謝意
第57回国際溶接学会年次大会の開催にあたり、日本財団、(財)大阪観光コンベンション協会、(独)国際観光振興機構など多数の団体・企業の皆様よりご支援を賜りました。ここに心から謝意を表します。
――2004年 第57回国際溶接学会年次大会――
報告書
期間
2004(平成16)年7月11日−16日
場所
大阪国際会議場
平成17年1月
2004年 第57回国際溶接学会年次大会 組織委員会
2004年第57回国際溶接学会年次大会は, 7月11日から16日までの6日間, 大阪国際会議場において盛会裡に開催されました。
日本にとりましては, 1969年の京都大会・1986年の東京大会についで第3回目の開催でありました。参加国数42カ国・参加者数は約750名と予想を上回る参加をいただき, 溶接・接合に関する学術・技術両面からのアプローチが各委員会活動を中心として展開されました。また, 国際コンファレンスにおきましても, 約350名の出席者が船舶をはじめとした各分野の将来技術について, 熱心な報告・討議に参加されました。本大会が, 参加されました皆様方の技術の向上, あるいは国際交流の場として有効に機能することが出来ましたことは, 主催者と致しましてはこの上もない喜びでございます。
大会の運営内容につきましても多数の皆様から, 賞賛と感謝の言葉をいただくなど, 高い評価をいただくことが出来ました。これも一重に大会開催準備にご参加下さった皆様, 大会開催中に貢献下さった皆様, 特に厳しい経済状況の中多大なご支援・ご助成を頂きました日本財団をはじめとする諸団体各位・諸企業各位の心温まる御支援の賜物でございまして, 組織委員会を代表して厚く御礼を申し上げる次第です。また, 開催地が大阪ということで, 大会の中心的な役割を果たしていただきました大阪大学関係者の皆様方に心から感謝申し上げます。
ここに, 大会の開催経緯並びに実績をご報告申し上げますとともに, 御支援賜りました皆様方に心から御礼申し上げまして御挨拶と致します。
平成17年1月吉日
2004年 第57回 国際溶接学会年次大会
組織委員会 委員長 藤田 譲
(1)国際溶接学会の歴史的経緯
ア IIWは第2次大戦後, 欧州の疲弊した国土に産業を復興させるため, あらゆる産業の基盤技術である溶接技術の普及・発展を目指し, 1948年に欧州経済協力機構の基金によって設立されました。その後, UNESCO(国連教育科学文化機関)の提唱によって, 1951年に設立されたNGO(民間団体)であるUATI(国際工学団体連合)に加盟しました。UATIはUNIDO(国際工業開発機構)およびECOSOC(国連の経済社会理事会)から諮問機関としての地位も得ています。IIWはUATIの一員として国際貢献すると共に, IIWのRegional Congress(地域会議)を通して, 発展途上国に対しても基盤技術である溶接技術の普及・支援活動を積極的に行っております。また, ISO及びIECより認められている数少ない国際規格原案作成団体として, 世界貿易の円滑な運営にも貢献してきています。
イ 日本は, 1952年にIIWに加入し会員国となり, 現在に至っています。IIWに加盟することによって国際的な技術交流活動を通して, 造船工業をはじめとする生産技術立国としての世界における地位を確保することができました。
(2)溶接技術の現状と今後
ア 溶接・接合技術は各種構造物の製造に際して必須な技術であり, 造船・橋梁・建築・圧力容器などの大型構造物から, 自動車・車両などの大量生産製品, 電子部品等のマイクロ接合にいたるまで, あらゆる産業分野での基礎技術として活用されています。材料面でも, かつては鉄鋼をはじめとする金属材料が主な溶接の対象でしたが, 最近ではセラミックス・プラスチックス・各種の複合材料・異種材料の接合にまで拡大してきております。溶接・接合方法につきましても, 基本であるアーク溶接のみならず, 電子ビーム溶接・プラズマ溶接・レーザ溶接・超音波接合・摩擦接合・拡散接合など多様化が図られてきており, 造船技術への適用も進められております。また, 最近のITシステムに代表される電子部品内などのマイクロ接合・微細加工技術, 更に今後はナノスケールでの制御などを目指した新しい溶接・接合手法の開発とその展開も予想されます。また, 接合部の微細構造を原子・分子オーダーの極小領域で解明することによって接合界面機能を制御し, 生化学反応を利用する接合・分離加工法の開発も検討されており, 近い将来は生体材料の接合など医療技術の新しい分野への更なる適用の可能性を秘めております。
