表紙絵(若戸大橋と港)及び挿絵
森田正孝 作 日展会友、日洋会委員、熊本県美術協会会員、熊本県美術家連盟委員
Foreword
九州新幹線開業と観光振興
田中 浩二
財団法人 九州運輸振興センター 会長
九州旅客鉄道株式会社 代表取締役 会長
今年3月13日に九州新幹線が開業して8ヶ月が経過した。開業前の予想を大きく上回る数のお客さまにご利用頂いており、まさに嬉しい悲鳴をあげている。もちろん、開業景気の面はあるが、例えば、開業半年間の利用者数をみると、九州新幹線は164万人で、前年の在来線特急と比較すると2・4倍という実績をあげている。ちなみに、1997年10月に開業した長野新幹線や2002年12月の東北新幹線八戸開業による開業半年後の利用者数は、前年同期の在来線特急と比べると約1・5倍であったことからも、そのインパクトの大きさは明らかだ。
今回の九州新幹線の開業は、鹿児島ルートの南半分、新八代から鹿児島中央までの127kmである。しかし、半分とは言えども、これまで在来線特急つばめで最速でも3時間40分かかっていた博多〜鹿児島間は、2時間10分と実に1時間30分もの時間短縮を実現し、九州の交通地図を大きく塗り替えた。さらに博多から全線開業すれば、同区間は1時間20分で結ばれることになる。通勤圏と言っても過言ではない。
振り返ってみると、山陽新幹線が博多まで開通したのが昭和50年。それからすでに29年の歳月が流れている。さらに振り返ると、この鹿児島ルートが基本計画として決定されたのは、昭和47年6月であるから、それから数えると優に30年以上経過したことになる。新幹線というものが、計画から実現までに如何に長い期間を要するかということが分かる。
九州新幹線整備で、これまでの新幹線にない特徴の一つが、東京からの延伸ではなく、南半分が先行開業したことだ。そのため、「鹿児島ルートは、なぜ博多からの延長ではなく、南半分が先に開業することになったのか」と質問されることがよくある。模範解答は、「南半分の方が時間短縮効果が極めて大きいから」というもの。時間短縮については先述のとおりであるが、この区間は、明治の終わりから昭和の初めにかけて建設された鉄道であり、海岸沿いに曲線が大変多かった。新幹線の建設基準は半径4,000m以上であるためほぼ直線に近く、この区間だけで実キロで37kmも短くなった上に、スピードは最速時速130kmから260kmになったのだから、時間短縮効果も大きいわけである。模範解答以外の回答はと聞かれると、口ごもることになるが、まあ、地元鹿児島の誘致活動が極めて熱心だったということであろう。
これまでにない中抜きの形での開業ということで、全線開業までの間、新八代駅で在来線特急「リレーつばめ」と新幹線「つばめ」を乗り換えていただかなければならない。乗り換えの際の抵抗を如何に少なくするか、会社としても知恵のだしどころであった。そこでどうしたかと言うと、新八代駅の約1km手前(博多側)から新幹線ホームにつながる新しい線路(連絡線)をつくり、同一ホームで相互の乗り換えができるようにしたのだ。また、本来であれば在来線特急、新幹線それぞれの乗車券・特急券、都合4枚のきっぷが必要なところを、1枚のきっぷでご乗車いただけるようにも工夫した。ホームには案内係の女性社員も配している。余談であるが、国土交通省が、鉄道に対する国民の理解と関心を深めるとともに、鉄道の今後一層の発展を期することを目的として、平成14年に「日本鉄道賞」という表彰制度を設けているが、今回の新八代駅での同一ホーム乗り換えときっぷ1枚化の実現が評価され、平成16年の「便利で魅力ある鉄道をめざして」部門で同賞を受賞させていただいた。
さて、九州新幹線の開業は、JR九州にとってはもちろんであるが、九州にとっても非常にインパクトの強い出来事だ。特に先行開業した鹿児島を中心に、南九州地域においては開業の影響が随所に見られ始めているようだ。例えば、鹿児島市内やお隣りの薩摩川内市内における新規のビジネスホテルやマンション建設ラッシュなどはその一例だ。しかし、私は、それにも増して大きな影響が表れているのが観光業界ではないかと思う。
効果を定量的に示した一例を紹介する。鹿児島地域経済研究所がアンケート調査をベースに九州新幹線が開業後3ヶ月間に鹿児島県に与えた経済効果を算出した。その結果、直接効果で26・5億円、波及効果まで含めると46億円程度の増収効果であったと試算されている。また、日銀鹿児島支店が地場企業100社を対象に「九州新幹線部分開業に伴う影響度調査」を行った。新幹線開業が「プラス効果」と回答した企業数から「マイナス効果」と回答した企業数を減じた数は、開業前は全体で「13」であったが、開業直後の4月には「51」、開業半年後の9月には「65」とプラス効果は徐々に高まっている。業種別にみると、「観光サービス」が開業前の「0」から9月時点では「79」、同様に「宿泊」が「16」から「80」と飛躍的な伸びを見せている。この結果からも観光業界への影響の大きさがうかがえるだろう。
