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II 九州はアジアとの経済振興で何をしようとしているのか
●これからの日本と中国との経済関係
 ご承知のとおり、ヒト、モノ、カネ、情報という経営の4要素の中で、今まで日中貿易というのは非常に一方通行の関係でした。
 モノについてはユニクロ化という言葉が流行したように、安いモノを中国で作って日本に大量に持ってくる。衣・食・住、すべてそうです。カネにつきましては、日本の企業はどんどん海外に出て行って空洞化してしまい、資本がどんどんアジアに出て行く。ヒトについても一方的に日本の観光客やビジネスマンが中国に行くばかりで、日本は中国人にはなかなかビザを出さない。日本は来づらい国だということでした。情報については、どちらかというと私共は中国の情報を収集することばかりに一生懸命でした。
 これは一方通行じゃないでしょうか。これからの日本と中国、これからの九州と中国の関係では、逆方向のこともやりましょうということを、私は4〜5年前位から訴えてきた訳です。
 つまりモノに関しましては、九州で作ったモノを中国で売る。向こうで作って売るんじゃなくて、こちらで作って中国へ輸出するということを実践しております。
 カネにつきましては中国やアジアの企業を九州に誘致してこようというお手伝いをやっております。
 ヒトについては、今後は日本の少子高齢化対応ということで、多分ワーカーも入ってこざるをえない状況になってきます。今はまだワーカーとまではいきませんけれども、観光誘致、ビジネスマン誘致のお手伝いをしております。
 情報についてもこの3つのことで、「日本に来て下さい」「買って下さい」と言うのに、中国情報ばかり収集するのはおかしいと思っています。私が一番大切だと思うのは自分の港や地域をどうやって中国にアピールするかということです。情報の発信がこれから大切だというのが、私の強調点でございます。
 
●アジアに広がる九州の可能性
 九州というのはアジアに対して可能性があることを信じて、私は90年からずっと福岡で活動しています。九州の対アジアの物流インフラというのは日本一素晴らしいものだと私は考えているわけです。港湾、空港、各地を結ぶ高速道路、新幹線、光ファイバー、こういうものの、いわゆる橋が中国大陸、韓国と目には見えませんがつながっているのです。
 問題はその見えない橋に、何を乗せて運ぶのかということです。せっかく橋が架かっているのにヒト、モノ、カネや情報をどうやって乗せていくのか。特に九州の方から乗せていくのにどうするのかということを、自治体の皆様方と一緒に実践しているというわけです。そういう意味でハードの整備とソフトの振興、経済振興は車の両輪だということを常に私は考えさせられているわけです。
 今の双方向の交流をやりましょうと、私がここ2、3年特にがんばっているのが九州の地場産品、農産品、水産品、半導体、素材、建材、技術などを中国に輸出したり、アジア企業の誘致や、観光客の誘致を、自治体や企業の方々といろいろ実践しています。
 
●アジアにおける日本の食品
 具体的な事例として、食品と農産物についてご紹介したいと思います。
 中国に日本の食品メーカーがどんどん出て行っています。上海の南の浙江省の杭州という町ですが、船のリーファーコンテナで、きのこ、野菜、半加工品を毎日、日本の大手スーパーに向けて出資しています。
 生鮮品だけではなくて加工食品、特に冷凍食品も、山東省青島を基点とします各地に、日本の食品企業がズラリと出ているのはご承知のとおりです。大量の水産品、農産品、加工食品が青島から日本、特に九州に大量に輸出されてるというわけです。
 こういう形で、中国で売るというよりは主に日本向けの商品を開発しています。日本の商社だとかコーディネーターが種、肥料、農薬、機械から技術まで持ち込んで向こうで作って、日本に輸入するというモデルですが、私もこのモデルのお手伝いを15年位ずっとやっております。冷凍食品、加工食品、素材だけじゃなくて、ロールキャベツとか電子レンジ向けのお弁当の素材、居酒屋で出されるものまでほとんどすべてを中国で作っているという状態です。
 
図9 日本向け生鮮野菜の集荷(浙江省杭州)
 
図10 中国の農産物加工風景(山東省青島)
 
●中国で進む「食の安全・安心」
 こんなお手伝いをずっとしていましたが、2001年をピークに大量の農産物が入ってきまして、2002年に冷凍ホウレンソウをきっかけに残留農薬の問題が発生しまして、急ブレーキがかかったという訳です。
 ところが、それがいわゆる藪の蛇をつつくことになりまして、トレーサビリティとか食の安全ということは、むしろ中国の方が対日向けには対応が早くて、オーガニックや減農薬農業が、日本ではなくて中国の方で進んでいます。
 この写真は、雲南省麗江という中国の奥地なんですが、全部日本向けのインゲン豆の畑です。見てびっくりいたしました。広い土地に完全無農薬の食料を作っているわけです。ちゃんと土作りをして連作障害を起こさないように、3つに分けて毎年毎年違うものを植えており、化成肥料、農薬を使わないのです。現地の農民の人に聞いてみたら、こうやってオーガニックで作るものを、普通に作るものと比べても、彼らのいわゆる元手になるお金というのは全く同じだという非常に安い値段で売られています。
 こういうことが少しずつ展開しているのです。その中で九州の各港も逆に検疫が厳しくなるということで非常に神経を尖らせています。
 
 ところが、九州は今年4回台風がきました。新潟でも地震があったために農産物が非常に高騰したということで、またいつの間にか中国からの農産物の輸入が増えています。
 
図11 日本の生鮮野菜の輸入動向
 
図12 中国のオーガニック農場(雲南省麗江県)
 
 またFTA(自由貿易協定)などの自由化を睨んで、日本の農産品を中国に売るということもありまして、どんどん貿易障壁が低くなりつつあります。
 東アジアは台湾、中国、香港も含めて自然災害の多い所で、相互補完の考え方がますます強くなって、こういう生鮮食品に関してもどんどん垣根が下がっていくということです。







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