イ 溶接・接合物の破壊が社会に非常に大きな影響を及すことは, これまでに見られた船舶・橋梁・圧力容器・海洋構造物などの溶接部に発生した亀裂が原因で破壊に至った例や, それが社会に与えた衝撃を見ても明らかであります。特に, 船舶が溶接部から生じた亀裂により2つに分断された事実, 兵庫県南部地震に見られた鉄骨・橋梁の鋼構造物における破壊, 及びアメリカ合衆国ニューヨークの鉄骨超高層ビルであった世界貿易センタービルのテロによる航空機衝突の大惨事等は, 社会基盤さえ損なうほどの大きな影響をもたらしました。また, 最近の原子力発電設備のトラブル発生は, 設備の設計から保全に至るまで, 信頼性の更なる改善が必要であることを示しております。このため, 構造物や製品の信頼性に対する要求は年々高まって来ており, 溶接・接合技術の向上を通して安心・安全な社会形成に貢献する必要性は, 今一度広く認識されるべき状況にあります。
(3)国際溶接学会の役割
ア 溶接・接合技術に関する研究・開発の情報交流, 更には教育と技術者認証に至るまでの広い分野における国際組織としての役割りをIIWが担っており, 今後とも活発な活動が期待されています。IIWには, 各国内において全国規模で溶接・接合技術の発展に関する活動を行っている非営利団体が加入しており, 加入国数は現在45カ国となっています。
イ IIWの最近の取り組みとして, 品質マネージメント・環境リサイクル面にも活動を展開するために, 新たに特別の委員会を設けました。この他, 工学教育の分野にもその活動範囲を広げており, 毎年の年次大会における委員会においては, 溶接管理技術者の教育訓練システムの確立及び教育カリキュラムの検討だけでなく, IT/インターネット技術の遠隔教育への活用・CD-ROMの教育資材への活用など, 教育手法の検討も重要な議題として取り上げられ活発な討論が行われています。この溶接工学教育システムについては, 後進国がその国のインフラストラクチャー構築の観点から高い関心を持っており, わが国としてもJICA(日本国際協力事業団)の活動の一環としてアジア・アフリカ・中南米など海外からの研修生を受け入れ溶接関連教育を行うと共に, 本システムの後進国への普及活動を積極的に実施しております。
ウ IIWでの交流は, 常設の15の委員会及び2つのスタディーグループ等において行われ, 年間を通してこれらの委員会を適宜開催するとともに, 年次大会(総会)を開催して世界各国から関係者が参集する機会を設けております。この大会は, 溶接・接合全般に関する基礎・基盤研究, 応用技術, 国際溶接技術者の認証を含む教育問題, 安全衛生及び環境問題, ISO標準の原案作成など, 溶接・接合の学術・技術両面にわたる国際的な進歩・発展を図る目的で毎隼開催されます。
年次大会の開会に際しては, 溶接・接合の技術進展・普及啓蒙に著しい貢献が認められた人々を対象として, 荒田賞・エドストロム賞などが付与され, 特に学生及び若手技術者の論文を対象としてグランジョン賞の授与が行われました。引き続き各委員会とスタディーグループ等の会合が行われ, 大会後半にその年ごとに特定テーマを主題とした国際コンファレンスが開催されました。国際コンファレンスは非加入国にも公開することによって, 最新の研究成果を東南アジア諸国をはじめとして幅広く世界に発信しました。
(1)経緯
国際溶接学会年次大会は, 過去日本において昭和44年の第22回大会と昭和61年の第39回大会の2度開催されました。これらの大会では, 各々1,000名弱の参加者の内, 日本国内からの参加者は共に500名を超し, わが国の溶接・接合技術の向上に大きな刺激を与えました。今回の第57回年次大会の開催は, 欧米主要国が既に3度にわたる開催を済ませていることから, 日本においても同様に3度目の開催を切望されたことによるものであり, 1997年7月19日のIIWサンフランシスコ年次大会総会において, 第57回国際溶接学会年次大会を2004年に日本で開催することが決定されました。これを受けて, 日本開催準備のために, 準備委員会を平成13年4月に設置し, 平成14年5月に組織委員会を発足しました。
