はじめに
かけがいのない地球環境を守るため、いま、あらゆる分野で多くの努力が続けられております。海上輸送の分野でも、平成5年に運輸技術審議会が「新時代を担う船舶技術開発のあり方について」の答申をまとめ、環境への負荷の少ない舶用ガスタービンシステムの開発に積極的に取り組む必要があると提言しました。政府はこの答申に基づき、平成8年、ガスタービンをベースにした環境低負荷型舶用推進プラントの研究開発の推進を図ることになりました。
このような状況のもと、ガスタービンに実績のある5社が、平成9年4月、スーパーマリンガスタービン技術研究組合を設立し、環境低負荷型舶用推進プラントを実現すべく、従来の概念をはるかに超えた低NOxで高効率な次世代型の舶用ガスタービン(スーパーマリンガスタービン)の研究開発を6年間で実施し、所期の成果を得ることが出来ました。
この成果を受けて、平成14年度より3ヵ年計画で実用化を目指して、「環境低負荷型舶用推進プラント研究開発」で開発されたスーパーマリンガスタービン(SMGT)をベースに、環境にやさしく、信頼性が高く、かつ、エネルギー効率の良い「実船搭載型舶用推進プラント(SMGT2)の研究開発」を行うことになりました。
本研究開発では、実船搭載型として必要な信頼性を有する2,000kW級舶用ガスタービンの開発に加え、ガスタービンの排熱を利用した吸気冷却システム及び排熱回収によりエネルギー総合効率を向上(目標50%以上)させる研究を行います。
幸いにして平成16年度をもって、すべての開発目標を達成することができ、3年間にわたる本研究開発を終了することができました。本報告書では3年間で得られました研究成果をまとめ、ご報告を申し上げます。
また、従来型とは異なる革新的な次世代内航船(スーパーエコシップ)のプロジェクトが、平成13年度から国の指導で進められています。
実用化へのステップとして、本研究開発で得られた成果を取り入れたスーパーマリンガスタービンが、スーパーエコシップに搭載される予定です。
最後になりましたが、本プロジェクトに対し、日頃格別のご支援、ご指導をいただいている国土交通省、日本財団、その他関係各位に対し、この機会を借りて心よりお礼を申し上げます。
平成17年3月
スーパーマリンガスタービン技術研究組合
理事長 田崎雅元
SMGT2外観
SMGT搭載船(想像図)
1. 試験研究の背景
地球環境の保全とエネルギー効率向上の観点から、これまでのトラック中心の陸上輸送から、内航船による海上輸送へのシフトが求められている。さらに、船内労働環境の改善、船舶全体の経済性の向上等により内航海運の活性化が求められている。
このため従来型の内航船とは大きく異なる次世代内航船(スーパーエコシップ)のプロジェクトが、平成13年度から国の予算で進められている。スーパーエコシップは、高効率舶用ガスタービン、電気推進式ポッドプロペラ及び船体抵抗を低減した理想の船型等の革新的技術を取り入れた画期的な船舶を目指している。
このような状況のもと、スーパーマリンガスタービン技術研究組合は、スーパーエコシッププロジェクトの成功の鍵を握る高効率舶用ガスタービンとして、「環境低負荷型舶用推進プラントの研究開発」で開発されたスーパーマリンガスタービン(SMGT)をベースに、環境にやさしく、信頼性が高く、かつ、エネルギー効率の良い実船搭載型舶用推進プラント(SMGT2)の研究開発に国土交通省のご指導のもと日本財団からの助成金を受け、取り組んだ。
2. 研究開発の目標
・出力:2,000kW級
・総合エネルギー効率:50%(CO2の排出量をSMGTの20%削減)
・信頼性:実船搭載用エンジンとして必要な信頼性の確立
3. 研究開発内容の概要
スーパーマリンガスタービンの技術を活用し、実船搭載型として必要な信頼性を有する2,000kW級舶用ガスタービンの開発を行なった。
また、ガスタービンの排熱を利用した吸気冷却システム及び排熱回収により総合エネルギー効率を向上(目標50%)させる研究を行った。このため、平成14年度から3年間にわたり、実船搭載型に必要な信頼性を確立するための実証機を設計・製作し、この実証機により耐久試験を実施し、その信頼性評価を行った。また、吸気冷却システムを実証機に装備してその性能評価試験を行った。
