一方、高齢者、障害者にとって望ましい海上交通とは、介助者の手を借りずに独力で、安全、円滑かつ快適に移動できるものでなければならないが、船舶は鉄道等の他の交通モードと比較してカーフェリー、純客船などの船種による違い、長距離フェリー、生活航路など用途による違い、19トンの小型船から2万トンの大型船までと規模による違い多種様々であること、水密性確保のための構造、潮位差による乗下船位置の変化、波浪による揺れなどの特有の要因が存在しているため、高齢者や障害者等が介助者の手を借りずに独力で、安全、円滑且つ快適に移動することが困難な場合が多い。このため、現状においては、少なくとも通常時において、介助者または職員による補助により高齢者、身体障害者等が船舶への乗降及び船内移動が容易に行えることとしている。
 
(1)旅客船バリアフリー施設整備が目指す方向
 旅客船の設計にあたっては、高齢者、障害者、妊婦、外国人等、移動に何らかの不自由のあるいわゆる移動困難者にとってのバリアを軽減・解消し、より使いやすくすることを目指すとともに、現時点では特にバリアのない人も含めたすべての人にとっても、今以上に使いやすく顧客満足度の高い、いわゆるユニバーサルデザインの考え方にも配慮した施設整備を目指す。
 
1)バリアの除去
 高齢者や身体障害者など、旅客船を利用する人々の中で、移動や情報認知などの面で制約がある人々にとって、バリアが存在せず、安全、快適、便利に利用できる施設整備やサービスを目指す。
 
2)バリアフリー対象者の拡大
 バリアフリーを考える際、高齢者や身体障害者だけではなく、例えば妊産婦や乳幼児連れ、外国人、重い荷物を持った人など、移動や情報認知などの面で、高齢者や身体障害者ほどではないにしても、何らかの制約が生じる人々にも対象を広げ、より多くの人々にとって、バリアが存在せず、安全、快適、便利に利用できる施設整備やサービスを目指す。
 バリアフリーは高齢者、障害者だけに限ったものではない。疾病や交通事故等により、何時、障害になるかわからないし、また誰しも歳をとるものである。
 要するに、高齢者、身体障害者等が自立した日常生活や社会生活を営むことができる環境を整備することが必要。障害のある人が障害のない人と同じように社会に参加できる社会をつくることが必要であることは言うまでもない。
 
3)顧客満足度の向上
 現在、施設を利用する上で特にバリアがない人々にとっても、安全性、快適性、利便性がより向上し、顧客満足度の向上につながる施設整備やサービスを目指す。
 
(2)旅客船・旅客施設におけるバリアフリーの実現の方向性
 旅客船・旅客施設におけるバリアフリー化の実現に当たっては、以下の方向性を目指すことが望ましい。
 
1)より多くの選択肢の提供
 例えば旅客船並びに旅客施設側が用意する車いすに乗り換えて介助がつけば、バリアフリー化されたと考えるのは早計である。車いす使用者の中にも、最初から人的サポートを求める人もいれば、できるだけ乗船する旅客船客席まで、独力で行動したい人もいる。利用者の状況やニーズは、まさに多種多様である。
 
2)全ての人にとって安全で使いやすい施設・サービス
 施設やサービスは、すべての人にとって利便性を提供するためのものであり、例えば、エレベータは、必ずしも車いす使用者だけのためのものではなく、杖を利用していたり、乳幼児連れや重い荷物を持っている人が、あたりまえに利用できるように設置されるべきである。
 
3)点から線のバリアフリーへ
 旅客船利用者は、旅客船だけを利用するのではなく、出発地から目的地までの通過点として旅客船を利用する。従って、旅客船だけに閉じたバリアフリー化ではなく、出発地から目的地まで、線でつながったバリアフリー化が図られることが望ましい。
 
(1)旅客船と他の交通手段の結節条件のバリアフリー化
 旅客船までのアクセス手段として考えられるバス、タクシー、鉄道などの公共交通機関や、自家用車(自ら運転する場合、家族などにより送迎してもらう場合など)と、旅客施設間のバリアフリー化を進める必要がある。そのためには、異なる事業主体間の連携が必要であり、例えば視覚障害者誘導用ブロックの敷設の際など、素材、色、敷設方法などに統一性、連続性を持たせた事業者間の調整が望まれる。
 
(2)事前情報の提供と利用者からの意見収集・反映
 連続したバリアフリー化を実現するためには、先の状況を事前に把握しておくことも必要である。出かける前から、利用する交通手段や旅客船、旅客施設のバリアフリー情報を含む様々な情報を入手して準備を整えられることはもとより、移動中や旅客船などにおいても目的地などの情報を入手し、準備を整えられることが望ましい。また、利用後の利用者からの意見・要望収集をより積極的に行い、施設やサービスの改善に役立てることも大切である。
 
(3)旅客船のバリアフリー化を計画する上での配慮事項
 
1)特に配慮すべき対象者と主な課題
 旅客船設計時には、あらゆる利用者の利便性、安全性、快適性に配慮する必要がある。中でも、移動や情報認知など、施設を利用する上で何らかの制約を持つ利用者に対しては、その行動特性、身体特性などを考慮して、十分配慮する必要がある。
 
 旅客船設計時において、特に配慮すべき対象者は、高齢者、身体障害者など、以下の表に示すとおりである。
 
旅客船のバリアフリー設計時において特に配慮すべき対象者
対象者 想定される主なケース
高齢者 ・歩行が困難な場合
・視力が低下している場合
・聴力が低下している場合
肢体不自由者
(車いす使用者)
・手動車いすを利用
・電動車いすを利用
肢体不自由者
(車いす以外)
・杖などを使用している場合
・長時間の歩行や階段、段差の昇降が困難な場合
内部障害者 ・長時間の歩行や立っていることが困難な場合
視覚障害者※ ・全盲
・弱視
聴覚・言語障害者 ・全聾
・難聴
・言語に障害がある場合
知的障害者 ・一人での利用が想定される場合
外国人 ・日本語が理解できない場合
一般利用者 ・けがをしている場合
・妊産婦
・重い荷物を持っている場合
・乳幼児連れ
・初めて空港を訪れる場合
出所:公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン







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