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3.6 解像度の検討
 数値予報モデルは、解像度が高いほど、実際の地形や土地利用に忠実な計算を行うことが可能である。一方、解像度を倍にすると、領域が同じであれば少なくとも8倍の計算時間が必要であり、「できる限り計算負荷の軽いモデル」という目標から達成することができない。本章では、T9918事例を対象に、解像度ごとの推算精度を比較し本目的に適切な解像度を検討した。
 
 本システムでは、図3.2に示すように大領域・中領域・小領域を設定した。このうち、大領域・中領域は、台風の構造を推算するために設定し、小領域は、八代海・周防灘の複雑な地形を詳細に表現するために設定した。
 本項では、地形を詳細に表現することによる海上風の推算精度の向上について調査した。中領域と小領域の八代海周辺の標高図を図3.16に示す。小領域は、格子間隔が小さいため、地形が詳細に表現され、海岸線が明確になっていた。
 
図3.16 中領域(格子間隔:4.5km)と小領域(格子間隔:1.5km)の標高図
中領域
 
小領域
 
 大・中の2領域で2way-nestingを行って計算した場合と、大・中・小の3領域で2way-nestingを行って計算した場合の海上風の推算精度の比較を行った。2領域と3領域で計算した場合の海上風の推算誤差を表3.12に示す。対象期間は、台風中心が八代海・周防灘を通過した9月24日3〜8時とした。
 2領域で推算した海上風の推算精度と3領域で推算した海上風の推算精度は同程度であった。3領域にすることで計算負荷が重くなることから、本研究では2領域で計算を行った。
 
表3.12 海上風推算誤差
  2領域 3領域
苅田港1 5.37 4.42
宇部空港 4.36 4.08
三角港 9.25 9.29
水俣港 1.24 3.85
熊本港 5.74 6.33
八代港 6.77 6.46
牛深港 4.77 5.41
5.73 5.94
相関係数 0.679 0.650
 
 第3章で構築した新たな推算手法と、これまでの推算手法の海上風推算精度を検証し、新たな推算手法の評価を行った。評価は、個別事例による検証と、5事例による検証で行った。個別事例はT9918事例を対象とした。
 
 新たな推算手法を、T9918事例を対象に検証した。検証は、(1)洋上における推算値と衛星観測値の比較、(2)八代海・周防灘における海上風推算精度の比較を行った。
 
(1)洋上における推算値と衛星観測値の比較
 洋上における推算値の風向風速分布を図4.1に示す。推算値は、1999年9月22日9時を初期値とした、9時間後の推算値を示す。図2.5の観測値と比較して、推算値は最大風速が大きかったが、最大風速位置は観測値と同様に台風の進行方向の前方に存在していた。
 最大風速が、前方に存在していたのは、台風の非対称性を表現していたからと考える。したがって、新たな推算手法を使うことにより、台風通過前の強風を推算できる可能性があると考える。
 
図4.1 高度10mの風速分布 黒丸:台風中心
黒矢印:台風進行方向(9月22日18時JST)
 
(2)八代海・周防灘における海上風推算精度の比較
 T9918事例の八代海・周防灘周辺における地点ごとの観測値、これまでの推算手法(Masconモデル)、新たな推算手法の風向風速時系列変化図を示す。観測値・これまでの推算手法は1時間ごと、新たな推算手法は30分ごとに描画した。計算値は、メッシュ値を観測地点の緯度経度に線形内挿して求めた。地点は表1.1の、苅田港・宇部空港・三角港・水俣港・熊本港・八代港とした。苅田港は、第4港湾建設局の観測値(苅田2)に欠測があったため、福岡県の観測値(苅田1)を使用した。
 周防灘の苅田港では、風速は、2重のピーク(極大値)を持つ構造で、台風通過前に最大風速を含む大きなピーク、台風通過後に小さなピークを持っていた。(台風通過は9月24日8〜9時)これまでの推算手法では、台風通過後に大きなピークを推算していたが、新たな推算手法では、観測値と同様に台風通過前に大きなピークを推算していた。
 八代海(三角港・水俣港・熊本港・八代港)でも、台風通過前に風速のピークが観測されていた。これまでの推算手法では、台風通過後に風速のピークを推算していたが、新たな推算手法では、台風通過前に風速のピークを推算した。
 地点ごとの推算風速誤差と相関係数を表4.1に示す。推算風速誤差や相関係数がもっとも優れていた手法に網掛けを施した。推算風速誤差は、対象期間(9月22日21時〜9月24日21時)の平均二乗誤差として算出した。
 新たな推算手法は、苅田港1、宇部空港、水俣港、熊本港でもっとも推算風速誤差が小さかった。三角港や八代港でも、Mascomモデルと比較して推算風速誤差は大きかったが、最大風速の推算精度はMascomモデルより優れていた。地点合計の推算風速誤差、相関係数も、もっとも優れており、T9918事例では、新たな推算手法はこれまでの推算手法より海上風の推算精度は優れていたと考える。
 
表4.1 地点ごとの推算風速誤差と相関係数
(網掛けはもっとも優れている手法)







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