言い古されてはいるが、九州は、海・山・島といった自然、古からの歴史や文化、おいしい食べ物、都市型のアミューズメントなどなど、多種多様な観光資源に恵まれた地域だと感じる。余談だが、昭和62年の国鉄分割民営化に際し、私は出身地である九州に赴任することとなった。私にとって九州は故郷であったのだが、私の家内は東京の出身、九州には縁もゆかりもない。当初は、遠い異国・九州への赴任を必ずしも快く思ってなかったようであるが、それから17年が経った今、私も家内も九州を離れたいとは毛頭思わない。むしろどこに行っても「人、人、人」の東京での生活に今さら戻りたくない。それぐらい九州は、中にいる人間にとっては住みやすく、そして、外から訪れても面白いところだと思う。
しかし、残念なことに、九州は持てるポテンシャルをまだまだ十分に生かしきれていないように感じる。器用貧乏という言葉があるが、九州はなまじいろいろな資源があるだけに、逆に「九州といえばこれ」という「売り」が弱い気がする。例えば、北海道といえば「雪」、沖縄といえば「海」、誰の頭にもこれらのイメージが思い浮かぶのではないか。実際、九州経済調査協会はじめ複数の調査機関が行ったアンケートからもこの傾向は顕著であり、九州は北海道や沖縄と比べてイメージが弱いという結果が出ている。もちろん、これは前述のとおり、九州はいろいろな観光資源を持っているということの裏返しとも言えるのだが、それでもやはり外の人に九州を知ってもらい、九州に足を運んで頂くには、「九州といえばこれ」という明確な「売り」を創り出し、磨き、そして情報発信することが必要ではないか。
観光振興というのは、何も今に始まったことではなく、特に地方においては、昔から地域活性化策の一つとして盛んに取り組まれてきた。しかし、県、市町村、民間のキャリアや旅行会社と、それぞれがバラバラに取り組んでいたため、例えば自治体の取り組みは、一過性のイベントや単なる観光ブースでのPRやポスター掲示のレベルに留まっており、民間の旅行商品とのタイアップなどにはあまりつながっていなかった。今後の観光振興を考える上では、バラバラであったパワーを集約し、「九州」という商品を、全国そして東アジアなど諸外国に売り込んでいかなければならない。
このような状況のなか、「九州はひとつ」の理念のもと、地域の自立的かつ一体的な発展に向けて、官民が一体となった「九州地域戦略会議」が2003年10月に設立された。その中で、まず取り組むべき課題として観光戦略にスポットを当て、その検討主体として「九州観光戦略委員会」が2004年1月に設立され、私がその委員長を仰せつかった。限られた時間のなか、非常に活発な議論が重ねられ、10月に4つの戦略と49の施策を盛り込んだ「九州観光戦略」を打ち出した。
周知のとおり、これまでも観光振興に関しては、数多の提言はなされてきたが、提言レベルに留まっていたのが現実だ。今回打ち出した戦略もいかに実行していくかが重要となる。むしろこれからが正念場だ。実行主体となる「九州観光推進機構」には大きな期待をしている。
人口減少に突入するこれからの時代、地域活性化の一方策として交流人口の拡大は重要な視点となってくる。その一つの手段が観光入込み客の増大であると考える。FTAの進展などによるボーダレス化の流れは今後ますます加速することは間違いない。九州が一つとなり、多くの人を九州に呼び込み、九州内をまわって頂くことが重要である。その意味でも九州新幹線の一日も早い全線開業とともに、他の交通機関などとの緊密な連携を図るなど、キャリア企業として当社も協力を惜しまないつもりである。
今回の九州新幹線の開業が観光振興の一つの契機となってほしいものである。
Kyushu Transport Colloquium
クルーズの現状と今後のマーケット展開について
クルーズコーディネーター
伊豆 美沙子
日時 平成16年9月14日(火)
場所 ステーションホテル小倉(北九州市小倉北区)
主催 (財)九州運輸振興センター
皆さん、こんにちは。今日はようこそお越しくださいました。会場はまだお暑うございます。どうぞ、上着などお取りになって、リラックスしてお聞きいただきたいと思います。
タイタニック
今から90年以上前、1912年4月15日、その将来を最も期待された彼女は、はかない短い人生を終えました。90年以上経った今も彼女の名前は、日本はおろか、世界中の人たちが心に刻む、その名前はタイタニックです。サウザンプトン(英)を出港して5日後にタイタニックは沈んでしまいました。
しかし、彼女は現在まで、私たち客船業界に携わる者だけではなく、深く人々の心をとらえました。
私たち客船業界の人間にとっては、タイタニックという言葉を口にすることはタブーだったんです。ところが、レオナルド・デカプリオの映画(「タイタニック」1997年公開)が出来て、一躍タイタニックは大衆の心をつかみました。まだ、映画を見てなかった頃、クルーズの説明会に行くと必ず「ところで、その船上ではタイタニックができますか」という質問がきたんです。「タイタニックができる」のかというのは、一体どういうことなのか。まだ、映画を見ていない私は、「タイタニックができる」というのは、沈没しやすいということかと思ったんですが、たいていの人がお尋ねになったのは、船の舳に行って手を広げて、海の風を感じるというか、体感できるかという質問でした。ですから、あの映画は、およそ客船には興味がないという人達の興味も引くことが出来まして、客船業界にとってはひとつのマイルストーンでした。