3.1 実船搭載型舶用推進プラント(SMGT2)の設計・製作
SMGTの基本構造および主要な要素(燃焼器、圧縮機、タービンなど)の研究成果を活用して、実用機として必要な信頼性を有する2,000kW級の再生2軸式ガスタービンを設計し、その実験機を製作した。
SMGT2の設計仕様を表1、実験機構造仕様を表2に示す。実験機のパワーセクション断面図は図1に示す。
SMGT2では信頼性の向上のために定格点のタービン入口温度をSMGTより50℃下げることとしたが、ガスジェネレータ部についてはSMGTの成果を有効に使用するため基本的に同じとした。このため、ガスジェネレータの定格点条件における回転数、圧力、空気流量が変わらないようにSMGT2ではパワータービンについて新設計を行った。
また、SMGT2用熱交換器は、実船で運用する場合、必要とする信頼性およびメンテナンス性の観点から、SMGTよりも温度効率を下げて75%とし、細管型およびプレートフィン型の2種類の熱交換器を開発した。
3.2 吸気冷却システムおよび排熱回収システムの研究開発
ガスタービン排熱で吸収式冷凍機を作動させ、ここで発生させた冷気で吸気冷却することにより、大気温度が高い場合にも出力低下量の少ない性能を持つガスタービンシステムを開発した。
また、ガスタービン排熱を有効利用して総合エネルギー効率を向上(目標50%)させるため、ガスタービン排熱回収システムの研究を行った。
3.3 信頼性試験
3.1で製作された実験機により耐久試験を行い、その信頼性評価を行った。また、3.2の吸気冷却システムを実験機に装備して、その性能評価試験も行った。
3. 研究開発スケジュール
研究開発スケジュールは、図2に示す。
4. 研究開発体制
スーパーマリンガスタービン技術研究組合は、鉱工業技術研究組合法に基く組合組織で、平成9年4月1日に設立認可され、図3の組織構成になっている。
理事長の諮問機関として運営委員会と技術評価委員会がある。運営委員会の傘下に業務部会、技術部会があるが、技術部会は主として技術的問題を扱う。
研究開発は、組合がこれら委員会に諮問して、企画、立案、調整を行い、組合参加会社に研究開発を委託して行った。
また、研究計画および研究成果等については、外部有識者で構成する技術評価委員会にて第3者的立場で公正に評価して頂いた。
組合参加会社は、現在、石川島播磨重工業株式会社、川崎重工業株式会社(幹事会社)、ダイハツディーゼル株式会社、ヤンマー株式会社(50音順)の4社である。
5. 委員構成
技術評価委員会(平成17年3月4日現在)
委員長 吉識晴夫 帝京平成大学情報学部情報工学科 教授
副委員長 角洋一 横浜国立大学工学部建設学科 教授
委員 今市憲作 大阪大学 名誉教授
岡實 (財)日本海事協会 顧問
刑部真弘 東京海洋大学海洋工学部 教授
鎌田実 東京大学大学院工学系研究科 教授
神山公雄 (社)日本旅客船協会 工務相談室長
川口修 慶応義塾大学理工学部機械工学科 教授
嶋田武夫 日本郵船(株) 元顧問
仙波泰彦 (独)航海訓練所 機関科長
葉山眞治 東京大学 名誉教授
山下暁 (社)日本舶用工業会 専務理事
横山勲 (社)日本造船研究協会 常務理事
松坂武彦 栗林商船(株) 取締役船舶部長
渡邊巌 (独)海上技術安全研究所 理事
オブザーバ 田中護史 国土交通省海事局舶用工業課 課長
染矢隆一 海上保安庁装備技術部船舶課 課長
技術部会(平成17年3月4日現在)
部会長 杉本隆雄 川崎重工業(株)ガスタービンビジネスセンター 副センター長
部会委員 門原陽一 石川島播磨重工業(株)艦船ガスタービン部 課長
宮地宏 川崎重工業(株)ガスタービンビジネスセンター エンジン開発部長
中西謙一 ダイハツディーゼル(株)CS推進事業部 主査
濱地康之 ヤンマー(株)エンジン研究グループ 主席研究員
オブザーバ 吉原敬一 国土交通省海事局舶用工業課 課長代理
井亀優 (独)海上技術安全研究所 グループ長
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