なお, この会議の開催状況は, 次のとおりとなっています。
開催年 |
開催地 |
参加国数 |
参加者数 |
日本人参加者 |
1948年(第1回) |
ブリュッセル(ベルギー) |
36カ国 |
111人 |
0人 |
1969年(第22回) |
京都(日本) |
27カ国 |
980人 |
568人 |
1986年(第39回) |
東京(日本) |
39カ国 |
816人 |
475人 |
1997年(第50回) |
サンフランシスコ(アメリカ合衆国) |
27カ国 |
335人 |
57人 |
1998年(第51回) |
ハンブルグ(ドイツ) |
38カ国 |
598人 |
91人 |
1999年(第52回) |
リスボン(ポルトガル) |
37カ国 |
618人 |
81人 |
2000年(第53回) |
フローレンス(イタリア) |
33カ国 |
800人 |
92人 |
2001年(第54回) |
リュブリャナ(スロベニア) |
34カ国 |
460人 |
81人 |
2002年(第55回) |
コペンハーゲン(デンマーク) |
32カ国 |
527人 |
86人 |
2003年(第56回) |
ブカレスト(ルーマニア) |
40カ国 |
605人 |
79人 |
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(2)意義
ア 各国の溶接・接合に関する第一線の研究者・技術者が, 一同に会して最新の研究成果を発表・討議する場が本年次大会であり, 日本の溶接・接合技術の関係者にとって, これ以上貴重な機会はありません。特に近年は, プラスチックスや各種の複合材料・異種材料の接合, 水中溶接, 鉛を使用しない微細はんだ付けなどの新規分野の研究が著しい発展を遂げており, 廃プラスチック利用としての衣料のレーザ接合など新しい分野への取り組みも行われています。レーザ技術は造船工作法に適用されつつあり, スーパーテクノライナー(アルミ高速船)の建造には摩擦接合という新技術が実用化されようとしております。また, 日本ではH2ロケットを対象としてNi耐熱合金のレーザ接合・アルミニウム合金の溶接・ろう付けの信頼性向上などの課題に取り組んできましたが, 他国の最新の研究動向・研究内容を多数の日本人参加者が直接聴講し討議できることは, 今後の開発を進める上で極めて重要です。また, わが国では2001年からIIW国際溶接技術者の認証制度に参画し, 既に国内資格を有している方々に追加補充教育を行うことにより, 国際資格を取得できる特例制度を3年間実施しております。本大会において, その後の資格認証制度の国際化に関する進め方について協議・検討致しました。
イ 今回の大会では専門委員会での研究報告とは別に, 国際コンファレンスとして「自動車, 船舶, 航空・宇宙機器などにおける溶接技術の展望」をテーマに研究発表と討論が行われ, その成果は船舶・輸送機器分野のみならず今後広く溶接工学の発展に大きく資するものと期待されます。特に, 船舶海洋分野の製品はその製作工程において箱体・躯体を接合することが基盤技術であり, 生産工程の15〜30%を占めていることから, 国際コンファレンスにも多数が参加しました。
ウ 日本が溶接技術先進国として期待されている国際的役割も極めて大きくなってきています。たとえば, IIWの前会長には日本溶接会議理事長が選任され(任期1996〜1999年), IIWの運営をリードし, 溶接関連技術開発の促進並びに世界への普及に貢献してまいりました。今回, 日本がIIW年次大会の場を提供し大会の活性化を支援することは, 溶接・接合技術の国際的向上に寄与するものであります。加えて, 本大会では, 東南アジア諸国への溶接技術の普及・振興を図る為に, 東南アジア諸国の代表者を日本に招聘致しました。
今後, 日本が科学技術創造立国として発展するためには, 溶接・接合工学及び関連技術の更なる向上は不可欠な要素であり, 本大会は, 日本の多数の研究者・技術者にとって極めて有効な刺激となり, その成果の波及効果が今後期待されます。
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