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第5章 越波量計算方法の検討
5.1 越波の概要
 岸に向かって進行してきた波が、種々の変形をしながら砕波し又はそのまま海岸堤防や護岸に打ち上がり、提内に進入してくる状況を越波という。
 越波した量を表す方法としては、越波量と平均越流流量の2とおりあり、越流量は、提内に進入した1波ごとの量、平均越流流量は単位時間あたりの越波流量で、いずれも堤防や護岸の単位長さあたりの量で表される。越波量と平均越流流量には、ある波浪状態が十分に長く続いている時には以下の関係がある。
 
 
 ここに、t0は波の継続時間、N0は波数、Hi、Tiは提体にあたるi番目の波の波高と周期である。
 また、越波現象には、波高、周期、波向等の波浪諸元、堤防や護岸前面の水深、勾配などの海底地形、提体の天端高、のり面勾配などの条件や消波工の有無および風など数多くの要素が関係している。このため、これらの要素の変化によって越波量が大きく変化することが越波現象の大きな特徴といえる。
 
 規則波を対象とした越波流量の算定方法としては、堤防前面の水位の時間変化を仮定して、堰の越流として計算を行うものや、堤防前面の波の時間及び空間波形から越波量を求めるものなどがある。 しかし、自然界の波は不規則波であり、有義波相当の規則波による越波量の算定では必ずしも妥当ではないことから、越波量の算定には、波の不規則性を考慮することを原則として定められているものもある。
 不規則波の越波流量の概算値は、合田らの方法によって計算することができる。以下にその概要を示す。
 各波ごとの波高と周期に対する越波流量が規則波の実験で求められていれば、不規則波の平均越波流量qを次のように算定する。
 
 
 ここで、周期が著しく長くならない限り越波流量に及ぼす周期の影響が小さいとして、不規則波群の有義波周期T1/3を波群の代表周期とし、換算沖波有義で無次元化することで以下の無次元期待越波流量が求められる。
 
 
 p(x)は無次元波高の確率密度である。
 直立及び消波護岸の越波流量は、以上の越波計算及び不規則波による模型実験の結果に基づいて作成された推定図によって推定できる。
 例として海底勾配1/10の場合の消波護岸に対する越波流量の推定図を図5-2-1に示す。
 これらは、捨て石マウンドの上に消波ブロックを2層に積み、天端部分は下層を2個並びとした断面を対象として行った不規則波による越波実験の結果から作成されたものである。これらの図表による推定値には、潮位、波高及び周期に関する推定精度も影響してくる。
 以上の方法で求められる越波流量は30〜60分程度の平均値であり、不規則波群中の1波あるいは数波程度の高波について考えると、はるかに多量の越波が生じる可能性があり、こうした越波量の時間的変動についても十分に注意しなければならない。
 
図5-2-1 消波護岸の越波流量推(海岸勾配1/10)
 
 
 
 波が傾斜海岸を遡上したり、海岸構造物に衝突すると、波は静水面上に打ち上がる。打ち上げ高Rは静水面から最高到達面までの鉛直距離と定義されている。
 打ち上げ高さには、次に示すようにいろいろな要素が影響している。
 
 
 ここに、H0は沖波波高、L0は沖波波長、hは提脚水深、tanβは海底勾配、tanαは提体のり面勾配、kはのり面の粗さを表すパラメータである。
 このように、波の打ち上げ高を求める式には多くの要素が影響しており、きわめて簡単な条件の時以外求めることはできない。一例として、高田がのり面前方で波が砕波しない場合について提案した算定式を示す。
 
 
 
 ここに、Hは前面水深hでの入射波高、αは水面とのり面のなす角、K0は浅水係数、h0は重複波の静水面上の中分面の高さ、αcはのり面で波が砕けず完全反射が生じる限界傾斜角である。
 最高打ち上げ高はα=αcのとき生じ、のり面がそれより急になっても穏やかになっても打ち上げ高は減少する。
 
 高潮発生時の越波量としては、波浪による打ち上げによる比較的短時間の越波としてではなく、推算される潮位変動と対象とする堤防の天端高との差から、堰の越流と同様な考え方で堤防からの越波(越流)を考えることとする。
 
 従来型の高潮モデルにWave Setup、河川流の効果を含めたハイブリッドモデルを構築した。Wave Setupの効果は海岸付近のみでなく、周防灘、有明・八代海域の広い海域にわたって確認された。有明・八代海域ではWave Setdownになる例もみられた。
 実況値との比較では比較的よくあっていたが、風計算から見直さないと再現が不可能な例もみられ、マイヤーズの式による風計算の限界もみられた。今後は風計算の精度が重要となるため、精度のよい風計算方法を採用する必要があると思われる。
 また、高潮の計算と平行して波浪計算を行っているため、各メッシュごとに波高・周期等の波浪諸元が求められているが、この値をドラッグ係数には利用していない。外洋と内湾では同じ風速でも波浪の発達のしかたが異なり海面の粗度が異なることが考えらえれるため、波浪諸元を反映させたドラッグ係数を用いることも可能である。
 
 今回の計算では波浪計算にあわせて高潮計算のメッシュサイズを決定したが、今後は氾濫計算に結合するためさらに細分化したメッシュサイズで計算する必要がある。波の計算も同様なメッシュサイズで行なわなければならないため、細分化したメッシュサイズでの実用的な波浪計算手法を検討する必要がある。







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