この「タイタニック」のもたらした影響は多々ありまして、1つは、今年の1月に就航しましたクイーンメリー2は、この「タイタニック」の大ヒットを追って、キュナードという会社が世界一の客船を作ろうというふうに決定して作られました。大方、船主と奥さんの間の会話で「ウチの船、今何番目」という話があって、実は今、クイーンエリザベス2(キュナード社)というのはベスト10にも入らない、数えるのが難しい位の船になってしまいましたので、世界一の客船を作ろうということになったのではないかと思います。
もうひとつは、タイタニックが沈んで2年後の1914年、欧米諸国を中心とする13ヶ国の先進国が集まって、「SOLAS」という「海上における人命の安全のための国際条約」が結ばれたんですね。タイタニックの沈没という事故があったことによってはじめて、今まで船体の美しさを重視するあまりに、絶対に沈むはずがないといわれた船に、その人数に見合った分の救命ボートをつけますと、船体の美しさが失われるということで、救命ボートはつけられていなかった。もしくは救急に関するシステムも確立されていなかった。ところが、タイタニックのために1500名余りの人命が失われた。そのおかげでというのはおかしいですが、現在まで、早い段階から海では救助のシステムが厳しく守られています。
ということで、タイタニックは、船というのはただ単に乗り物というだけではなく、いろんな人の人生、想い出、ドラマや喜怒哀楽を一緒に積んで走っているものだということも、たくさんの人に教えてくれました。
世界一周、何を持っていきますか
今日は、船に関しては関心のある方ばかりがお集まりかと思いますので、私から最初にお尋ねしたいと思います。
皆さんが1ヶ月に、博多を出港する世界一周100日間クルーズに当選いたしました。会社も行っていいよと許可がでました。100日間のクルーズの時に、これだけは必ず荷物の中にしのばせて持っていきたいとお考えになるものがございましたら、是非教えていただきたいと思います。
「すみません、何を持っていかれますか」
「梅干と米でしょう」
「梅干と米ですか。貴重なご意見、ありがとうございます」
「100日間のにっぽん丸世界一周クルーズです。何を持っていかれますか」
「自転車を」
「それは寄港地でお乗りになる」
「はい」
「何を持っていかれますか」
「たばことライターですね」
「たばことライターでしたら、ちなみに外航でしたら船内でお買いになった方がお安いと思います」
「何を持っていかれますか」
「日本酒」
「日本酒ですか。ありがとうございます」
「何を持っていかれますか」
「枕」
「枕ですか、枕がないと眠れないとか」
「この前困ったから」
「この前と言われると、お乗りになったんですか」
「アラスカクルーズに」
「なんという船にお乗りになったんですか」
「ダイヤモンドプリンセスです」
「ダイヤモンドプリンセスにお乗りになったんですか。すみません、皆さん。今日の講師の役割をかわりたいと思いますが、いかがでございますか。どうしてダイヤモンドプリンセスを」
「豪華だから」
「お二人で。それは羨ましい」
ダイヤモンド・プリンセス。皆さん、ご存知でしょうか。長崎の三菱ドックで日本の造船業界を代表する一隻が生まれました。この間、社長さんのお話がありましたが、「私達はこの事故を逆にいい方にとりたい。このことによって、たくさんの人達がダイヤモンド・プリンセスに非常に注目してくれた。そしてたくさんの日本人のお客さんたちが是非応援したいと言ってくれた」
私が説明会に行きました時も、キャンセルされるのではと随分心配したんですが、「いえ、必ず乗ります。就航する時には教えてください」ということで、たくさんの応援を日本の追い風として出港していきました。
ダイヤモンド・プリンセスは、皆さん、比較的リーズナブルで乗れるんです。客船というのはインサイド、アウトサイドというのがありまして、インサイド、窓がない部屋は比較的安いんです。そうするとですね、エア込みで18万円位の7泊8日のアラスカクルーズに乗れるんですね。
船の値段というのは、実はキャビンから見える外側の海の景色の良さによって、大きく変わります。ですからインサイドが一番安いんですね。その次は窓が比較的小さい、丸窓の部屋。その次は四角窓の部屋。その次はもっと窓が大きい部屋。そしてベランダがついている部屋が一番高い。ベランダがあると、隣の部屋と遮ってありますので、イルカやくじらがきたといった時、おそらく一般のお客さんだとちゃんと服を着て、靴を履いてオープンデッキに行かないといけない。ベランダがついていますと、たとえ裸であっても自分のキャビンから、イルカやくじらを眺めることが出来るんです。
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